第4話~刺客現る~①
「あー美味しかったー!またみんなで来ようねー!」
メグが能天気に言う。
「そうだね。メグと内木さんとならまた来たいですね」
「私も輝木以外とならまた行きたいですわ」
本当に気に入らないヤツだこいつ……。
ですわーなんて気取っちゃってさぁ。
お嬢様ってツラじゃないクセに全く。
「2人とも同い年なんだし仲良くしなよぉ。
ゲームの中ではあんなに息ぴったりだったのにさぁ」
ゲームはあくまでゲームだったんだよメグ。
「もー! すぐそう言う顔するー! ……あ、じゃあ私こっちだから! じゃあねー!」
メグが別の道に行った途端、私たちから会話が消えた。
当然っちゃあ当然だけど。
――その時、二つの影が後をつけていたことに、誰も気がつかなかったのだった。
「へー……。アレが津場井さんを殺ったっていう輝木光なんだ。
なんかしょぼそうなヤツだね」
「そうだねー。って、津場井さんは死んでないけど……。
まあ……あいつがどんな超能力者にせよ……」
「私たちの敵じゃないよ! ねー!」
「ねー!」
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キツすぎる。
毎日毎日イヤになる。
腹筋100回、腕立て100回、スクワット100回、ダッシュ30本、マラソン5kmにボクササイズ。
そして、様々な護身術。
こんなの絶対おかしいって。
……え?
割と普通のトレーニング?
黙らっしゃい。
そんなわけで今日も今日とて走り続けてるワケですよ。
「い……いつまで続くんだよこの生活ぅー……」
「ふ……2日目に国井さんがおっしゃってたでしょ……。
50メートル走7秒、走り幅跳び5m50cm、1500m走4分30秒、握力40kg、背筋120kg……これらをクリアするまでですわ……」
「お……お前には聞いてない……」
「では静かに走りなさいまし……」
ちなみにこの5項目のうち私がクリアしたのは50メートル走だけ。
足の速さには昔から自信があるからね。
しかし、腹立たしいことに赤井はすでに3つの項目をクリアしているようだ。
負けていられない。
「輝木、遅い!」
国井が叫ぶ。
今日は休みだから訓練を見に来たらしい。
勘弁してください。
5キロとかマジ無理です。
私はスタミナない系の人なんです……。
スピードタイプなんですよ。
「本日はここまで。各自、気をつけて帰るように」
まるで軍隊のような生活だ。
いや、軍隊がどんな生活送ってるのか知らないけどさ。
「今日で1ヶ月だねー。私達が出会ってから。結局、握力しかクリアしてないよー」
メグが話しかけてくる。
「私も短距離しかクリアしてないからなぁ。
幅跳びは少し練習すれば行けそうだけど、他のはなぁ……。[
特に1500mは絶対無理だ……。
はぁ……。この生活はあと何ヶ月続くのやら……」
ため息混じりに返す。
「でもこの生活、私嫌いじゃないんだー!
学校の授業が全部体育になったみたいでさ!」
何というポジティブシンキング。
私は授業の方がはるかにいいぞ。
まあ、メグはまだ高校生だもんなー。
大学の楽さを知らないから、そんなことを言えるのだ。
「それにみんないい人たちだし!
……ヒカリちゃんはまだモエちゃんと喧嘩してるの?」
どうしても合わない人間というのはいるものだと思う。
私にとってそれが赤井だ。
あれから何度か会話したが、最後には必ず罵詈雑言の応酬になっていた。
メグはよくあんなヤツと仲良くできるなと思う。
聖人君子か何かなのか。
「何かのきっかけで仲良くなれると思うんだけどなぁ……。
あ、じゃあ私こっちだから! また明日ー!」
聖人君子というのは、あながち間違ってもいない。
底抜けに元気でお人好しでいいヤツ。
それが水野恵という人間だ。
私や他の部隊員にとって、癒しのような存在になっている。
「……あ、あの、私は今でも息のあった2人を忘れられないの……。ゲームで出会った頃を……」
内木さん……。
いたんですね……。
私とメグの後ろを歩いていたので、すっかり忘れていた……。
「私もモエちゃんとヒカリちゃんは仲良くなれると思うなー……なんて」
2人とも、無茶言わないでくださいよ。
1ヶ月経っても犬猿の仲ならもう無理ですって……。
……‼‼
アレは!?
銃口!?
