第1話~最悪の始まり~①
「超能力特殊部隊?」
私が聞かされたのは全国の超能力者を集めて、国家を守る特殊部隊を組織するという話だった。
……なるほど。
他にどんな能力者がいるのかは分からないが、確かに機能しそうな気がする。
例えば、拳銃や刃物を持って立てこもる凶悪犯がいたとしても、私なら近づくことなく凶器を取り上げることができる。
「そうだ。これは伊武内閣閣僚の一部しか知らない、極秘プロジェクトなのだ」
伊武。現内閣総理大臣の伊武有人(いぶ ゆうと)か。
社会情勢に疎い私でも、さすがに総理大臣の名前ぐらい分かるぞ。
「続けるぞ。超能力特殊部隊を結成した君たちが相手にしていくことになるのは、ある巨大な犯罪組織だ」
えぇ!? 立てこもり犯とかじゃないの!?
そんなの絶対ヤバいヤツじゃん!
犯罪組織っていうと……ギャングやマフィア的な?
そんなのがマジで今の日本にいるの?
映画の世界の話だと思ってたけど……。
「そ、そんな巨大な犯罪組織が、本当に日本でも存在するんですか?」
「存在する。……君は『カナリアの会』という団体を知っているかね?」
カナリアの会?
最近ニュースでたまに報道されている変な宗教団体のことかな。
アレが犯罪組織?
「カナリアの会の表向きは、ただの新興宗教だ。しかし、その目的は『国家の乗っ取り』にある」
こ、国家の乗っ取り⁉
それなら新興宗教というより完全にテロリストじゃないか!
「この情報は一般のマスメディアでは公表されていないが、間違いのない情報だ。国の諜報員が、命を賭して手にしたものだ」
ヤベェよ……。
そんなアブない集団だったのかあいつら。
面白集団だと思ってたぞ私は。
「そして、重要なことがもう1つ。カナリアの会が『もし普通の犯罪組織だとしたら』我々もここまでのことはしない」
犯罪組織の時点で普通じゃないと思うんですけど。
まあ、それはこの際置いておいて……普通じゃない、言い換えれば『特異』……ってことはもしかして……。
「問題は、カナリアの会に50人ほどの『超能力者』が属しているということなのだ。だから、ヤツらを鎮圧するために君たち『正義の超能力者』の力が必要なのだよ」
ほらやっぱり!
そんなことだろうと思ったけどさ!
……って50⁉
「それなら、日本にいる超能力者の約半数は現在テロリストってことになってしまいますよ!」
「まさしくその通りだ。人智を超えた能力を手にした人間は、その力を良からぬ方向へ……利己的な方向へ使ってしまうことがほとんどなのだ。君が今朝、電車を止めるために使ったようにね」
う。
それを言われると否定できない。
妙に納得してしまう。
「しかし、君はそこまで堕ちていないはずだ。だからこそ、こうしてチャンスを与えているのだ。どうだ? 我々のプロジェクトに力を貸してはくれないか? 君には是非、我々と共に正義のために戦ってほしいのだ! もし君が首を縦に振れば、1億の損害賠償は国家がお支払いしよう」
「い、いや、そんな……」
チャンス……と言うよりそれもうほとんど脅迫ですよね。
いや、元は私が悪いのかも知れませんがね。身の危険と1億の借金を天秤にかけるのか……。
「ちょ、ちょっと考えさせてください……」
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「…………はい。分かりました」
私は承諾した。
承諾する他なかった。
本当はもっとよく考えたかったけど……。
そんな時間もなさそうだった。
「よく決断してくれた! 勇気ある行動に感謝する! 約束は必ず果たそう!」
うぅ。やだなぁ……。
超能力集団の犯罪組織を相手にするなんて……。
たった今、私はすごい危険なことにクビを突っ込んだだろうなぁ……。
な、なんだかんだ死なない……よね?
何とかなる……ハズ。
多分……。
正直、普通の凶悪犯ならどうとでもできる自信があったけど、相手も超能力を使うとなると……。
犯罪組織の超能力者とか、絶対ヤバい能力持ってるじゃん……。
時間停止とかコピーとか洗脳とかさ……。
もうヤだ……。
1億で自分を売ってしまった……。
「後日私から連絡をする。それまで君はこの部屋で待機していてくれたまえ。部屋のものは自由に使って良いし、待機と言っても外出は構わない。もし、私の連絡時に君が不在だったら留守録を入れておく。1日一回程度の確認で大丈夫だ。それでは」
そう言って私に部屋と金庫の鍵を渡すと、国井は去って行った。
改めて部屋を見ると当たり前のようにパソコンがあってネット環境も整っているし、冷蔵庫や電子レンジ、エアコンなどの家電製品も完備。
浴室や寝室は別の部屋で用意されてるし、ダイニングにはソファまで備え付けてある。
地下だから窓はないけど、やっぱり良い部屋だなぁ。
このまま国井からずっと連絡がなければいいのになぁ……とか思いながら私はベッドに横になった。
疲れからかとても眠くなったので、そのまま眠った。
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昨日は激動の1日だった。
夢だったのではないかと思ったが、妙に豪華な部屋を見ると現実であったことを思い知らされる。
これから、犯罪組織と戦わなくてはいけないという非情の現実を。
部屋を調べていると隅に金庫を発見した。
中にはクレジットカードと一枚の紙が入っていた。
『日用品や食事はこのクレジットカードをご利用ください。娯楽に使っていただいても結構です。利用料金は国家がお支払いします。パスワードは1221です』
なんと。
お金は使いたい放題ってことなのか。
素晴らしいじゃないか。やっぱり、昨日電車を止めてよかったのかもしれない……?
