第27話 新しい友達
教室へ到着すると、生徒たちの視線が俺に一斉に集まってきた。
会長の言っていたように、この価値の上昇で間違いなく注目されているのだろう。
(……俺よりも価値の高い生徒はまだいくらでもいると思うが)
急上昇の注目株というほうが、話題性も含めて目立つということかもしれない。
とりあえず、気にした素振りは見せずに俺もアネアも席へ着いた。
すると、
「あの……」
クラスメイトの少女が、こちらに歩み寄ってきた。
小柄だが、一目で可愛らしいと思う容姿をしている。
「なんだ?」
「……あの、お願いがあります」
「お願い?」
突然のことに何も考えず言葉を返してしまう。
「はい! わたしと――付き合ってくれませんか?」
……うん?
一瞬、思考が止まった。
が――
「え、ええええええええええっ!?」
その止まった思考を動かしたのは、アネアの驚愕だった。
「つ、付き合うって、そ、それって恋人になってほしいってこと!?」
「はい! ヤトさんに一目惚れしてしまいました」
アネアの質問に、少女は一切の迷いなく即答する。
そして付き合うという意味が、そちらの意味で間違いないということも確認できた。
しかし、今のタイミングで一目惚れと言われても、価値が上がった生徒に粉を掛けようとしているようにしか見えない。
普通に考えれば断るのが当然だと思うが、
「そ、そんなのダメ!」
なぜかヒートアップしていく二人の間に、俺が口を挟む余地がなかった。
「ダメって、あなたはヤトさんの彼女さんなんですか?」
「か、彼女じゃ……ない、けど……」
「なら、邪魔をしないでください。
わたしはヤトくんと話しているんですから」
「で、でも……と、とにかくダメなの!」
アネアは慌てて立ち上がり、俺と少女の間に割って入る。
二人の少女が睨む合うように視線を交差させた。
「……なあ、ちょっといいか」
「はい!」
俺が声を掛けると、少女は可愛らしい表情に満面の花を咲かせて意気揚々と返事をしてくる。
もし尻尾があったならぶんぶんと振られていてもおかしくない。
そんなイメージが頭に浮かんでしまった。
「とりあえず、キミの名前を教えてもらってもいいか?」
「あ……これは失礼しました。
わたしはクーリエ・ミストンです。
クーとお呼びいただければと!」
「クーか。
よろしくな。
知っているみたいだが、俺はヤト・イラ―クだ」
「よろしくお願いします、ヤトさん」
クーリエはその場で一礼した。
「それでさっきの話に戻るんだが……」
「はい! わたしをヤトさんの恋人にしてくれませんか?」
クーリエが俺の目を真っ直ぐ見つめる。
それは、嘘のない綺麗な眼差しだった。
俺に向ける態度に、一切嘘が見えない。
(……好意があるのは嘘ではないということか? だが一目惚れというのは、どうにも疑わしい。このタイミングでの接触というのは、何か含みがある気がしてならない)
まあ、どちらにしても俺の返事は変わらない。
「俺たちはまだ会ったばかりでお互いのことを何も知らないだろ?
だから付き合うことはできない」
「そうですか。
なら……お友達からはどうでしょう?」
「うん?」
「だって、そうすれば今よりももっと私のことを知ってもらえますよね?」
「ぁ……いや……」
しまった。
学生の間は誰とも付き合うべきではない――というような言い回しをすべきだったか? 相手が友達になることを求めてきた以上、そこは拒絶すべきではないだろう。
(……強く拒絶すればコミュニケーションすらまともに取れないと判断されるかもしれない。それが原因で俺の価値が下落する可能性もゼロではないだろう)
それに、今後もクラスメイトとして接することになる以上、わだかまりは残すべきではない。
この学園で過ごす中で、何がどう障害に繋がってくるかわからないのだから。
「……わかった。
友達でいいなら」
何か狙いがあるのなら、改めてクーリエから何かアクションがあるだろう。
それが大きな問題になる前に対応すればいい。
「――ありがとうございます!
ヤトさん、わたし――すっごく嬉しいです!」
俺の思わなくなど関係なく、クーリエは嬉しさを抑えられないとばかりに、俺の胸の中に飛び込んできた。
その瞬間、教室にいた生徒たちからの歓声や嘆くような声が上がる中で、傍にいたアネアの悲鳴だけは俺の耳にはっきりと届いていたのだった。
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