「危ないっ! 伏せて!」
「うわっ」
内木さんに抑えられて地面に這いつくばった。
なんという力だ。
さすが、課題を2つクリアしているだけありますね。
……って今はそんなことより!
「あちゃー。外しちゃったかぁ……」
「ドンマイ、ドンマイ! 次は当てられるよ!」
「ありがとう! よし、次こそは命中させるよ! よーく狙って……」
何堂々と私たちのこと狙ってるんだよ。
バカなのか?
磁力で銃を奪い取る。
「あーひどい! なんてことするの⁈」
「大丈夫! まだ替えの銃はあるから!」
こいつら……マジでバカなのか?
いや、待てよ……。
あいつらが本当のバカじゃないとしたら……!
「逃げましょう! 内木さん!」
奪わせたのはワザとだ!
じゃなきゃあんな派手に出てくる必要はない。
恐らく次の銃は鉄製じゃない!
撃たれたらそこでゲームオーバーだ。
「すごーい! よく気がついたね!」
「でもそのくらいじゃ、私たちからは逃げられないもんねー!」
「ねー!」
うるせえ。
雑居ビルの隙間から様子を伺う。
……あいつら、恐らく……というよりほぼ確実に、カナリアの会の超能力者だ。
なんでこうも寄ってくるんだ。
月イチで必ずエンカウントする仕様かよ。
国井さん……危険に晒すのは回避するって言ってたじゃないですかー!
「……ッ……ハァ……ハァ……」
「内木さん……その左腕……」
「大丈夫。かすっただけよ……。
今会話するのは危険。
奴らに場所を悟られないようにしないと……」
「そうですね……。
あいつらがどんな超能力者かすら分からないですもんね……」
とりあえず内木さんの左腕を縛って止血する。
あいつらは……よし、追ってはきてないな。
……にしても、さっきからなんだか暑い!
今は冬のはずなのに……。
「全く……こんな街中で暗殺だなんて、どうかしてますわね」
この声にこの気取った口調は……!
「何しにきたんだ……赤井……」
「銃声が聞こえたから来てみれば、アナタがいるなんて……とことんツいてないですわ。
せっかく今日は珍しく別々に帰っていたのに」
「そりゃどうも。
ここは危ないからさっさとどっか行きなよ。
あと能力解除しろ。暑いんだよ人間暖房機」
「残念ながら、そういうわけにもいかないようですわよ?」
赤井が指す方向にはさっきの2人……。
あいつら、銃を一般の人に向けて次々と撃ってる!
「ほらほらぁ! 輝木! お前から出てこないとこの人たちみーんな殺しちゃうぞー! ねー!」
「ねー!」
なんてことを……!
私を殺そうとするならまだしも、いやそれも許せないけども……とにかく関係ない人も犠牲にするなんて……!
こいつら、腐ってる!
「輝木ならいませんわ。この惨状が見えない位置にまで逃げてしまいましたもの」
って……はぁぁ!?
あのバカ!
何出て行ってるんだ!
しかも、勝手に私が逃げたことにするんじゃない!
「へぇー。ご親切にどうも!」
「君は輝木のお友達かな? 友達を置いて逃げるなんて、輝木は薄情なんだねー」
いやいやいや。
薄情者なのは認めるけど、コイツは断じて友達ではないぞ。
そこは間違えないでいただきたい。
「私たちは絶対そんなことしないもんねー!」
「ねー!……ねぇコイツどうする? 殺す?」
「ふーちゃんに任せるよ!」
「じゃあ、念のため殺しとこっか」
「オッケー! 死んじゃえー!」
拳銃は物理攻撃。
思い出すだけでハラワタが煮え繰り返るが、赤井に物理攻撃は効かない。
さて、どうなる?
間髪入れずに、銃声っ!
赤井は……。
「……! な、何こいつぅー!? 弾当たらないよ!? ていうか消えた!?」
案の定、弾丸を回避した!
「さてと……。覚悟はいいですわね?
罪のない人たちを傷つけ……命さえ奪った。
この代償は高くつきますわよ」
「うわぁ! こないでよー!」
銃を乱発するテロリスト。
当然だが赤井には当たらない。
「入院数ヶ月の火傷で許してあげますわ! 燃えなさい!」
「いやぁぁぁーー!!」
炎がテロリストを包む。
ふう……あいつらの超能力も分からないまま勝負アリみたいだな。
……まあ、流石に強いよな、赤井は。
「なんちゃってー!」
!
