第1話~最悪の始まり~②

……あれ?

死んでない。

しかも、傷が治ってる。


「せっかく傷を治してあげようとしてるのに、なんでそんなに逃げるんだよー! ひどいよ!」


「そりゃ逃げますわよ……。今のアナタ、怪しすぎでしたわ」


傷を治してくれた……?

なぜ?


「なぜ、私を治してくださったんですか……?」


「なぜって、そりゃ痛そうだったからだよ。かわいそうじゃん?」


ヒーラーの青い人が素っ頓狂な表情で答える。

ちなみに、ヒーラーといいうのは回復薬なしでも自他の体力を回復できる職業のことだ。


もう1人の赤い人は戦士かな?

文字通り戦いに特化してる職業だ。


......見た目からして、青い人は水属性、赤い人は火属性だろうか。


あ、属性というのは職業とは別に各ユーザーにある要素なんです。

ちなみに私は当然雷属性。


他には水属性と火属性があって、三竦みの優劣関係にあるんです。

水属性は火属性に強く、火属性は雷属性に強い。

そして、雷属性は水属性に強いといった感じですね、はい。


......あぁ、私は一体誰に向けて説明してるんだ。

突然のことすぎて気が動転してるのか。


「ありがとうございます......。あの、厚かましいとは思いますが、1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


正直未だに何が何だか分からない。

とりあえず今唯一分かるのが、この人たちが私にとって危険な存在ではないということだ。


もし、斬りかかってきたヤツと同様に私を攻撃するのだったら、私のケガを治す前の方がいいに決まってる。

よって、この2人組に私への敵意はないってことだろう……多分。


「いいよぉ。なんでも教えちゃうよ!」


何というか、軽い人だなこの青い人……。


「今、何が起きているんですか? そもそもこのゲームにPVPはなかったはずですし、ダメージ受けると実際に体が痛むなんて……」


「……アナタ、運営からのメールをまだ見てないんですの?」


2人組の赤い方の人が言った。メールだって?


「ログイン直後に他のプレイヤーに襲われて……今確認します」


私はそういって、腰に提げているメールボックス端末を確認した。




『 モンスター&ドラゴンズ運営より


このゲームは我々「カナリアの会」が占拠した。

すでに君たちは自力でログアウトする権限を失った。


只今よりユーザーは政府への交渉の人質だ。

政府の返答次第では、君たち全員の命はない。


また、ゲームの中でダメージを受けると現実の体にもダメージを受ける。

くれぐれも交渉までに死なないよう、気をつけたまえ。


2018年 1月24日 10:00』



『 モンスター&ドラゴンズ運営より


残念だが、政府は我々の要求を受け入れなかった。

不本意ではあるが、当初の予定通り君たちを全員殺さなくてはならない。


しかし、それでは余りにも君たちが不憫だ。

よって、他のユーザーのクビ3つを用意して3-5ステージに来たユーザーは、特別にログアウトさせてあげよう。

PVPの機能は実装した。

どうか頑張りたまえ。

諸君らの健闘を祈る。


2018年 1月24日 10:34』




「はぁぁぁぁ⁉ カ、カナリアの会……⁉」


国井いわく新興宗教のフリをした、超能力者で構成されたテロ組織!


つまり、私たちがテロの人質になったってこと⁉

冗談じゃない!


「……状況がお分かりになったようですわね」


ふざけるなよ!

じゃあ、さっき襲いかかってきたヤツは自分がログアウトするために、私を殺してクビを取ろうとしたってことか!

……それならもっと強烈なオシオキをしてやれば良かったね!


そもそも!


