第21話 事件のあと
※
今回の事件の生存者は一名。
助けられた少女は直ぐに、救急車で病院へ搬送されることになった。
俺とアネアは付き添い人として共に病院へ。
駆けつけてきた警備隊から、事件の事情聴取を聞きたいと言われたが、そちらはミルフィーとルゴットに任せることになった。
もしかしたら後日、簡易的な聞き取りがあるかもしれない。
※
それからまた時間は流れ、病院での診察が終わった。
幸いにも少女は軽傷で後遺症が残ることもないようだ。
話を聞くと、少女は母親へのプレゼントを買いに、一人でショッピングモールへ来ていたらしい。
病院から連絡を受けた少女の両親は慌てて病院へと駆けつけて、事情を聞き俺たちに深々と何度も感謝を伝えた。
精神的なトラウマが残ることに関して不安はあったが、家族の支えがあれば辛い記憶も乗り越えていけるだろう。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん……ありがとう!」
病室を去る直前、少女は感謝の言葉を伝えてくれた。
その表情にもう不安はない。
両親の傍で無邪気な笑顔を見せる少女に、アネアも優しく微笑んだのだった。
※
「……ヤトくん」
病院から帰る途中、不意にアネアが俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
「まだ私……お礼、言ってなかったと思って……助けてくれて、ありがとう」
「大したことはしてないよ」
「命懸けで私を助けてくれたことが?」
なるほど。
確かにそれは大したことか。
だが、あの程度なら自分が死ぬことはないとわかっていた。
大規模な爆発が起こったとしても、魔術で防ぐことは難しくない。
つまり俺は、ほぼリスクなく利用価値がある人間を助けられる可能性があった。
だから彼女を助けただけのことだ。
「一歩間違えたら、私のせいでヤトくんまで……」
自分のせいで、俺が犠牲になったかもしれないとアネアは思っているのだろう。
だが、そんな心配をする必要はない。
「アネア……二つ伝えておく」
言って、俺は足を止めた。
するとアネアも足を止めて俺の目を見つめる。
「……なに?」
「仮にもし……キミを守ろうとして俺の身に危険が起こっても、キミは気に病む必要はない」
「え……そんなの……」
「これは仮の話だ。
そもそもの大前提を伝える」
俺はキミを利用する。
その為に近付いただけだ。
だから、俺の為に傷付く必要はない。
「この先、何が起ころうとキミは死なない」
「え?」
「何があっても、俺が守るからな」
俺は、俺の目的の為にアネアを守ったに過ぎない。
だから感謝も謝罪も必要ない。
「……どうして、そこまでしてくれるの?」
それを正直に伝えるわけにはいかない。
だから今から言うことは嘘だ。
でも、全てが嘘じゃない。
これは俺が本気で思っていることでもあるから。
「友達を助けるのに、理由はいらないだろ?
俺はアネアを助けたいと思った。
それが理由じゃ、おかしいか?」
「……おかしくない。
おかしくないけど……私は、友達として……ヤトくんに何もできてないから……甘えてばっかりじゃ……」
それが負い目になっているのだろうか。
それすらも気にする必要はないんだ。
「もし、どうしても気になるなら……そうだな。
俺がもしピンチになったら……その時はアネアが助けてくれ」
「私に……できるかな?」
「出来る限りでいいさ。
それに、今は難しいかもしれなくても、これから先の未来で成長していったキミなら出来るかもしれないだろ?」
深い意味で伝えた言葉じゃない。
これは、その場凌ぎの言葉だ。
ただ、少しでもアネアの気が楽になるのなら、それでいい。
「わかった。
約束する……いつか、ヤトくんの力になれるくらい、私……がんばるから!」
アネアの瞳が力強く輝いた。
それはアネアにとって、自身を奮起させる誓いだったのかもしれない。
その返事を聞いて俺は再び歩き出した。
今日の出来事を切っ掛けに、彼女がどう成長していくのか。
それは矛盾したことでもあるはずなのに、少しだけ楽しみだと感じている自分がいた。
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