第22話 ミラの心配

     ※


 寮に戻ると、玄関口に予想外の人物が立っていた。


「ヤトくん、アネアさん……よかった」


 駆け寄ってきたのは担任のミラだ。


「ミラ先生!?」


 アネアもミラがいるとは思わなかったのだろう。

 少し驚いた様子で彼女を見ている。


「さっき発生したテロのことで、学園にも連絡が入った。

 あなたたちが巻き込まれたと聞いたから……」


 どうやらミラは、俺たちを心配して寮まで駆け付けてくれたらしい。


「怪我がないようでよかった」


「すみません……ご心配、お掛けしてしまって」


「気にしなくていいよ。

 二人が無事でよかった。

 でも、学園内でテロ行為が発生するなんて……」


 あれだけの警備体制が整っているなら、テロなど起こるはずがない。

 それは学園区画の多くの住民が思っていることだろう。

 だからこそ気になることがある。


「学園区画で犯罪者によるテロが起こったことは、これまでどのくらいあるんだ?」


「ここ数年は記録に残るほど大きなテロは発生してない。

 パンゲア軍の統治もだいぶ進んだから」


 日本――現在では第二十三パンゲア領と言われるこの国には、今も決して少なくない犯罪者が存在する。

 その中には日本人もいれば、日本に逃げてきた各国のお尋ね者も少なくはない。

 だが、これだけ厳重な警備体制を整えている学園区画で犯罪行為――ましてや大規模なテロを起こす犯罪者などほとんどいないだろう。

 犯罪者もバカではない。

 テロなど起こせばパンゲア軍との抗争に成りかねないことはわかっているはずだ。


(……大犯罪者時代と言われた罪の王の時代であれば、話は別かもしれないが……今は大きな犯罪組織もほとんどない)


 なら、なぜこんなテロ行為を起こしたのか。

 それにただの犯罪者にしては……あれだけの人数を上手くまとめていたように思う。

 犯罪者の寄せ集めであれば、もっと好き勝手動いて暴れまわったり、窃盗を繰り返すなんて奴らもいるだろう。

 だが、あの犯罪者たちにそれはなかった。

 要するに計画性の高さや、練度の高さを感じたのだ。


「……何か思い当たることでも?」


 ミラが訝しむように俺を見た。


「いえ……今は、まだ」


「そう……何にしても、あまり無理はしないで。

 あなたたちが犯罪者と戦闘になったことも報告は受けてるから」


 そう言って俺にジト目を向けるミラ。

 これには、強く注意する意味を多分に含めているだろう。


「冗談ではなく、暫くは本当に注意して。

 私たち教師も少しの間、見回りに協力することになったから」


 念の為の警戒なのか。

 それとも、学園側もそれなりに事態を重く見ているということなのか。


「了解」


「わかりました」


 俺たちの返事を聞いた後、ミラは伝えるべきことは伝えたとこの場を去っていった。

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