「テロリストが約束を守るなんて保証はないのに、真に受けて人を殺すなんてどうかしてますよ! ふざけんな!」


「全くその通りですの……。アナタが聡明そうな方で良かったですわ」


私には、テロリストは最初から人質を解放する気がないように見える。


……まあ、私にテロリストの気持ちはわからないけどさ。

分かりたくもないね。


「……テロリストはなぜ直接手を下さないのでしょうか? 何かできない事情があるのでしょうか?」


青いヒーラーが答える。


「ユーザーがかわいそうで殺せない! 良心の呵責! とか?」


さすがにそれはないと思います……。


「ユーザーが保身のために殺しあってるサマを見物する愉悦! とかですの?」


赤い戦士も答える。

ど、どうなんでしょうそれは……。

現実のテロリストが映画の小悪党みたいに、そんな無意味なことするのかなぁ。


そもそも、テロリストは私たちをどう殺すつもりなんだろうか。

運営の権限的なので消し去ることができるならもうやってると思うけど、ヤツらはそれをしていない。


うーん……。

となるとテロリストも人質を殺すため、私たち同様にゲームへログインしている……?


突然PVPの機能を実装した理由も人質を殺すためならば納得がいく。


そして、もしゲーム内にテロリストがいるのならば……。


「…………。皆さん、テロリストを探しにいきませんか?」


「探しにいくって……ログアウトできないのにどうやって探しにいくのさ?」


「……これは、私の勝手な予想ですが……。

ゲームの中の人間を殺すには、テロリスト側もゲームの中に入って直接攻撃するしか方法がないのかもしれません。

だから、現在コイツもユーザーに気付かれないよう隠れながら、ゲーム内に潜んでいる可能性があります。

それを見つけ出すことができれば、交渉可能なはずです」



そうだ。きっとテロリストたちは今、私たちを殺さないのではない。


殺せないんだ。

だから、あんな回りくどい手段を使ってユーザーの数を減らそうとしているんだ。多分。


「IPを割り出して直接手を下すにしても、ユーザーそれぞれの居場所へ物理的に赴かなくてはならない……。

これだとテロリストの体がいくつあっても足りない、こういうことですわね?」


「ええ。まさに」


「言ってることは分かったけど……。交渉って具体的には何をすんのさ?」


「いくらテロリスト集団が強力な兵器やちょ……武器を持っていたとしても、それらをゲームの中に持ち込むことはできません。

ゲームの中にいる以上、ゲームのルールに従う必要があるはずです。つまり……」


危ない危ない。超能力と言いかけた。

ここでそんなこと言ったら狂人扱いまっしぐらだ。


「……なるほど。見つけ出して集団でボコボコにするってことですわね。

そうと決まれば急いだ方がいいですわ。

ヤツらは本来このゲームになかったPVP機能の実装したんですもの。

モタモタしているとまたゲームのルールを捻じ曲げて、私たちをより簡単に葬れる仕様変更をしてくるに違いないですわ」


赤い人の言う通りだ。

テロリストはこのゲームのシステムを変更できる技術を持っていた。


次はどんなデータ改竄があるか分からない。

今ユーザーか殺されてないのも、交渉がたった34分で決裂してるから、殺す準備をする時間がなかっただけ……って可能性もある。


時間を与えた結果、全ユーザーを即死させるといった改竄が行われでもしたら、一巻の終わりだ。


「はい! 急いでこのゲームに潜んだテロリストを探し出しましょう!」



「怪しいのは3-5かなぁ? 助かりたい一心で来たユーザーを影から一刀両断! みたいな?」


青い人が言う。

確かに1番怪しいのは運営からのメールにもあったステージ3-5だ。


確か、中盤の難所とか言われてる森林のステージだったかな?

ってことで一応今私たちは3-5に向かっている。


でも、もし私がテロリストだったら場所を特定されるような情報を絶対にユーザーには与えたくない。

ましてや、メールに記載するなんて論外だ。

そんなことするのは余程のアホだけだと思う。


相手がアホだったらいいのになー。

「何ぼさっとしてるんですの⁉」


「……えっ? うわっ!」


慌てて飛んで来た何かを剣で撃ち落とす。


これは……他のプレイヤーの放った銃弾か……。

赤い人が警告してくれなければ致命傷を負っていたかもしれないぞ。


私たちに戦う気がなくても、他のユーザーの攻撃や罠には十分気を配って行動しなければならない。


「ありがとうございます。……えぇっと、赤い人」


「もう……。私たちにその気がなくても他のユーザーは全て敵だと思わなくてはなりませんわよ? 聡明なアナタのことですから、なにか作戦を考えていたんでしょうけど……」


「い、いや。すっごいしょうもないこと考えてた……」


私への評価が妙に高いのは喜ばしいけど。


「……レッドですわ。私のユーザーネーム」


そう言えば……。


「お互い名乗ってなかったですね。私はひかりんといいます」


そう!

