その49 左町さんは発音が苦手
闘技場の隅、人気のない所で自分を落ち着かせる……。
いやいやいや……。
さっきのあれはなんだ?
なぜオレは……あんな醜態を人前で晒したのだ……
なぜ取り乱し、怒り、そして泣くなどと……現実の世界でそんなことあるはずはないのに……。
やはり身体能力強化の影響か? アレを使うと、どうも情緒不安定になってしまう気がする。
うら若き乙女を人質に取って脅し、さらに躊躇なく100人も消してしまったのも、その影響なのではなかろうか。
うーん……困ったね。副作用にメンヘラになるとか、とんだ欠陥品じゃねえか。
クレームだクレーム!
なに冷めた目でコッチ見てたんだ仲村さんは……アンタのせいだよ。
────────
んー……気分を落ち着かせてたら、いつの間にやらはぐれてしまった。
闘技場の中は冒険者でごった返しておりパルデンスの皆がどこにいるのか分からない。っていうか……どこですかここ。
「おい。アンタさっき外で泣いてたオッサンだろ」
「え?」
突然見知らぬ冒険者に話しかけられる。
「パーティー『プルメリア』の冒険者、カーパー・ヴェントだ」
男はこちらに自己紹介をしてきた。
「どうも。ベントさん。私は……」
「『ベント』じゃねえ『ヴェント』だ」
「ブェントさん?」
「ブェじゃねえ。『ヴェ』だ」
「べェ?」
「『ヴェ』だ! 『ヴェ』! 『ヴェント』だ!」
「左町です。よろしくお願いします」
「オイ! 諦めんな! 『ヴェ』だ! 『ヴェ』! 『ヴェント』!」
ちっ……うるせえな。英語教師かコイツは……
「あの……なんの御用でしょうか?」
「ちっ……まあいい。パルデンスが大賢者を囲ったって話を聞いてな。アンタ、あの大賢者様のお師匠様って話じゃねえか」
「はぁ……まぁ、一応そうなってますね」
「ふーん……魔力を一切感じねえのにな。ただよ……アンタから凄えイヤな感じがしてな……気になって声をかけたんだ」
随分と失礼な物言いをするヤツだ。10万と41歳だぞ、オレは。
「へえ。そうですか。で? どうです?」
「ふ……さあな。アンタのそのイヤな感じ……ここの連中も何人かは感じてるみたいだぜ。気ぃ付けるんだな」
「わざわざどうも『カウパー』さん」
「『カーパー』だ! へっ……イヤなヤツでよかったぜ。思いっきりぶっ飛ばせる……じゃあな」
そう言うと、その冒険者は人混みへと消えていった。
むう……なんて失礼なヤツだ。お前なんかドクトゥス君にぶっ飛ばされちまえ!
「サマチ様ー!」
遠くの方から手を振りこちらに駆け寄って来る巨乳が一人。マーレだ。
アンタは人前でそんなに走っちゃダメだよ。周りの男共の目が二つの揺れるメロンに釘付けですよ。
「ここにいらっしゃったんですか。皆、探しておりますよ」
「ごめん、ごめん。ちょっとはぐれちゃって。そしたら……えーっと……カウパー・ベットォみたいな卑猥な名前のヤツに絡まれちゃって……」
「え?」
マーレの顔が固まる。
あ、マズイ……若い娘相手にする冗談じゃなかったな。セクハラだったか?
「もしかして『プルメリア』のカーパー・ヴェントですか?」
「ああ。うん。そう、それそれ。有名人? マーレさん知ってるの?」
「『竜殺しのヴェント』……3年ほど前に単独でのドラゴンの討伐を成し遂げた『大陸七大英雄』の一人です」
「ぷっふ! た、『大陸七大英雄』『竜殺しのベント』(笑)い、いい年こいたオッサンが(笑)『竜殺しのベント』(笑)ッッッッッッwww」
「え……え? わ、私、今なにかおかしなことを……」
「ッッッッッッッww」
「サ、サマチ様?」
「ッッッッッッッww」
「え? え? どそうなさったのです?」
突然の爆笑にマーレがオロオロしている。
いやだって(笑)アイツあんなちゃんとしてそうなナリして(笑)そんな厨二病全開の二つ名が!? こりゃヤバイ(笑)
「そ、その……大陸七大英雄には、その……ドクトゥス様とタクミ様も含まれておりまして……」
「え?」
そ、そうか……。あのオッサンと拓光はともかく、ドクトゥス君まで貶めるようでよくないな。
「ゲ、ゲフン……あ、あーそう。大陸七大英雄ねえ。ふーん……ドラゴン征伐ってそんなに凄いんだ?」
「それは、もちろん! ドラゴンは究極の生命体です。知能は高く、あらゆる魔法を使いこなします。
竜の鱗は剣、魔法問わずあらゆる攻撃をはじき……その巨躯から繰り出される一撃は全てを破壊します。
通常、ドラゴン討伐の際は多数の被害を承知の上で複数のギルドで連携して行います。それを単独で討伐となると前代未聞ですから、とてつもない偉業です!」
マーレが凄い早口で説明してくる。ファンなの?
「ふーん……アレそんなに凄いのか」
オレも『黙示録の竜』とか『漆黒の邪竜』とか……前の3つの世界でも何匹か消したな、そういや。ここの世界と評価の違いがあるかもしれんから比べられんけど。
「サ、サマチ様も、もしやドラゴンと対峙された経験がおありなのですか?」
「え? うん。まあなんか4、5匹くらい」
「4、5匹!? ぜひお話を! 一体どんな壮絶な戦いだったのです!?」
「え? あー……どうだろ。2体同時に襲いかかられた時でさえサクッと終わったから……そんなに印象に残るようなことはないな」
実際のところ『英雄殺し』を前に突き出しているだけで終わってしまう。図体がデカイと攻撃すべてがデカいので『英雄殺し』をかいくぐるような攻撃が出来ないようだ。勝手に現れて勝手に攻撃してきて勝手に消えていく。それが竜に抱いてるオレのイメージだ。まあ……怖いモンは怖いんだけどさ。
「す、凄い! やはりサマチ様は素晴らしいです!」
今の話に興奮したマーレは惜しみない賞賛をくれる。
なんか喜んでくれてるようでなによりだ。別に嘘はついてないし、たまにはチヤホヤされておこう。さあパルデンスの女性冒険者達にこの話をもっと広めたまえ。
そうこうしていると、周りの人々が騒がしくなってきて奥の方へと移動し始める。そろそろ開会式が始まるようだ。
「じゃ、行こうか。もう始まるんじゃないの?」
「ええ、そうですね!」
そう言ったマーレはコチラに腕を絡めてピッタリとくっつくと
「行きましょう!」
とニッコリと笑った。
な、ななななななな……なんだ!? 奥から怖い兄ちゃんが出てくるのか!?
キレイな花のトゲしか知らないオレは、腕にあたる2つの柔らかい球体に意識を持っていかないようにするのが精一杯だった。
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