いや、それはないな。
シャワーを浴びながら、お金を何に使おうか考える。
……娯楽に使っても良いんだよな。
とりあえず最近流行のオンラインゲームに課金でもするか。
これから私は国のために戦うのだ。
このくらいの贅沢は別にいいだろ、うん。
運がいいのか悪いのか。
たったの2千円で欲しかった新武器が当たってしまった。
せっかくだから10万円くらい使うつもりだったのに。
私のお金じゃないし。
それにしてもこのゲームはおもしろい。
『モンスター&ドラゴンズ』というタイトルなのだが、最新のVR技術が駆使されていて、まさしく自分がゲームの世界に入っているかのような没入感を覚える。
……早速、新しく当たった武器を使って遊んでみますか!
この武器、名前は『エクスカリバー』って言うんだけど......めちゃくちゃ強い!
今日はほとんどダメージを受けずにあらゆるクエストをクリアできた。
受けたダメージといえば右手の指先に敵の攻撃が少し掠ったくらいで、基本的には無敵だった。
さすがは実装してすぐゲーム内で最強の一角とされただけある。
『エクスカリバー』が持つ固有の新スキル「電撃」は追加効果として、敵から敵へと自動的にダメージが伝う仕様。
電撃っていうのが特に素晴らしい!
電気は世界一かっこいい能力なのだから。
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今日はここまででログアウトしよう。
今の時刻は午後6時……5時間以上ゲームやってたのか私は。
そういえば、結局国井からの連絡はなかったな。
もう夜になるし、夕ご飯を食べてお風呂に入って寝よう。
夕食は何にしようかな。イタリアンにしようかな。
夕食から無事帰宅。依然として国井から連絡はなかった。
もう今日は多分ないだろうから、このまま予定通りお風呂に入って寝よう。
痛っ!指先にお湯がかかったらなんか染みたんですけど。
あ、切り傷がある。金庫の中に入っていた紙で切っちゃったのかな。
こういう傷って地味に痛いからイヤだね。
お風呂から上がったら絆創膏を貼っておこう。
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朝だ。
早速昨日のゲームをやろうとしたら、メンテナンス中だった。
残念。
10時には終わるらしいから、それまでに朝ごはんを食べに行こうかな。
今日の食事はどうしよう。
このクレジットカードさえあれば、何でも好きなモノが食べられるから悩んでしまう。
選択肢が多すぎるが故の悩みだ。贅沢な話だけどね。
外に出てから気がついた。
10時前ってほとんどのお店が開店前じゃないか!
いくらお金があっても準備中のお店で食事はできない。
……朝ごはんは結局コンビニで買うことになってしまった。
自分で作るのが面倒な以上、こうするしかなかったんだ。
……あ。いつの間にか10時を過ぎてる。
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VRゴーグルをつけて……さあ、ログインだ!
今日はアバターの防具を作るための素材を集めようかな。
……ん? 誰かが近づいてくる。
「……」
『ひかりんは 53のダメージを受けた!』
……⁉
痛っ‼
何コイツ⁉
無言でいきなり右肩に切りかかってきたんだけど⁉
そ、それに、『痛い』⁉
ゲームなのに痛いってどういうことだよ⁉
チクショウ、とにかくこのままで済むものか!
くらえ電撃っ!
「ああぁぁぁぁぁ‼
」
見事命中!
情けない声を出してコイツは倒れ込んだ。
よし、そのままずっとそこで痺れていろ。
「はぁー……」
一体何だったんだアイツは……。
そもそもこのゲーム、PVP(プレイヤー・バーサス・プレイヤーの略。プレイヤー同士が戦闘できるという仕様)はなかったはずなのに……。
とにかく回復をしないと。
回復すればこの痛みも消えるかもしれない。
……あっ。回復薬がない……。
しまった。私のゲーム内での職業は剣士。
この職業は属性攻撃に優れている代わりに、回復薬以外での回復手段がないのだ。
これはかなりまずい……。
ゲーム的にはHPさえ残ってればそれでいいけど、この痛みを抱えたまま歩き回るのは無理だって……。
「あ、あそこにケガした人がいる!」
「ちょっとアナタ......」
ヤバい。
今度は2人組が近づいてくる!
何を話してるかは聞こえないけど、逃げなきゃ次こそ殺されるかもしれない!
ゲームなのに殺されるってのはおかしな話だが、とにかく今の状況、普通じゃない!
「く、来るなっ……」
くそっ。
ダメだ。
痛みで走れない!
このままじゃ追いつかれるっ!
「待って! 私は君を攻撃しようなんて思ってないよ!」
2人組のうちの1人が手を振りかざしてきた。
避けられないっ!
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