第1話~最悪の始まり~④

「まずは俺を縛るこの忌々しい罠を解除する!

そのために、俺の雷属性値をMAXに!

さらにお前たちを安全に葬るため、俺の物理攻撃力、防御力、移動速度をそれぞれ最大の255に仕様変更!」


体の自由が戻ると同時にテロリストがそう宣言する。


私の仕掛けた罠は雷属性の属性攻撃に分類される。

属性攻撃は同属性値がMAXの相手には、ダメージを与えるどころか吸収されて回復させてしまう!


「イヤァっ‼」


テロリストに斬りかかっていたハズのウッチーさんが蹴り飛ばされた!

いくら強いプレイヤーでも文字通りの『チート』には無力だというのか!


「無様な。お前たちユーザーではどう足掻いても俺には勝てない!」


ヤツはウッチーさんに近づき止めを刺そうとする!


クソッ、やらせるものか!


「まずは1人目だ! 死ねっ!」


轟音が響く!



しかし、テロリストの攻撃は外れた。


いや違う。



――外させたのさ、この私が!


スキルの電撃を高速で回転させることにより磁力を発生させ、ヤツの体をこちらに1mほど引き寄せた!



幸いヤツの装備は鉄製のものが多かったからな。


「このスキにメグメグさんはウッチーさんを回復させてください!

HPが残っていても、大ダメージを放置すると現実の体が危ない!」


「う、うん!」


これでウッチーさんは難を逃れた。

だが、依然としてこの絶望的な状況が変わったワケではない。


そして、次から攻撃を確実に命中させるため、テロリストが標的にするのは……っ!



「電撃を応用して磁力を発生させるとは、なんてユニークな使い方だ。

だが、攻撃時にお前へ引き寄せられるのならば、お前を初めに殺せば良いだけのこと」



まさしくアイツの言う通りなのだ。


この手段で私以外への攻撃は妨害できても、私への攻撃は防げない。


アイツがこちらへ猛スピードで迫ってくる!


……!

イヤ、いいことを思いついたぞ!


敢えて電撃の回転をさらに高速にして、磁力を強化!

突っ込んでくるスピードを利用し、カウンターの蹴りをぶち込んでやる!

今の私はなんて冴えてるんだ!


そこだ!

食らえっ!


「おりゃあっ!」


しかし。



――私のカウンターは失敗に終わった。

呆然とする私の後ろでアイツの声が聞こえる。



「身の危険を感じたら、普通は近づく敵から逃れようとするハズだ。

だが、お前は逆に磁力を強くした。

だから俺はお前に策略があると直感的に理解した。

そこで、俺は咄嗟に『同じ』方法を使い、後ろへ回り込んだ。

この世界で電気を扱えるのは、何もお前だけじゃない」



同じ……。

ヤツも今、電気属性!

しかも属性値はMAX!


同じくスキルで磁力を発生させ、反発を利用し後ろへ回り込んだのか!

そして、後ろを取られたこの状況!


もうカウンター云々なんて場合じゃない!

逃げなきゃ殺される!


「もう遅い! 今度こそ1人目だ! 死ねっ!」


ヤツの攻撃が私の左肩付近に直撃した。

私の体が前方に思い切り吹き飛ぶ。


背中が焼けるように熱い……!


「グァああァァっ!!」




「――ん? あれ?」


意味がわからない。何が起きているんだ。


間違いなく私が攻撃されたのに。




「がァあぁぁぁぁァァ‼」




叫びながら地面を這いずり回っているのは、テロリストの方だった。




「だ、大丈夫⁉」


メグメグさんが私の背中の火傷を回復させてくれた。


……火傷?

考えてみればテロリストの属性は私と同じ雷のハズなのに、火傷というのはおかしいだろ。


もちろん、リアルに感電したら火傷は負うだろうが、これはゲームなんだ。


今この場に火傷を負わせられる炎属性を持ったキャラクターは赤い戦士……レッドさんしかいない。


しかし、戦士は攻撃に優れる代わりに素早さが低い職業。

チート速度と化したアイツに、攻撃を命中させられるワケがないのに……。



「敵を欺くには味方から、という言葉がありますわね。

お陰でコイツに痛恨の一撃を喰らわせることができましたわ」



欺くだって……?

一体何をしたんだこの人!


「どういうことですか! 一体何を……」


「本当は事前に説明するつもりでしたの。

ですが、コイツが思いの外急に現れたせいでその時間もなくなってしまったんですわ。

……アナタとメグメグの装備の外側に、触れた時発動する罠を仕掛けておいたんですわ。

敵に背後を取られた時の保険として」


罠だって⁈

そんないつの間に……!


「……あっ!!」


ああぁぁあ!

さっき私とメグメグさんの装備を剥ぎ取った時!


「お気づきになったようですわね。

いくら速かろうと、自動で発動する罠に対しては無意味ですわ」


レッドさんは言葉をさらに続ける。


「コイツがウッチーさんの攻撃を防ぐため物理防御しか上げなかったこと、ひかりんの罠を解除するため、炎が弱点の雷属性をMAXまで引き上げたこと、そして」


レッドさんが火だるまで転げ回るテロリストに近づく。


「オマエには回復してくれる仲間がいないということ。

それらがオマエの敗因ですわ。

果たしてそんな状態で再び仕様変更はできるのでしょうか?」


「ぐ、ガァァ‼ 貴様ァァァァ……‼‼」


「……無理みたいですわね。それでは、覚悟はよろしくて?」


炎を手にレッドさんがアイツにトドメを刺そうとする!


いけっ!

やっちまえ!



