第4話 二回目の殺人

 一度経験してしまえば、それまでの戸惑いなど嘘のように消えて、より挑戦的な殺人をしたくなる。考えた末、私は二度目の夫への殺人について、ゲストを招くことにした。——息子である。

 反抗期が始まったのか、息子は私が言うことすべてに否定から入る。宿題をしたかと問えば、面倒くさそうな声を出し、問い詰めると、「うるせえ」だの「ババア」だのと言ってくるのだ。あの可愛らしかった子供の頃からは想像もできない態度に、私は腹が立っているのである。もちろん、息子を殺すなんてことはしない。ただ、「懲らしめたい」という気持ちは少なからずあるので、夫を殺すついでに、その不満を解消しておこうと思ったのだ。


 今回の薬を入れる食べ物は、二人とも大好物であるハンバーグにした。もちろん、夫のものには薬と塩分をたっぷりと入れる。バレないように中にチーズを入れた。息子のハンバーグについては、普通に作り、ほんの少し――本当に数粒程度の――薬を混ぜた。どんなに入れても一回で死ぬわけではない。だが、やはり息子は息子。殺したいわけではなくて、お仕置き程度のつもりなのだ。

 私は細心の注意を払って、ハンバーグを焼く。致命的な失敗にはならないとはいえ、夫と息子のハンバーグを間違えることは、私の気持ち的に許されなかった。焼きあがると、最後にフライパンに残った肉汁にウスターソースとケチャップを適当に入れて、ハンバーグソースを作った。夫の分にだけ、塩か砂糖をたっぷりと入れてやりたいのだが、別々に作るのはさすがに面倒だったので、許してやることにする。夫には感謝をしてもらいたいものだと、私は心の底から思った。


 何も知らない二人は、ハンバーグの匂いにつられて食卓へとやってきた。ご飯や味噌汁など他のものを整えて、「さあどうぞ」と言ってやると、二人は獣が肉を喰らうような勢いでハンバーグを食べる。私はそれを見て、夫の二度目の殺害に成功したことを、顔には出さずに喜んだ。息子の方を見ると、ニキビ顔のあどけない表情で、おいしそうに食べている。――君は私から半殺しならぬ、十分の一殺しの刑を受けているんだよ——。私はそんなことを思いながら息子に、「おいしい?」と問いかけると、息子はくしゃくしゃにして、いつもの「うめえ」ではなく、「おいしい」と返してくれたのであった。

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