第3話~始動~②
……お互いの距離は20mくらい。
赤井さんの超能力は全くもって不明。
未知数の相手に対して不用意に近づくのは危険だろう。
このまま距離を保って攻撃するべきだな、うん。
さて、ここから攻撃するにはどうしたものか。
……ちょうど赤井さんの頭上に蛍光灯がある。
あれに強い電気を流して破裂させる。
コンセントは……よし、すぐ横の壁か。
「アナタが言ったんですからね! 悪く思わないでくださいねっ‼」
パァンと音を立て、狙い通り蛍光灯が破裂した。
その破片は赤井さんの頭上へ降り注ぐ!
大丈夫!
多少のケガなら水野さんが治してくれるさ!
これにてゲームセット!
「……なるほど」
――い、いや……!
ゲームセットしていない⁉
てかそもそも当たってない……!?
……な……何が起きた⁉
「空中で破片が……全て……消えた……のか……!?」
一体何が……?
これは赤井さんの使う超能力によるものなのか……?
くっ……あの位置に蛍光灯は1つしかなかった。
今の攻撃はもうできない。
こうなったら床や壁から直接かつ全力で電気を流して、卒倒させるしかない!
近くの床に手を触れて……。
「熱っ!?」
なんだこれ!
思わず手を離す。
床が真夏の車のシートベルトの金具みたいに熱い!
これじゃ触って電気を流すなんて無理だ!
「今の挙動を見るに……アナタの超能力……電気を操る……とでも言ったところでしょうか。
……だからあんなに手馴れてたんですのね」
「い、いや!? 違いますけど!? ぜ、全然違いますけどっ!?」
……。
バレたぁー!
「電気を流すには、直接物体に触れる必要があるみたいですわね。
ですが、すでにこの部屋にアナタが触れられるものはありませんわ。
全て100度以上に熱されていますもの」
……今ので赤井さんの超能力に大体の見当がついた。
おそらくは、熱を操る超能力だ……。
消えたように見えた蛍光灯の破片は、熱されて蒸発したんだ。
……他に有効な飛び道具があったとしても、破片と同じように彼女には届かない。
しかし、こちらから近づくのは論外。
ガラスを蒸発させる温度なんて、まともに食らえば一瞬で焼肉になってしまう。
…………これ、打開策なくないか?
「どうすりゃいいんだ……?」
プロの暗殺者を退けたこの私をもってしても、有効な対抗手段が思いつかない……。
「…………」
…………そうだ!
逆にこの圧倒的な高温を利用する!
うふふ……私ってば天才かもしれないぞ。
『バリン!』
「⁉ 照明を……?」
とりあえず策を悟られないように撹乱するのだ!
そのために部屋の全ての照明を切る!
電気製品のスイッチの切り替えくらいなら、触れずにできるのだ私は。
そして次の段階へ進む。
部屋にある金属製のもので唯一私が触れるもの……私が身につけているカバンやベルトの金具を赤井さんに向けて『投げる』。
ただ投げるだけだ。
しかし、それでも。
「なんのつもりですの……!?」
相手は防御せざるを得ない。
未知の超能力者が投げた物を自分に近づけるなんてリスクは、誰だって回避したい。
「なんだか分かりませんが、防御ですわ。私に飛び道具は……」
予想通り金具は赤井さんに触れる前に消滅した。
しかし、冷静に考えると金属を溶かすってヤバい高温だな……。
まあいい!
今はその高温がアダとなるのだから!
私の目的は奥のクーラーボックス、赤井さん、そして私。
これら全てを『一直線に並ばせる』ことだったのだ!
クーラーボックスを思い切り私の方に引き寄せ、背後から赤井さんにぶつける。
当然重いものを動かしたら自分も少し前に進む。
しかし、それは近くの柱に捕まることで防ぐ。
別に電気を通す目的でなければ、間に袖を挟んで触れることが出来る!
これで熱くない!
そして、クーラーボックスが……赤井さんに着弾!
「あ、飲み物を……っ! しまった! やられましたわ!」
ボックス内の飲料が一瞬にして蒸発し、体積が膨れ上がる!
そう、まるで爆発するかのようにね!
まともに食らえば大怪我さ。
勝負あり、今度こそ私の勝ちだ!
「……この姿を見せることになるとは思いませんでしたわ。
まあ、今後は味方なので、見せてしまっても問題ないとは思いますが」
「……はぁ?」
……?
……あ、あぁぁぁ‼‼
なんだよあれ!
赤井さんの体が炎に包まれて……いや、違う。
赤井さんの『体が炎そのもの』になっているんだ!
