第20話 おんぶ



「なんだ怪我をしているのか。まったく仕方のない奴め」

「だっ、大丈夫です。自分であるけます(足がぷるぷる)」

「ほう」


 ご主人様は、私の足をちょんと強めにつつきました。


「はうっ」


 あううっ、何するんですか!


 小鹿のように震えている私の足をつつくなんて!


 鬼ですか!


 精一杯強がっている私の努力を台無しにするなんて、この人鬼です!


 知ってましたけどっ!


 ぷるぷるにへんな刺激が加わったので、限界を迎えた私はその場に崩れ落ちました。


「歩ける? このざまでか?」

「ううっ、ひどいですよう」


 手を差し出したご主人様につかまりながら、ゆっくりと立ち上がります。


 そして、背中におぶってもらう事に。


 ご主人様に世話されるメイドって。


 情けないですっ。


「そっちの子供は自力で歩けるようだな。この駄目メイドが背中からうっかり落ちないように見張りながらついてこい」

「う、うん。お姉ちゃん、落っこちそうになったら僕が支えてあげるね」


 しかも、子供にまで心配されてる私って。


 穴があったら、入りたい。


 これ以上お世話になる事がないように、せめてご主人様の背中につかまります。


 意地でも落ちません。


 絶対に落ちません。


 私がちゃんとつかまったのを確認してから、ご主人さまは真っ暗な中を歩いて行きます。

 すたすた迷いない足取りは、頼もしいです。


 ご主人様、方向音痴じゃないんだ。


 駄目なのは性格だけなんですね。


「ご主人様、探しに来てくれてありがとうございます」

「当たり前だ」


 ほっとしたら、何だか疲れがどっと押し寄せて眠くなってきました。


 ご主人様の背中が温かくて、心地いいです。


 ずっと昔転んだ時、お父さんにおんぶしてもらった事を思い出しました。


 会いたいなあ。


 みんなどうしてるかな。


「チヨ、お前は大事なメイドだ。探すのは当然だろう」

「すー、すー」

「ここで寝るのか、お前は」


 なぜだか呆れたようなご主人様の声が聞こえたような気がしましたけど、夢ですよね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る