第11話 価値基準
「そういや、知ってるか?
アセスは生徒をスキャンすることで、情報が表示できるみたいだぜ」
ルゴットがデバイスを俺に向ける。
その数秒後、手に持っているデバイスを今度は俺に向けた。
「な?」
画面には俺の生徒情報が表示されていた。
生徒番号やクラス、能力の総合評価。
俺の総合評価はDランクだった。
これなら生徒の名前がわからなくても情報を確認することができる。
試しに俺もルゴットたちをスキャンしてみた。
ルゴット――総合評価Dランク。
身体能力はB+ランクと高い。
が、学力はEランクと最低値に近い。
ミルフィー――総合評価Cランク。
学力、社交性がBランク。
だが身体能力はEランク。
アネア――総合評価Cランク。
特筆すべき能力はないが、全ての能力が平均的。
「へぇ~こんなこともできるんだね。
生徒情報の項目から検索ができるのは知ってたんだけど……」
話ながら、アネアはデバイスを取り出して、アセスを起動した。
そして生徒情報から自身の情報を表示させる。
ディスプレイには、アネアの価値を示す数値が表示された。
(……うん?)
だが、ディスプレイに表示されている彼女の価値を見て、俺は違和感を覚えた。
見えたのは隣の席の俺だけだろう。
だが、ほんの一瞬で、アネアは画面を切り替えてしまった。
気のせいだったかもしれないが……試しに俺も、アネアの能力情報を表示してみる。
(……やはり表示される情報が違う)
俺のデバイスに映るアネアの総合評価と。
アネアのデバイスに映る彼女の総合評価が異なっている。
(……どういうことだ?)
システムのエラー?
もう一度、情報を更新してみるが変化はない。
考えていると、
「ヤトさん、どうかされましたか?」
ミルフィーが不思議そうに俺を見ている。
俺が黙っていたのが気になったようだ。
「いや……」
少しの逡巡のあと、
「……一年で総合評価が一番高い生徒は誰なのかと思ってな」
誤魔化すように言った。
数値の違いは気になったが、今は口に出すべきではない。
そう判断した。
「あ、それでしたら、ソート機能を使うと並び替えをすることができますよ」
ミルフィーが俺の質問に説明をしてくれた。
生徒情報から学年を選択。
デフォルトは名前順になっているが、試しにランクで並び変えてみる。
すると総合評価順に生徒が表示された。
(……現時点で総合評価一位の生徒は……一年C組のアヴィー・アーランド、か)
一年ながら総合評価A+ランク。
各能力にBランク以下はない。
特筆すべきは魔力――AAAランクという評価を与えられていた。
「Cクラスの生徒なんだね。
一年で総合評価A+ってほとんどいないんじゃないかな?」
「調べてみた感じだと、三年生まで含めてもA+ランクが最大評価だと思います」
だとすると、アヴィーは一年時で既に最大評価の生徒ということになる。
女子生徒に対して褒め言葉にはならないが、その評価は化物と言っていいだろう。
「生徒の市場価値に関しては生徒情報からは見られねえんだな」
画面を切り替えて、生徒番号から市場価値を検索してみる。
すると、
「えっ!? ご、五百億って!?」
アネアの口から、溜息と共に声が漏れた。
アヴィーの学園市場の価値は――五百億。
一年、それも一人の生徒に与えれた金額としては破格と言っていいだろう。
その価値が与えられる人間。
この先の未来――それ以上の価値を生み出すと期待される人的資産。
「アヴィーさんの圧倒的な魔力が評価された結果でしょうか?
それにしてもすごい金額ですが……」
これほどの価値が与えられる理由。
それがなんなのかは、この場で話している全員が疑問に思っただろう。
「学園のシステムによる人の価値ってのは、どうやって決められるんだろうな」
「どうって……それはルーラーが決めてるって話だろ?」
生徒の価値はルーラーが決める。
そして、生徒個人の能力から算出されるという説明はあった。
なら、自身の能力の高さは価値へと繋がると考えて間違いない。
だが本当にそれだけか?
「そのルーラーの価値基準をもう少し知りたいと思ってさ。
学園の生活も立ち回り安くなるだろ?」
「なるほど……。
査定に関わる具体的な基準は何かという話ですね」
俺は頷き、ミルフィーの言葉を肯定した。
そして話を続ける。
「リカルドは違法行為で、学園市場の価値が暴落して退学になった。
この学園で暴力は認められない」
「その点に関しては、ルーラーの価値基準が判明したって考えていいよね」
アネアの言う通り、暴力行為は市場価値を下げる。
それがルーラーの価値基準の一つということで間違いはないだろう。
「ちょっと疑問なんだけどよ。
もし違法行為をしたとして、バレなかったら?
ルーラーはどう判断すると思う?」
「それは……どうなんだろうね」
「バレてないってことは、犯人がわからない状態だろ?
ならその時点で価値が下がるってことはないかもな」
「……それだけならいいのですが……」
ミルフィーは視線を下げ、不安そうな表情を見せた。
彼女は、俺が言おうとしていることに気付いたのかもしれない。
「……もし犯罪行為を隠蔽して、完全犯罪として成立させたなら……ルーラーはそれを実力と――価値のある人間と評価するのか?」
「え……それって……」
俺の話を聞き、アネアは戸惑いの表情を浮かべた。
「もしそうなら、ルーラーの価値基準って私たちが思ってるよりもずっと複雑なものなんじゃ?」
言いながら、戸惑いから不安へと表情が変わっていく。
その時――
ガアアアアアアン!
と、衝撃が食堂に響いた。
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