第31話 購買部
※
食堂を離れた後、俺たちは自然な流れで購買へ向かった。
中に入ってレジを待ちながら周囲を見回す。
もう少しこぢんまりした場所を想像していたが、それなりに広い一室をまるまる購買にしていた。
(……というか、教室よりもずっと広いな)
昼食の時間ということでお弁当やパンなどが大量に置かれているが、日用雑貨やお菓子なども並んでいる。
俺はコッペパンを一つ手に取ってレジに並んだ。
「いらっしゃいませ~」
俺たちが並んでいた列の先で、可愛らしい少女が出迎えてくれた。
見た目は中学生くらいに見えるのだが、アルバイトの少女だろうか?
「店長、コロッケパンと焼きそばパンの在庫が無くなりそうです」
「了解~! 今日はやけに売れるね~!」
隣のレジの店員に返事をしたのは、目の前の少女の方だった。
「店長なのか?」
「そうだよ~。
こんな見てくれだけど、学園に雇われてる魔科学士なのです」
「マジか?」
「冗談かも?」
「かもってなんだかもって!」
「ふふ~ん。
ある時は凄腕の魔科学士、ある時は可愛い中学生――しかしてその実体は――購買の店長さんなのだ」
結局、店の店長なのか。
掴みどころのない不思議な人だ。
見た目幼い印象はあるが、中学生というのも怪しい。
「それで、キミは何をお求め?」
言われて俺は手に持っていたコッペパンを出す。
「コッペパン!?
こんなに沢山の食べ物があるのに、コッペパンなの!?」
「ダメか? コッペパン?」
「ダメじゃないけど……寧ろコッペパンでいいの?」
「一番好きまである」
「そう……ふふっ、キミって面白い子だね」
コッペパンを買うだけでなぜ笑われたのかわからない。
美味いのにな、コッペパン。
「ボクはルキアって言うんだ。
キミは?」
「ヤトだ」
「ヤトくんね。
笑わせてくれたお礼にこれはお姉さんからのプレゼント」
言ってルキアは俺に缶詰を渡してきた。
「お店では売られていないボクが作った特製のジャムだから」
「……特製?」
怪しい。
が、まあ心配なら食べなければいいか。
「最高に美味しいから! 本気でほっぺた落ちちゃうよ♪」
そこまで言うのなら、よっぽどの自信作なのかもしれない。
「それともし欲しいものがあるなら、いつでもここに来るといいよ。
時間は掛かるかもしれないけどボクなら大抵の物は手に入れてくるから」
「学園の購買部なのにか?」
「嘘じゃないよ~。
おむつからイギリカ最新鋭の機動兵器、それに古代の魔術書だって……お金が出せるなら、なんだって手に入れてみせるから」
俺の疑いの眼差しを受けて大言壮語を口にする。
だが、嘘を言ってるようにも見えなかった。
「まあ、もし必要ならお願いするかもな」
購買はますます混んできているので、あまり長話をするわけにもいかない。
俺はサクッとお会計を済ませた。
「キミにならサービスしちゃうからね。
ボク……人を見る目はあるほうだと思うから」
直感、だろうか?
彼女が俺に何を期待しているのかはわからないが、本当に大抵の物を手に入れられるって言うのなら、頼らせてもらう時がもしかしたらあるかもしれない。
手を振って俺を見送るルキアを尻目に、俺はみんなよりも一足先に購買を出たのだった。
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