そんなのアリかよ!
明らかに超能力の範囲を逸脱してるだろ!
「クーラーボックスの飲み物で爆発させる発想は、お見事と言えるでしょう。
ですが、生憎私に物理的な攻撃は効きませんの」
ふざけないでいただきたい。
じゃあ何なら効くんだよ!
……脳裏に『降参』という2文字がよぎる……。
……いや、まだ早い!
手はあるはずだ……!
考えろ……!
考えろ…………。
………………。
……何も思い浮かばない……!
それどころか頭に靄がかかったように何も考えられない……?
「アナタの周辺の酸素を不完全燃焼で奪いましたわ。
もう、今のアナタはまともに考えることすらできないはずですの」
酸素……を……?
なんでもアリだなぁ……。
ちくしょう……。
私も、もっと強い能力だったらなぁ………………。……………。
---------
目を覚ましたら医務室のようなところにいた。
もしかして私……負けた⁉
そんな!
超絶ショック!
プロの暗殺者を負かしたこの私が……!
ぐぬぬ……!
「あら、もう目を覚ましたのですね。
ちょうどいいですわ。
14時からアナタと内木さんでの模擬訓練があるので、いってらっしゃいまし」
赤井ぃ……!
私に初の黒星を植え付けた女!
この屈辱……!
忘れはせん!
「な、なんですのその顔は……。恨みっこなしといったでしょうに……」
……ですよねー。
でも、やっぱり心にくるものがあるよ。
最終的に今までだって何とかなってきたし、最後はなんだかんだで勝つと思ってたのに……。
負けても問題ない戦いでよかった。
---------
「それでは、内木と輝木の戦闘訓練を始める」
14時が過ぎた。
……次は勝たねばならない。
内木さん、悪く思わないでくださいね!
さっきは相手を警戒するあまり移動しなさすぎた。
だから、周りの酸素を奪われて負けてしまったんだ。
あれを防ぐためには、常に動き続けなくてはならないな。
内木さんの超能力は分からないが、どんな能力であろうと動いてる相手の方が捉えにくいのは間違いないだろう。
「…………」
…………にしても……内木さんは動く気配が全くないな……。
行動まで内気なのか……?
あ、一歩前に出たぞ。
約10メートルのこの距離……そこから一体何を仕掛けてくるんだ?
「……ヒカリちゃん、ごめんね」
ごめんだって?
謝られる筋合いは……って何だ?!
喋れない!?
というより体が全く動かせない!?
「こ、これが、私の超能力なのよ。
射程距離内の人間を……このコントローラで操る能力……。
ヒカリちゃんは今、私の意のままに動くの」
そ、そんな!
じゃあ私は自分から動き回って射程圏内に入ったってことか!
とんだマヌケじゃないか!
……クソっ!
何とかこの状況を打破しないとマズい!
「もうこの状況になった時点で私の勝ちなの……。こ、こうすれば、おしまいよ」
私の右手が『私の意思とは無関係に』挙がる。
一体何をする気だ……。
「参りました」
次は勝手に口が動いた。
そして、その一言で私は敗北した。
「そこまで。今の訓練は内木の勝利」
ああぁぁ……。
そんなご無体な……。
『ガクッ』
……あ、体が動くようになった……。
---------
……私全敗じゃねぇか!
冗談じゃない!
私ってこんなクソザコだったの!?
超絶ウルトラスーパーショッキング!!
ホント、あり得ない!
昨日の私はどこに行ったんだ!?
あ、内木さんと赤井さんの訓練は、赤井さんが勝ったそうです。
炎って汎用性高すぎるでしょ……。
ずるいよ。
なんで私はこんな微妙な能力なの??
神さまとやらのケチ!
もっと当たりの超能力をよこせーーっ!
「気にすることないよー! 私たちの中で実績は1番あるんだし平気だって!」
実績『は』ね……。
水野さん、慰めてくれるのは嬉しいけど、格助詞の使い方のせいで逆効果……。
「裏を返せば実績だけで実力はないということですわね」
はうっ‼
なんてこと言いやがるこの天パー三白眼め……!
「格付けは済んだようだな。
では今後、部隊のリーダーは赤井に務めてもらう。
皆、納得してくれるよな?」
ほらぁ!
なんか国井が訓練じゃなくて格付けだったみたいなこと言い出してるし!
「君たちの中で一番強い人間がリーダーならば、誰も文句はないだろう」
つまりそれは私が一番弱いと……。
「負けてしまった者は各自反省点をまとめて3日以内に提出すること。では、今日は解散」
あー、もう……。
レポートかよ……。
大学の講義じゃないんだから。
ほんと最悪。
---------
解散後、チェーン店の回転寿司屋に私たちはいた。
水野さん……いや。メグが
「今日一緒に夕ご飯食べようよ!
