第30話 占拠
※
食堂の前には人だかりができていた。
いや、人だかりというか長蛇の列……というほうが正しい。
苛立っている生徒も多く、明らかに様子がおかしい。
どうやら食堂に入れないようだ。
「……トラブルでもあったのかな?」
心配そうにアネアが生徒たちを見つめる。
「ちょっと様子を見てきますね」
クーは小走りで扉の前にいる生徒たちに向かっていった。
そして何度か生徒たちと話をしてから、こちらへ戻ってくる。
「どうやら、食堂が占拠されてしまったみたいです」
「「「「占拠?」」」」
思いもよらないクーの言葉に俺たちの声が重なる。
「はい。
今日は貸し切りだと言って、二年の先輩が占拠していると……」
「そんなバカな話があるのか?」
ルゴットが眉を顰めるのも当然だろう。
生徒が食堂を貸し切るなんて荒唐無稽な話だ。
なぜそんなことをするのか――いや、そもそも本当に生徒がやったのか?
(……学園内であれば生徒の行動は間違いなく把握されているはずだ。もし食堂が使えなくなったのなら、何かしら連絡が来てもいいように思うが?)
今のところアセスに学園側から連絡は来ていない。
だが、もし生徒が問題行動を起こしているのなら、裁きが下される可能性が高いはずだ。
(……そうなると、学園側は問題がないと判断した?)
食堂という公共の場を、一時的とはいえ奪う手段があるということか?
もしかしたら、まだ俺たちには知らされていない、もしくは知らせることのできないルールがあるのかもしれない。
(……気になると言えば気になるが……)
だが、今は昼食をどうするかが問題か。
(……一食くらい食べなくても問題はないと思うが……)
考えながら周囲を見回すと、アネアと目があった。
判断を委ねるように俺を見ている。
ルゴットはお腹を抱え、その隣ではミルフィーが「どうしましょう?」と首を傾げる。 クーは唇に指を当て、何かを考えているような素振りを見せていた。
「……ここにいても事態は変わらないだろ。
一旦、移動するか」
ここにいて、誰に向ければいいかわからない不満をぶつけているよりはいいだろう。
それに食堂が使えないとなると、
(……購買も混んでるかもな)
その言葉は今は口には出さない。
この場で長蛇の列を作っている生徒たちが、一斉に購買へ向かってしまうかもしれないからな。
多分、今向かえばそれほど待たされることなく昼食を買えるだろう――と、俺は踵を返して、少し速足でこの場を離れたのだった。
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