私のユーザーネームはひかりん!


どう?

超イカしてるでしょ?


「あ、じゃあ私も! 私の名前はメグメグでーす!」


青い人も便乗して名乗ってくれた。


よくよく考えると、今まで名前も知らない人に私は命を預けてたようなものなのか。

……なんだか不思議な感覚だ。


「痛っ‼ ひゃぁー! 助けてぇぇ!」


メグメグさん……。早速他のユーザーの罠に引っかかるとは……。

この人に身を任せるのは結構不安だ。

とはいえ現状信用できる人が他にいないしなぁ……。


とにかく罠を解除しないと。


「大丈夫ですか?」


さてと……。

ん?


この罠……。

妙に解除し易いな。


仕掛けたユーザーのレベルが低かったのか。

それとも、何か意図があって……。


「……やられましたわね」



レッドさんにそう言われて辺りを見渡すと、4、5人のプレイヤーに囲まれてることに気がついた。

そのうちの1人が勝手に喋りだす。


「罠は敢えて解除可能なレベルに抑えた。

お前たちを1箇所にまとめるためにな。

……お前たちのレベルなら確実に殺せる。悪いとは思うが、生き残るためなんだ」


テロリストの戯言を真に受けた馬鹿が……。


ああもう!

襲いかかってくる!

応戦しなくては!


「レッドさん! メグメグさんを最優先で守りましょう!」


この判断は間違いないはず。

私たちの中で唯一回復ができるメグメグさんがやられたらおしまいだ。


「ええ。とりあえず『今は』アナタがメグメグを守ってくださいまし。コイツらは私が蹴散らしますわ」


大した自信だ……。

何かレッドさんには秘策があるのかも。


けど、向こうが高レベルなのは事実。

気をつけてくださいレッドさん!


「蹴散らすだって? オレらよりレベルの低いお前が?」


「レベル、レベルとうるさいですわね。

そんなに自信があるなら、まとめてかかってらっしゃいまし」


「ナメやがってコイツ! お嬢様キャラとか痛々しいんだよ! やっちまえ!」


本当にまとめて来た!

私も一緒に身構える。


「ゲームも人生も、レベルが全てではなくてよ。

私は長い間、炎と共にありますの。

アナタ方とは力の使い方が違いますわ!」


そう言うとレッドさんは円形の炎で私たちの周りを囲った。

炎を盾にするつもりか。


確かにこれなら連中は近づけないが、連中の中には炎に有利な水属性っぽいヤツもいたはずだ。

きっとすぐに鎮火されてしまう!


「何をするかと思ったら炎で壁を作るだけかよ! くだらねェ! すぐに消火してぶっ殺してるぜ!」


案の定連中のウチの1人が水をあたりに撒き散らす。

炎の勢いははだいぶ弱まってしまった。


「さあ、選手交代ですの。

今度は私がメグメグを守りますわ。

もうお分かり頂けてることを信じます」


……なるほどね。


レッドさんはヤツらの中に水属性のプレイヤーがいることに気づいていた。

そこで、炎を消されることを承知の上で敢えて水属性のスキルを使わせ、この状況を作ったんだ。


結果、あいつらは見事に全身水浸し。


よし。

だったらここは華麗に決めるのが、私の役目さ!


「実は、純粋な水は電気をほぼ通さないんだ。

だけど、濡れた体ってのは電気をよく通す。

不思議な話だけどねっ!」


くらえっ!

私は力の限り電撃を放つ。


濡れた体でこの新武器『エクスカリバー』の電撃をくらえばひとたまりもない!

さらに、このスキルには敵から敵へと電気が伝ってダメージを与えると言う仕様。


連中がこれだけまとまってれば、一網打尽さ!


