第1話~最悪の始まり~③

「えぇ……。マジか.......」


信じられないんだけど……。

まあいいや……この端末に電撃の罠を仕掛けてさっさと退散だ。


あ、罠っていうのは全職共通で仕掛けられるんです。

自分で起爆させるか、さっきメグメグさんが引っかかったみたいに誰かが触れればオートで即起爆する仕様。



はっ。

意識が元に戻った。


メグメグさんが不安そうにこっちを覗き込んでいる。

レッドさんは、向こうを向いている。辺りを警戒してくれているんだな。


「成功です! テロリストの居場所が分かりました。場所は……」


「場所は?」


「……3-5です」


そうなのだ。

余程のアホが正解だった。

3-5にいたのだ。


「……え? マジですの?」


レッドさんも流石に驚いている様子だ。


「ほらー! やっぱり3-5なんだって! 影から一刀両断! するつもりなんだよ!」


メグメグさんの一刀両断に対するこだわりは一体何なのだろう。


「でもそれなら話は早いですわね。ほら、そろそろ3-5に着きますわよ」


レッドさんが指差す先には確かに3-5、森林のステージが広がっていた。


しかし、その時私が見たものは、全く異様な光景だったのだ。



「なんだこれ……」


思わずそう呟いてしまった。

それも仕方ないだろう。


なぜなら、おびただしい数のプレイヤーの遺体、そして殺し合う生きているプレイヤー達。


それらが眼前にあったのだから。


「ひゃーーっ! 何これ! ひどい!」


「……まあ、そんな気はしてましたわ。

ここには他のプレイヤーを殺すのに躊躇のなかったヤカラが集まるんですもの。

殺し合いになるのは必至といったところですわ。

それに、すでに3つの首を持ったプレイヤーから一気に奪い取ろうと考えるヤツも、当然いますわよね」


この2人、反応が真逆で面白いな。

いや、目の前の光景は全く面白くないんだけどさ。


それより、今はテロリストの発見が先決だ。

と言うことで私たちは周りのプレイヤーにバレないよう、ひたすら隠れながら、人の少ない部分を探して進む。

……えーっと、さっき探知したテロリストのメールボックス端末の場所は……。


「ここから少し東です。急ぎましょう」


と2人に声をかけた、その時だった。


「ちょっと止まってもらってもいいかしら?」


唐突に知らない人から声をかけられた。


誰だこの人。

職業は戦士っぽいけど。襲ってくるならば、また迎え撃たなくてはならない。


だけど……この人と戦うのは絶対にヤバい!


だってこの人……総額100万以上は課金してそうな最強装備を身につけてるんだもん。

レベルだって私たち3人の合計をも上回っている。


「何ですか? 私たちは今とても急いでいるのですが」


「急いで? まさか急いで誰かを殺しに行くつもり? そんなのこの私が許さないわ!」


ん?

この人ログアウト目的のプレイヤーじゃないのか?


……それに、私たちのことをログアウト目的だと勘違いしてるっぽい?

なら、なんとか誤解を解ければ戦闘は回避できるかも。


「私たちはテロリストの言葉に従うつもりは毛頭ありません。

これからテロリストと交渉しに行くんです。

ヤツは私たちを殺すため、このゲーム内にユーザーとしてログインしているはずなんです!」


頼む!

この説明で理解できてくれ!


「???」


ダメだーーっ!

全く伝わってない!


『頑張って理解しようとしてるけどやっぱり分かりません』みたいな顔されてて余計ショック!

誰か私に国語力をください。いや、コミュニケーション能力か。


「と、とにかく! 私たちは他のユーザーを殺すつもりはないんです! これだけはどうかご理解いただければ……」


「よ、よく分からないけど! それを信じて見逃せっていうの⁉ そんなの無理よ!」


あぁなんかもうめちゃくちゃだ。

私も向こうも混乱しすぎだ。一旦落ち着いて……。


その時だった。


唐突にレッドさんが自らの装備を外し始めたのだ。


「レ、レッドさん⁉ 何やってるんですか! まずいですよ!」


いつ目の前の相手が襲ってくるか分からないのに、装備を外すなんて自殺行為だ!


私だけじゃなく、ついにこの人も混乱してしまったらしい。


「私だけじゃダメですわ。アナタもメグメグも装備を外してくださいまし」


「ち、ちょっと! 何言ってんのさレッド!」


「そうですよ! ただでさえピンチなのに、今装備を外すなんて自殺行為ですよ!」


自殺したいだけなら1人で勝手にしてくれよ……。

私を巻き込まないでくれ。


「いいから外しなさい」


「イヤですよ!」


マジでどうしちゃったんだこの人。

この局面で人の装備を剥ぎ取ろうとするなんて。


……もしかしてソッチ系の人なのか?

勘弁してくれ。

私にそんな趣味はない。


私は佐藤剛(人気俳優)似の年収1000万円以上、28歳以下の男がタイプで、完全なノーマルなんだ!

それに、仮にあったとしても今じゃなくていいだろうが!


「……もう、分からない人たちですわね。

この状況で他のユーザーを信じることにどれだけリスクがあるか分からないんですの?

相手にリスクを強要する以上、こちらも相応のリスクを負わなければ、言い分を聞いてもらえるワケないんですの。

……はい!

分かったら脱ぐんですわ!」



……うわぁぁ‼

ちょっとやめてください本当に!

破けちゃいますって!

デジタルの服だから破けないんだろうけどさ!