燃やされたはずのテロリストがケロッと言った。
「どうだったかな? 私の名演!」
「やるね! さすがトラちゃん! よっ! 主演女優賞!」
どうして炎が効かない……?
ってそもそも炎消えてるじゃないか!
なんで炎を消したんだ赤井!
「遠距離から攻撃できないのならば……近づいてから攻撃するまでですわ!」
え、遠距離から攻撃できない……?
もしや、それがあいつらの超能力なのか……?
「ぷっ」
テロリストのふーちゃんと呼ばれてた方が笑った。
あいつら、まだ何かを隠してる!
赤井が危ない!
最悪、何かあれば私が何とか……。
「…………」
………。
………⁇
え、え?
奴らの5メートルくらい手前で赤井が立ち止まった……?
あいつらの策略を見抜いたのか……?
「……………………」
いや、違う。
ただ棒立ちしてるだけだ!
何やってるんだよ!
殺されるぞ!?
くそっ!
もう私が行くしかない!
「ばいばーい! 名前も知らない超能力者さん!」
銃をトラちゃんとやらが構える。
間に合えっ!
「おらぁぁぁぁ赤井いいィィ‼‼」
日頃の恨みだ。
思い切り赤井にタックルする。
結果、ヤツらの放った弾丸は雑居ビルの奥へと消えていった。
「な、何するんですの輝木! 危うく頭を打ち付けるところでしたわ!」
「助けられて何言ってんだよ! てかなんであんな所で棒立ちしてるんだ!」
「あの2人は……あれ、誰でしたっけ?」
「は? さっきまでお前を殺そうとしてたヤツだろ!」
とにかく赤井の様子がおかしいので、連れて一旦逃げる。
ってあいつらまた撃ってきた!
「赤井! 弾丸を蒸発させろー!」
「え、あぁ。はい……って指図するんじゃないですわ!
とっくのとうにやってますの!」
そう言いつつ弾丸は消えていく。
ってか熱いっつーの!
こっちにちょっと熱を飛ばしてきやがった、コイツめ……。
「……思い出してきましたわ。あの2人組、カナリアの会のテロリストですわね」
「今更何言ってるんだよ。そんなのもう分かり切ってるだろ」
「……違いますわ。私の話を聞いてくださいまし。
あいつらの超能力……それはそれは厄介なものですわ」
「あいつらの超能力が分かったのか⁉ それはでかした! でも今は……逃げの一手だ!」
「それには同意ですわ!」
珍しく赤井と息が合う。
銃弾を回避しながらさっきとは『違う』雑居ビルに逃げ込む。
さっきの雑居ビルには手傷を負った内木さんがいる。
むやみに敵を引きつけて、危険に晒すわけにはいかない。
---------
「あいつらの超能力についてお話ししますわ……」
雑居ビルの奥でこそこそと話す。
あいつらは……、外で私たちを探してるようだ。
「端的に言うと片方……トラちゃんと呼ばれた方ですわね、は『遠距離から攻撃の対象にできない』超能力。
もう片方のふーちゃんと呼ばれた方は『近くの人間が敵対できなくなる』超能力ですわ。
これが、実際に私が先ほど体験した内容ですの」
「って言うとつまり……」
「ふーちゃんに近づけば基本的にジ・エンドですわ。
だから遠距離から狙う必要がありますの」
「でも、トラちゃんの超能力で遠距離からの攻撃はできない……」
「1人の能力は大したことなくても、お互いで補ってるワケですわね」
「……それにしても、対象にできないって……。
遠距離からあいつらを狙うとどうなるんだ?」
「実際にやってみればよろしいですわ。
最初に奪った銃があるでしょう。
それで外のあいつらに銃口を向ければよいですわ」
「ほー……」
実際にやってみる。
‼
あ、あぁぁぁ‼‼‼
ヤバイこれは!
給食のお盆を引っ掻いた音の不快感を100倍に濃縮してぶちまけたような感覚っ!
嫌な汗が頬を伝う。
こんなんじゃあいつらに攻撃なんてとても無理だ‼
思わず銃を下ろす。
……ふう、収まった……。
「ハァ……ハァ……。最悪の気分だ……」
「……体験できたようですわね。遠距離攻撃は不可能と見ていいでしょう」
「近距離も遠距離も無理となると……あいつらを倒す方法なんてあるのか?」
「だから、言ったでしょう。『厄介なものですわ』と。あいつらは差し詰め……」
『最強の2人』
「やべぇな。そりゃあ………」
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