「も、もうその辺でいいんじゃないかな……? これ以上やるとこの人たち、本当に死んじゃうよ!」


しばらく攻撃していたらメグメグさんがそう言った。


確かに連中は何かビックンビックンしてる。

うん、キモいからもう止めよう。


「はぁ……はぁ……。蹴散らしたぞ……!」


「ええ。ありがとうございますわ。武器が強いだけでなく、きちんと使いこなしてらっしゃいますわね」


おぉ、褒められたぞ!

この武器は昨日当てたばかりだけど、使いこなせてるらしい。

すごいぞ私!


「あはは……。めっちゃ疲れましたけどねー……」

…….……ん?


疲れただって?

いやいや、ゲームなのに疲れるのはおかしいだろ……。


「……。いや。違う……!」


今のこの状況は『ゲームであってゲームじゃない』!

ダメージが現実の身体とリンクするように、電撃も現実の電気とリンクするんだ!


私は……私『だけ』が、この世界『でも』電気の超能力が使える!


「……? どうしたの? テロリスト探すんでしょ?」


「手がかりはあるようでないですけどね……」


テロリストの居場所が分からない?

なんで気づかなかった!



『いつもやってる』ように、メールのネットワークをたどって特定すればいい!


私『だけ』が電撃の裏技を知っている!


セキュリティだって、私の前じゃ無力だ!



「皆さん、ちょっと待ってください!

私の電気のスキルを応用して、メールボックスからメールの送信元を特定できるか挑戦してみます。

成功すれば、テロリストの居場所が分かります!」



「……⁇ よ、よく分からないけど……失敗したらどうなるの?」


メグメグさんにそう言われる。


失敗?

失敗したらどうなるんだろう。


とりあえず私のメールボックスはぶっ壊れそう。


「私のメールボックスが壊れます。それ以外は……どうなるか分かりません」


「正直……このまま、闇雲に歩き回っても成果を得られるとは思いませんし、私は挑戦してみるべきだと思いますわ。

正直なところ3-5にヤツがいるとは思えませんもの。

それにしても……良くそんなこと思いついて、簡単に実行できますわね。

エクスカリバーのスキルでもないでしょう?」


レッドさんも私と同じ考えだったのか。なんか嬉しいぞ。


「えぇーっ! そうなのー?」


メグメグさんは違ったようだ。


……こう言うと難だけどこの人結構……バ……いや、何でもない。


とにかく2人の反対もなかったし、気を取り直して……やるぞ!


「メールボックス内に電気を流して意識を集中させます。その間私は無防備になってしまうので、他のプレイヤーに注意してください」



メールボックスに電気を流し込んで、意識を端末上に集中する。

……あった。これがテロリストから送信されたメールだ。

このメールが、ネット上でどんな経路を辿ったのか追跡しよう。


……ん?

なんか大きい場所に出たぞ。


ここは運営側のメールサーバか。

だけど、今はほとんど動いてないみたいだ。


「ユーザー間のやりとりをさせないためだな。やっぱり、ヤツらはユーザーが結託して反逆するのを恐れているんだ、多分」


…………!

あれ、1つだけ動いてる!


「もしかして、これがテロリストのメールボックスに繋がってるのか?」


…………そうみたいだ。

なら、ここからひたすら末端まで辿っていけば……!


「パスワード? 本人認証? 無駄無駄! 私の前ではあらゆるセキュリティが無意味!」


5分くらい歩いた。

そろそろゴールでも良い頃合なんじゃないのか。


………あ!

ここだ!


やった!

ヤツの端末まで着いたぞ!

成功だ!


「と、特定してやったぞ……! …………。

……は、ははっ。

ゲロ甘のテロリストめ! ちゃんと想定しておけよ! 『身体から発する電気の扱いに慣れた超能力者が、電気属性の武器を当てて、それを現実通りに操ることをね』!」


なんてね!

そんなレアケース、想定できるものならしてみやがれ!



「さて、コイツは今。どこにいる? もう筒抜けだ!」


ってここは……!?

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