第35話 忘れちゃイヤよ

     ※


 あの後、昼食会は穏やかな雰囲気のまま進んだ。

 そして昼休みが終わる間際に解散となった。

 去り際、


「――ヤトくん」


 廊下に出てから、会長が俺の名を呼んだ。


「はい」


「生徒会に誘った件、忘れちゃイヤよ?」


「……はい」


 念を押すということは、あれは間違いなく本気なのだろう。

 軽やかな笑みを俺に向けて会長は踵を返した。


「生徒会に、誘われてたの?」


 今のやり取りを見て気になったのか、アネアが尋ねてきた。

 

「購買でばったり会ったときな」


「会長に誘われるなんて流石だね。

 期待されてるんだ」


「どうだろうな?」


 実際、なぜ俺に目を掛けているのかわからない。

 聞けば教えてくれるのかもしれないが……それを確認するなら、生徒会に入ると決めた時だろう。

 無駄な期待を持たせる必要はないからな。


「流石はヤトさんです!

 彼女として、彼氏が生徒会役員というのはとても鼻が高いです!」


 彼氏になった記憶はないのだが――


「ヤトくんを勝手に彼氏にしないでよ!」


 と俺は思っていたら、アネアが俺よりも先に否定してくれた。


「あらあらアネアさん……嫉妬ですか?」


「し、嫉妬じゃなくて、事実を言ってるの!」


「あら~その割にはなんだか、必死な感じがしますけど?」


「そ、それは……ヤトくんの迷惑になると思ったからで……」


 アネアとクーが睨み合う。

 その視線の間には、火花のようなものが散った気がした。


「あ、あの~……流石に遅刻してしまうので、喧嘩をするなら歩きながら」


 いや、ミルフィー。

 そこは、そもそも喧嘩をしないほうがいい気がする。


「だな。

 遅刻で評価が下がるのもバカらしいだろ」


 ルゴットの意見はとても真っ当だった。

 そんな二人の説得が聞いたのか、アネアとクーは歩きながら再び俺を挟み舌戦を始めたのだった。

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