同じチーム同士親睦を深める!
的な感じでさ!
あ、そうだ。みんな、私のことは『メグ』って呼んでください!」
と言ったことがきっかけです。
でも……。
「…………」
気まずいだけなのですが!
なんか喋らないと間がもたない。
「い、いやぁ参りましたよ。みなさんお強いですねぇ……」
「あ、い、いや、そんな……。
……そ、そういえばヒカリちゃんってどんな超能力なの?
分からないまま訓練終わっちゃって……」
むぐ。何たる屈辱か。
大人しそうな顔して結構毒を吐くじゃないですか内木さん。
ちょうどいい。
「では、私の超能力をお見せしましょう」
ということで、超能力を使って離れた所にあるタブレットを操作。
寿司を注文した。
これで数分後には、新幹線に乗った寿司がやってくるはず……。
「?」
だが、やってきたのはなぜか店員だった。
そして、店員はこう言い放つ。
「お会計でしょうか?」
どうやら、間違えて隣にあった会計ボタンも押してしまったようだ……。
「私は何やってもダメなんだぁぁぁ!!」
日常でも失敗続き!
私には何の才能もなかったんだよ!
「お、落ち着いてヒカリちゃん……。
今日は運がなかっただけよ…….。
私もモエちゃんも初見殺しな超能力だし……」
初見殺し?
そんなの嘘だよ。
内木さんはまだしも、赤井さんの能力は知ってたとしても対処できるようなモノじゃないじゃないか!
「うわーん! 私ももっと強い超能力が欲しかったですー!」
ずるいずるいずるい!
どうして私はちょっと電気が出せるだけなの⁉
不平等だ!
「……アナタ、そもそも今日の訓練やる気ありましたの?
ゲームの中で会った……知恵と勇気でテロリストに立ち向かった『ひかりん』と……今日戦ったフヌケが同一人物にはとても見えなかったんですけども……」
ふ、フヌケだと!
こ、こいつ……!
「同一人物なんだから仕方ないじゃないですかー。
私はあなたのように現実の超能力には恵まれなかったんですよー!」
「はぁ……。私の買いかぶりでしたわ……。
こんな方だったとは、失望です。
本当……救えないですわね。
今のアナタは、自らの実力と意思の弱さを能力のせいにして逃げてるだけですわ」
「っ! なんだとっ! お前、一度私に勝ったくらいで調子に乗りすぎじゃないか!」
こいつ、下手に出てればつけ上がりやがって!
完全に天狗になってるな。
「も、モエちゃん……」
「だって事実ですもの。事実ほど残酷で、耳の痛いものはありませんわ」
「お前の言葉が事実かどうか、今から試してやろうか! この天パーが!」
「……いいですわよ。次は少し酸欠になるだけでなくてよ。
消し炭にして差し上げますわ! このフヌケ!」
「はっ。事実ほど耳が痛いってのは本当みたいだな。
気にしてるならストレートパーマかけなよ!
ついでにカラコンでも入れるといいかもね!」
「相手の容姿を罵るしかできないなんて、情けない方ですのね!
アナタには心底ガッカリですわ!」
「はん! なんとでもいいなよこのさ――」
――ぐっ。
か、身体が動かない……!
この超能力は……。
「お、お願いします……。2人とも冷静になって……。
お、お客さん、みんなこっち見てるわよ……」
内木さん……!
止めないでください!
主人公にはやらなきゃいけない時があるんです!
脇役に舐められたままじゃあ尊厳がなくなる!
「特にヒカリちゃん……。どうしちゃったの?
そ、そんなに女の子の容姿へ攻撃するのは、その……ダメよ!」
このエセお嬢様にはそのくらい言ってやらないとダメなんですよ!
……って、え?
『パシン!』
左の頬を赤井に叩かれた。
何すんだこの天パー三白眼!
しかし、次の瞬間、私も無意識に赤井の左頬を叩いていた。
「け、喧嘩両成敗よ。これでこの話はおしまい……ね?」
「内木さんにそう言われたら仕方ないですね……。命拾いしたね、お嬢様」
ケッ。
勝ち逃げしやがって。
「その言葉、そっくりお返ししますわ」
コイツ……ムカつく!
「ねぇねぇ! この中トロ美味しよ! みんなも食べなよぉ!」
この空気でも動じないのか……。
メグ……。
ある意味あんたはすごいよ。
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