第34話 気になるわね
「マジかよ……」
誰に言うわけでもなく、呟くようにルゴットは漏らした。
「生徒の処遇すら金で買えると?」
「それだけ価値のある生徒であれば、学園側はそれを許すでしょうね」
俺の質問に会長が淡々と答えた。
その返答を聞いた上で俺はさらに言葉を続ける。
「実際、そういった例があったと捉えていいのでしょうか?」
「難しい質問ね。
実際にあったとしても、学園側は肯定しないと思うわ」
「会長の個人的な意見としてお伺いしたいです」
ディナ会長は俺を見つめ、悪戯っぽく笑ってみせた。
何か俺は、彼女にとって面白いと感じさせることを言ったのだろうか?
「だとしたら……イエスよ」
「なるほど……」
価値のある生徒――金を持った生徒は、邪魔な生徒を退学させることができるわけか。 そうなると自身が
もしくは――こちらが排除される前に、実力で排除するか、だな。
「だから、なるべく敵は作らないほうがいいかもね。
こちらが何もしていなくても、妬み嫉みが敵意に変わってしまう場合もあるのだけど」
学園という小さな社会の中であっても、敵が生まれてしまうのは避けられないか。
この学園は下手な社会よりも競争が激しいのだから、当然と言えば当然か。
「まあ、あまり難しく考えることはないと思いますよ」
俺と会長の話に口を挟んだのは、副会長のルーウィだった。
一年生である俺たちを安心させる為に、優しい言葉を掛けてくれたのかもしれない。
「それは……どうしてですか?」
もしかしたらアネアは、救済措置のようなものがあるのではないかと期待して、理由を尋ねたのかもしれない。
だが、
「絶対に叶わない相手に狙われたら、勝ち目はないですから」
副会長は笑顔であまりにも無慈悲な言葉を伝えた。
同時に室内が静寂に包まれる。
アネアやクー、ルゴットやミルフィーは三者三様の表情を見せてはいるが、少なからず不安を感じただろう。
「あはは……ごめんなさいね。
ルーウィはこれで、あなたたちを気遣って言ったつもりなのよ」
「……? おかしことを、言いましたか?」
副会長は真面目な女性のようだが、だいぶ理論的な人なのかもしれない。
「いえ、そんなことはありません。
無駄なことを考えては息が詰まるのも、事実だと思いますから。
それよりも今出来ることを前向きに考えたほうがいいですよね」
実際、起こるかわからないことを不安に思っても仕方ないのは事実だろう。
それをはっきりと伝えてくれたのは、彼女なりの思いやりなのは伝わった。
「その通りです。
不安もあると思いますが、一年生のうちはこの学園のシステムにも慣れなければいけませんからね。
悩むよりも慣れろです」
真面目な面持ちながら、前向きな副会長の言葉を聞いて、この場にいた一年生一同は表情を和らげた。
「理不尽なこともあるかもしれないから、あまりにも酷いことがあるならいつでも相談してちょうだい。
生徒会長として力になるから」
可憐な容姿の生徒会長が力こぶを作るように両腕を曲げた。
女性の細腕ということもあって、力があるようには見えなかったが不思議と頼れるように感じられたのは、彼女から自信が伝わってくるからだろう。
実際――この学園で会長を務める総合能力は三年生の中でもトップクラスに違いない。
(……あとで確認してみるか)
流石にこの場でアセスを起動してチェックするわけにはいかない。
「あ……それと、私たち三年生には二年生や一年生に伝えられないことがあるの。
それはみんなが上級生になればわかることだから。
でも、今日話したことに嘘はないから、それは安心してね」
それを教えてくれるということ自体が、会長の俺たちに対するせめてもの配慮だろう。
「少し話は変わってしまったけど、食堂の件は現時点では深く気にすることはないと思うわ。何か理由があって、誰かが食堂を貸し切った。関わらなければ大きな意味を持たないこと。その何かをもし知りたい理由があるのなら、ここからは自己責任でね」
少なくとも相手は、食堂を貸し切れるほどの資金力を持っている相手ということ。
「……ちなみに会長は気になりますか?」
「なるわね」
即答だった。
もしかしたら、その理由に関して彼女は個人的に調べるかもしれない。
そんな予感を覚えるには十分すぎる返答だった。
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