結論から言うと、トドメは刺せなかった。

レッドさんが突然消滅してしまったからだ。


いや、消滅ではない。

私はプレイヤーのこの消え方を既に知っている。


……ログアウトしたのだ。


そして次の瞬間、私にも同じことが起こった。



---------


VRゴーグルを外す。

現実の世界へ戻ってこられたのだ!


テロリストめ……。

自分が死にそうになったから慌ててユーザーをログアウトさせたんだな。

根性のないヤツ。


「ハァイ。ようやく戻ってきたね。輝木光」


「うわっ!?」


一昨日の読心女!

何でコイツ人の部屋にいるんだ!


「国井さんがキミをずっと待っている。早く行ってあげなよ」


お構いなしに話し続ける読心女。

心が読めるなら今の私の混乱っぷりを察して欲しい。


「もちろんキミがどこで何をしていたかも分かっているさ。

早速お手柄だったようだね。

キミや赤井が多くの人命を救ったことになる」


……そりゃどうも。

そしてアカイって誰だよ。


「赤井? ああ、すぐに分かる日がくるよ。

それじゃあね。あ、そうだ。ゲームするのもいいけど、鍵はちゃんとかけなよ? キミは女の子なんだしさ」


言うだけ言って、読心女は部屋を出ていった。


……これから、戸締りには十分気をつけないとな。



電話を確認すると国井からの留守録が5件ほど入っていた。



『輝木光。早速だが君に頼みたいことがある。メッセージを聞いたら折り返し連絡してくれ』


『もう5時間ほど経過したが、まだ外出しているのか? 緊急事態なんだ。できれば早く戻ってくれると助かるが……』


『……1日経った。先日はああ言ったが、今回は特段危険な内容ではない。どうか協力してくれないか』


『もしや、既に何処かへ行ってしまったのか……。逃げるのは結構だが、まだ借金は建て替えていないぞ』


『本当にいないのか……? いや……本当勘弁してください……』



すみませんっ‼


でも、今の状況を国井になんて説明すればいいんだ!


『ゲームに閉じ込められました』って言っても、引きこもりの言い訳としか思われないだろ……。


そう私が考え込んでいる最中に、電話のベルが鳴った。

思わず受話器を手に取ると……国井の声が聞こえてきた。


「あ、あの……その……」


『事情は全て聞いた。災難だったようだな。お疲れのところ悪いが、今すぐメールで送信した住所のところへ来て欲しい』


「は、はい!」


こんなタイミング良く電話が、しかも事情は聞いたって……。


…………あの女か。

感謝すべきなのか分からないが、今はとりあえず感謝しておいてやる。


パソコンを起動すると国井からメールが来ていた。

でも、この住所って……。



『株式会社CGM』



モンスター&ドラゴンズ運営会社だ。

……まだこの事件は終わってないということか。


---------


無事到着。


現場は警察やマスコミで溢れかえり、騒然としていた。


そして、国井もそこにいた。


「本当は大事になる前に処理したかったのだが、仕方がない。

これだけ大量の死傷者を出した、未曾有のテロ事件だからな」


死傷者……。

そうか、ユーザー同士の殺し合いで敗れたプレイヤーは本当に……。


事実、私もあと少しで死ぬところだった……。


「ゲームのシステムが何者かにより乗っ取られているようなのだ。

君にお願いしたいのはその犯人を突き止めることだ。

会社のサーバーをハッキングしている端末を見つけ出して欲しい」


乗っ取ってるって……。

そんな大規模なこと、何も超能力を使わずとも……。


「運営側で特定できるんじゃないですか? 私の出る幕では……」


「もちろん、会社の方でも特定作業はもう2日以上ぶっ続けで行っている。

しかし、そもそも不正にアクセスをされているかどうかすら分からないのだ」


いやいや、ちょっと待ってください。

犯人のアクセス有無そのものがわからないなら、私にもどうしようもないですよ。


誰がはぐれたのかも知らないのに、迷子の子供を探すようなものだ。


私の能力はそんな万能じゃないんだ。

電気を発生させられるのと、感覚の一部を少し電気と同期できるだけなんです。


「あの……お言葉なんですが――」


「急患です‼ 重傷者なんです! 道を開けてください‼」


残念ながら、私の発言はけたたましいサイレンの音と医師の声に遮られてしまった。


「急患?」


思わず出た私の質問に対して、近くにいた野次馬の1人が答える。


「なんか、CGMのシステム部責任者が突然全身に大火傷を負って倒れてたらしいよ。

それで部下がさっき慌てて救急車を呼んだんだってさ」


火傷……。


なーるほどねぇ……。

そもそも犯人は『不正に』アクセスなんてしてなかったと。

そりゃ発見できないワケですよ。


「国井さん、大火傷を負ったという社員の身柄を拘束してください。多分、そいつが犯人です」


「どうしたんだ突然。何か根拠が……」


「私は……いえ、私たちはゲーム内でテロリストと交戦した末に勝利しました。その際、テロリストに大火傷を負わせたんです」


「……なるほどな。つまり、君たちユーザーが解放されたタイミングで大火傷を負った人間。それがテロリストの正体だと」


「おそらくは。管理部門の人間ならばこの大規模な犯行も、不正なアクセスが見つからないということも全て説明できます」


「君がテロリストと戦ったとは聞いていたが……。よし、君のことを信じよう」


リアルでの戦いは、全く戦うことなく終わりそうだ。



国井から聞いた話では、数時間後に阿井 創市(アイ ソウイチ)――株式会社CGMシステム部部長であり、カナリアの会の会員のテロリスト――は逮捕されたとのことだ。


これにて、一件落着といったところか。


……で。私の活躍は結局ほぼなしと……。


なんだこれ。

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