第26話 期待のニューフェイス

「え……3億って!? すごい! ヤトくん、すごいよ!」


 その数字の大きさに驚いたのか、アネアは目を丸めている。

 だが価値を上げたのは俺だけではない。


「アネア……これを見てみろ」


 俺は自身のデバイスのディスプレイを彼女に向ける。


「? ……えっ!? 五千万!? って――なんで私まで!?」


 まさか自身の評価がここまで上がっているとは思わなかったのだろう。

 何が起こったのか理解できない様子で、アネアは丸まっていた目をさらに丸めた。

 俺とアネアだけじゃない。

 あの場でテロリストと交戦した四名――ルゴットとミルフィーも急激に価値を高めていた。


「驚くことなんてないわ。

 あなたたちは、失われるはずだった命を救ったんだもの。

 その勇気は評価されて当然よ」


 ディアは柔和な笑みを浮かべながら、心からの称賛を送ってくれた。


「そんな……私たちは当然のことをしただけで……」


 アネアは生徒会長からの称賛を嬉しく思いながらも、急激な価値の上昇に戸惑っているようだった。


「それを当然と思って行動できたのなら、より評価されるべきことね。

 ヤトくんも、そう思うでしょ?」


 突然、ディアに話を振られて俺は頷き返す。


「そうですね。

 人としてアネアは立派なことをしたと思います」


 そう答えたが、内心では完全な肯定はしていなかった。

 誰かを守る為に行動するというのは簡単なことではない。

 普通なら保身を一番優先して考えてしまうだろう。

 誰だって、自分が一番可愛いというのが本音のはずだ。

 だが、その行動を取ってもいいのは――問題を解決するだけの力を持った人間だけだ。 そうでなければ、被害を広げることに繋がりかねないからだ。


(……だが、あの時のアネアは俺が救助に駆け付けると信じた上で行動していたようにも感じる)


 人を信じることが出来る。

 その真っ直ぐな想いと、彼女の人間としての善性を俺は個人的に評価したいと思う。


「も~う。

 ヤトくんってば、なんでそんな他人事みたいに言うのかしら?

 アネアさんだけじゃなくて、あなたたちみんなが立派だと私は言ってるのよ?」


「あ、そうだったんですか?

 会長に評価してもらえるのは光栄です。

 でも、俺だけ異常に価値が上がってるのは……これ何かのバグなんですかね?」


「アセスにバグが発生したことは、私がこの学園に入学してから一度もないわ。

 これは正当な評価よ」


「そう、なんですか」


 あの場にいた四人の生徒の中で、俺の価値だけが異常に上がっている。

 これは、俺がテロリストたちと交戦して倒したという事実が確認されたからだろう。


(……学園区画中、監視されているようなものだな)


 やはり学園区画内にいる間は、あらゆる行動が生徒の評価に繋がるということが結果としても証明されたわけか。


「ぁ……それとヤトくん、評価が急激に上がった生徒はよくも悪くも注目されるから気を付けて」


「気を付ける?」


「ええ。

 期待のニューフェイスに取り入ろうとする生徒もいれば、出る杭を打とうとする生徒もいる。

 価値が上がるというのはよくも悪くも多くの人たちに注目されてるっていうことだから、油断しないでね」


 俺に注意を促してから会長は踵を返した。

 気付けば生徒たちの視線が俺たちに集まっている。

 昨日の事件のことが広まっているのもあるが、会長と親しそうに話していることもあって目を引いてしまったのだろう。


「引き留めちゃってごめんなさい。

 またどこかで、ゆっくりと話しましょう」


「そうですね。

 ありがとうございます、会長」


 面倒見のよい会長に感謝を伝えてから、俺たちは話を切り上げて教室へと向かうのだった。

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