第36話 放課後の呼び出し

     ※


 午後の授業は滞りなく進み――ホームルームが終わった。


(……今のところ、七希からの連絡もなしか)


 もしかしたら、テロリストに何らの動きがあるのではないかと考えていたのだが。


(……指令役の人間はかなり慎重のようだな)


 だが、必ず動きはある。

 救うにしても、切り捨てるにしても、何らかの接触はあるはずだ。


「――ヤトくん」


「?」


 俺の名を呼んだのはミラだった。


「時間、いい?」


 どうやら、この場では要件を伝えるつもりはないようだ。

 となると、大罪の王に関する話かもしれない。


「わかりました。

 アネア……すまないが今日は先に帰っていてくれ」


「わかった。

 みんなにも伝えておくね」


 アネアの言葉に頷くことで返事をしてから、俺はミラの後に続いた。


     ※


 教室を出て階段を上っていく。

 どこまで行くのかと思っていたが、最上階――屋上の扉をミラは開いた。

 そして直ぐに鍵を閉める。


「随分と厳重ですね」


「……聞かれたくない話だから」


 となると、やはり無法区画に関わる事なのだろう。


「それで、話というのは?」


「……妹さんのこと」


 妹……と、言われて一瞬、何のことかと思ったが、


(……あの時の話の続きか)


 血の繋がらない妹に会う為に、無法区画に行っている。

 その場凌ぎでミラにそんな作り話をしたことを思い出した。


「食料とか、届けに行くんだよね?」


「はい……定期的に届けています」


「なら今日、一緒に行きましょう」


「は?」


「私、無法区画に行くつもりなの」


 なぜ俺も行かなければならないのか。

 そう言い返しそうになったが、ぐっと抑え込む。

 恐らくミラは、生徒一人で犯罪者の集う無法区画に行かせるわけにはいかない。

 だからこそ、自分が一緒に行くことで俺の安全を確保する。

 そんな風に考えているのだろう。


「ですが……先生には先生の予定があるのでは?」


「私の予定は、後回しで大丈夫。

 ちょっと……気になる連絡があって調べたいことができただけ、だから」


「調べたいこと?」


 俺の質問に、ミラは口を閉ざした。


「……妹さんに持っていきたい物は何……?」


「いや、それは……」


 どうやら、彼女の中では俺と無法区画に行くことが確定しているらしい。

 そして定期的に食料を運んでいると伝えた手前、行かないとは言えない。


「ですが、この前……食料を運んだばかりなので……」


「……だとしても、物資はいくらあってもいいよね。

 それに……家族とは一日だって離れたくないでしょ?」


「それは……」


 ミラの言葉からは、自身の事情も想いも重ねていることがわかった。


(……これ以上の否定は、余計な追及に繋がるかもしれない)


 なら、ここは別の手を打つのが無難だろう。


「わかりました。

 では、先生のお言葉に甘えさせていただきます」


「うん。

 ……持っていく荷物、買うなら付き合うから」


 無法区画に行くまで、少し時間を稼ぐ必要がある。

 妹――に会うのだから、その為の用意をしなければならない。


「ありがとうございます。

 なら、一度家に戻って着替えてからきますね」


「わかった。

 ねえ……ヤトくん、連絡先、交換しておこ」


「そう、ですね」


 互いの連絡先を交換する。

 そして俺たちは駅で待ち合わせをする約束をして、一度別れたのだった。

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