「私たちに敵意がないと、分かっていただけました?」


結局装備を剥ぎ取られてしまった……。

何で半袖短パンでこんな土下座みたいな格好しなきゃならんのだ……。


「え、えぇ……。分かったわ……」


ほら、あの人も引いてるし……。

死屍累々の場で3人半裸で土下座はシュールすぎる……。


「見たところ、アナタもログアウト目的のプレイヤーではないようですわね。

せっかくなのでテロからの解放のため、私たちに協力してくださるととても嬉しいですわ」


「当たり前よ! この年間ランキングトップをひた走るウッチーさんがテロリストなんて悪に屈するワケないでしょう? 私がいるからには百人力よー!」


え、マジですか。

年間ランキングトップの人が仲間になってくれれば、私たちは敵なしだ。


テロリストだってゲーム内でならボコボコにできるだろう。

僥倖僥倖。


「あの、みんな装備着けていいわよ……。

このままだと周りには私が剥ぎ取ったみたいに見られて、垢をネットに晒されそうだもの」


何とか丸く収まりそうだ……。


レッドさんすごいですね。

とっさにこんな判断ができるなんて、一体今までどんな修羅場を潜り抜けてきたきたんだろう。


……それとも私が無能すぎるだけ?


「テロリストの居場所は既にこのひかりんが把握してますの。

後は見つけ出してタコ殴りにして、人質を解放していただくだけですわ」


「そうなの? すごいわねー! まるで超能力者みたいね!」


「……そうね。超能力者みたいですわ」


「うんうん!」


はいぃ⁉

「い、いやそんなまさか、ち、超能力だなんてそんな、この世にそんなのあ、あるワケないじゃないですかぁ!」


うわっ。めっちゃキョドった。


「…………」


イヤー!

今私を見ないで!


「……そんなに照れることないですわよ」


……セーーフ‼


早速バレましたーなんて言ったら国井になんて言われるか分かったもんじゃない。

危ない危ない。


---------


ウッチーさんとの話が一旦落ち着いた、そんな時だった。


1人のユーザーが凄まじい形相でこちらへ駆けてきた。


「すみません!

ランキング1位のウッチーさんですよね⁈

少しの間でいいんです!

匿ってください!

殺されてしまいそうなんです!」


よく見ると全身ボロボロだ。

手痛いダメージを負っているようだった。


しかし、この人は――。


「ケガしてる! 治してあげないと!」


メグメグさんが近づく。


ダメだ!

近づくな!


この人は!

いや。コイツは――!


「ダメです! 近づいてはいけない! ソイツは――」


くそ!

間に合わない!


……いや、まだ方法はある!

今ここで、仕掛けた罠を起爆するんだ!


「なっ⁉ メールボックスがっ!」


そう!

罠を仕掛けたメールボックスを持っている。


コイツこそが、諸悪の根源!


「お前が……カナリアの会のテロリストだな……!」



「え、ちょっと何言ってるんですか⁉ この電撃はあなたのせいですか! 早く解除してくださいよ!」


すっとぼけようとしてるが、それは無駄だぞ。

そのメールボックスを持っているお前が間違いなくテロリストだ!


当然解除はしない。

このまま拘束する!


「……本当に3-5にいるあたりオソマツなヤツだとは思ってましたが、まさか巣を張る前に飛び込んできてくださるとは……。

私の想像以上にオソマツでしたわね」


「バーカ!」


レッドさんはともかく、メグメグさんにバカ呼ばわりされるなんて、テロリストが少しかわいそう。


「私が正義の刃で、邪悪なるテロリストを討ち取るわ! 覚悟なさい!」


そんなイタい名乗りを挙げつつ、ウッチーさんがテロリストに斬りかかった!


年間ランキング1位のユーザー、渾身の一撃。

耐えられるヤツがいるはずがない。


いないからこそ1位なのだ。


しかし、実際には耐える耐えられない以前の問題だったのだ。


……ウッチーさんの攻撃は――



――届かなかった。



「図に乗るな。忘れたのか? お前たちは既に、カゴの中の鳥だということを」



……っ!

か、体が指1つ動かせない!


罠に嵌められたのか⁉

いや、違う。そんなありふれた状況じゃない!


なぜなら、私だけじゃなく、この世界にいる全てが静止していたのだから!



「あと一歩、間に合いませんでしたわね……」


レッドさんがそう言った。

間に合わないって一体何が……?


「こ、この卑怯者……!」


ウッチーさんはテロリストに斬りかかる直前の格好のまま空中で静止している。


「再びこの世界が動き出した時……お前たちを皆殺しにする。

この俺の存在を知っているものが、ゲーム内にいてはならないのだ。

覚悟しておけ」


テロリストが言う。

ってお前も動けなくなってるのかよ。


だったら、この状況はテロリストの引き起こしたものとは別なのか?


もうワケが分からない。思わず叫んでしまう。


「この状況は一体何なんですか! 何が起きているんですか!」



「そう言えばアナタは、私たちより後にログインしたんですわね。

なら、知らないのも無理はありませんわ。

上を見てごらんなさいまし」


上?

目線だけを動かして何とか上を見る。


……あ、ぁぁあ‼

これは……!

遥か上空の文字には、確かにこう表示されていた。



『緊急メンテナンス』



オンラインゲームでメンテナンスが行われる理由はいくつかある。

重篤なバグが見つかった時、システム点検の時、そして、アップデートや仕様変更の時。


ようやく私も事態が理解できた……。


しかし、同時に最悪の可能性に気がついてしまった。


……レッドさんの「次は私たちを容易く葬れる仕様変更をしてくる」という発言を思い出す。


……まさしく、『間に合わなかった』ということか……!


「そんな…………」


その後、上空に『緊急メンテナンス終了』の文字が現れるのに、そう時間はかからなかった。


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