第2話 セブンス・ホープ
※
(……掃除完了だな)
騒音を発していた最後の一人を無力化した。
が、貴重な睡眠時間が無駄になった。
(……どこのグループだろうか?)
大した戦力でなかったことを考えると、犯罪者ランクは甘く見てD程度。
無法区画にはよくいるレベルだ……が、念のため
何かしら使い道があるかもしれないからな。
(……と、そうだ)
まだ終わってなかったな。
あと一人――この無法区画の住民にしては、あまりにも浮いている少女がいた。
「君は……?」
「……ミラ・ルネット」
俺の質問に銀髪の少女は淡々と答えた。
少女の眠そうなまぶたが開き、眉毛が小さく揺れる。
随分と容姿の整った少女。
こんなところにいたら、犯罪者たちの目に止まり売られてしまうだろう。
わざわざ一人で無法区画に来るなんて……世間知らずのお嬢様の社会見学にしては、大きな代償を払うことになりかねない。
(……どうしたものか?)
俺は対応を悩んでいた。
(……この死街まで、一般人が入ってくるなんて。何か理由があるのか?)
万が一、この少女が俺を狙ったパンゲアの兵士だとしたら?
(……いや、それはないか?)
表向きの発表で俺は死んだことにされている。
日本がパンゲアに侵略されたのは、もう十年前の出来事だ。
当時の関係者でも、成長した俺の顔を知る者は少ない。
「……直ぐにここを離れたほうがいい。
無法区画は君みたいな子がいていいところじゃない」
俺は彼女を見逃すことを決めた。
理由もなく、誰かの命を奪う必要もないだろう。
「ねえ……あなたの名前も聞いていい?」
「え? ああ……名乗ってなかったな。ヤト・イラークだ」
俺は偽名を伝えた。
もう二度と会うことはないが……念には念を、だ。
「ヤト、くん」
少女は迷うように【くん】付けをした。
初対面の相手をどう呼ぶのか悩んだのかもしれない。
「君はなんで、こんなところにいるの?」
それは、どういう意味だろうか?
「ここには、あなたみたいな強い人が、沢山いるの?」
「……無法区画に興味があるのか?」
「うん。私は知りたいことがあって、ここに来たの」
ミラは真っ直ぐな瞳を俺に向けながら、俺に答えた。
嘘は吐いているようには見えない。
だがこの少女は、第二十三パンゲア領の学生だ。
しかも、世界中から行き場の失った犯罪者が集うこの無法区画で何を知りたいと言うのだろう?
いや、そもそもこれ以上は深入りすべきではない。
それがお互いの為だろう。
「悪いが俺はここの人間じゃないんだ」
「……? じゃあ、なんでこんなところに?」
「そうだな……犯罪者を倒すのが趣味なんだ」
「……それ、ほんと?」
ジト~~~っと、訝しむような眼差しを向けられた。
だが、嘘は言ってない。
「判断は任せるが一つ忠告だ。
怪我をしたくなかったら、もう帰ったほうがいい
中途半端な実力でここにいるのは、命を捨てるようなものだ」」
それだけ伝えて、俺はこの場を立ち去ろうと踵を返した。
「待って――無法区画の犯罪者に詳しいなら教えてほしい。
セブンズ・ホープという犯罪組織を知らない?」
なぜ、彼女がその名前を知っているのか?
いやそんなことは、もうどうでもいい。
俺はセブンズ・ホープの名前を聞き、この少女に対する警戒を強めた。
「……知らないな」
「なら、大罪の王について何か――」
返事はせず、俺は足を進めた。
もう振り返ることはない。
「お願い、話を――……ぇ……?」
思わず漏れた少女の声。
「うそ……消え、た……」
彼女に俺の姿は見えていなくとも、その声は確かに俺に届いていた。
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