第33話 生徒会での昼食
※
ディナ会長の後に続いて階段を上っていく。
やはり彼女は有名人なようで、廊下を歩いているだけでも生徒の視線を集めていた。
同時に会長の傍にいる俺たちも注目を集めてしまう。
「あの一年、今朝も会長と一緒にいなかったか?」
「……あいつ、昨日のテロで活躍したっていう一年じゃないか?」
「ヤト・イラ―クくんでしょ?
めっちゃすごい魔術を使うって噂だよ」
「凄いのはヤトくんだけじゃないよ。
あの子――アネアさんは、テロに巻き込まれた子を助けたんだって」
生徒たちの話し声が耳に入った。
一夜にして随分と有名になってしまったものだ。
俺やアネアだけじゃなく、ルゴットやミルフィーの名前も聞こえてくる。
「ふふっ、あなたたちの噂でもちきりね」
半分は会長のせいですけどね――とは言わないでおく。
「流石はわたしのヤトさんです」
「誰がキミのなのさ! ヤトくんは誰かのものじゃないから!」
クーとアネアがまた睨み合いを始めた。
そんな二人を見て、「仲良しなのね」と会長は優しく笑った。
三階の廊下の突き当たりまで進んだところで、会長と副会長は足を止めた。
扉の上に書かれた室名札には生徒会室と書かれている。
「どうぞ」
扉を開いて室内に入った会長が、俺たち招いてくれた。
「失礼します」
軽い会釈をしてから室内に入る。
生徒会室には他の生徒の姿は見えなかった。
もしかしたら他の生徒会役員もいると思ったのだが……今は昼休みなので、当たり前と言えば当たり前だろう。
「適当に座ってくれていいから」
そう言って、会長は中央の席……ではなく、長机の一番奥に座った。
その隣に副会長が腰を下ろす。
話しやすさも考慮して、俺は会長の対面に座った。
俺の隣にはアネア――が、座ろうとしたところに、
「ヤトさん、お隣失礼しますね」
クーが滑り込む。
「むっ……」
アネアは唇をきゅっとさせ、眉を顰めたが会長の手前もあって争うような真似はせずにクーの隣の席へと座る。
その隣にはミルフィー、続けてルゴットという並びになった。
「それじゃ、食事にしましょうか」
会長は小さなお弁当を机に出して手を合わせた。
「ヤトくん、食べながらでいいから話を聞かせてもらえる?
食堂が使えないというのは、どういうことかしら?」
会長が早速、話題を切り出した。
俺も気になっていたので、事の詳細を伝える。
すると会長は思案するように曲げた人差し指を唇に押し当て、視線を伏せた。
「……それは、気になるわね」
「会長にも思い当たることはありませんか?」
だとすると、日常的に食堂が使えなくなるような事態があるわけではないということだ。
「食堂が占拠されたというのはこれまで聞いたことがないわね。
でも……思い当たることはあるわ。
ルーウィはどう?」
隣に座る副会長に、ディナ会長が話を振る。
「推測の域を出ませんが……いくつか予想はできます」
上級生二人には、俺たち一年が持っていない情報があるということだろう。
「聞かせてもらってもいいですか?」
「この学園は少し特殊でね。
自身の価値に基づいて配当が振り込まれるというのは聞いてるかしら?」
ディナ会長の言葉に俺は頷く。
それは、入学初日に担任であるミラから伝えられていたことだ。
「配当をどう使うかは生徒に一任されている。
そして、たとえばの話だけど――そのお金を使って食堂を一日貸し切るなんてことも不可能じゃないの」
「……学園の施設を貸し切れるんですか?」
「ええ。
勿論、学園側が認めればではあるけれど、法律に触れるようなものでなければ、お金を払えば大抵のことが認められる」
やはりここは、一般的な学園とは違う。
保有している金銭を消費することで、ある程度のルール変更が可能ということなら――資金力は絶対的な武器になる。
「あの……会長。
それって、お金のある生徒はやりたい放題ってことなんじゃ?」
戸惑うように眉を顰めアネアが尋ねた。
「そうですよね。
最低限のルールがあると会長はおっしゃっていましたが……少し不安になってしまいます」
この学園に通う以上、そういった危惧を感じるのは当然だろう。
「……たとえば、金を払えば気に喰わない生徒を退学させるみたいなこともできるんすか?」
会長に対してラフすぎる口調な気はするが、ルゴットらしい物怖じしない口調で質問する。
「そう、ね……」
どう答えたものかと、会長は一瞬躊躇うように言葉を止める。
だが、
「結論から言うなら、答えはイエスよ」
少しの逡巡の後、会長は静かに言葉を返した。
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