その48 左町さんはある人種に人権がないことを憂いている
結局、ドクトゥス君に
「不戦勝とはいえ、出ないわけには……」
と言われたので開会式と予定されていた1回戦までは団体行動をとることにした。まあ、当然っちゃ当然だな。
しかし、まあ……今日のエンカンの街の賑わいときたら凄まじい。さすがは国内総幸福の国。全ての人が浮かれ、湧いている。こういう日、
「それでは参りましょうサマチ様」
ドクトゥス君がそう口すると門が開く、パルデンスの大所帯が闘技会が行われるコロシアムまで移動するのだ。
さすがは人気パーティーだ。群衆が寄ってきては、応援や祝福の言葉を投げかけてきて前に進めない。まるでパレードだ。
「頑張れよー!!」
「セブンセンスに負けんじゃねーぞ!」
「ドクトゥス様ー!」
特にドクトゥス君は老若男女問わず凄まじい人気である。シルバやマーレ、ニクスも他のメンバー……昨日少し話しただけだが、マルチ、ハッチ、キューだったか? かなり若いであろう彼女達ですら声をかけられ、名前を呼ばれ、それに応えている。
しかし、その中央、最前列に場違いなオッサンが一人デンッと添えられている。オレだ。
……ドクトゥス君や他のメンバーからするとオレを持ち上げてくれたのだろうが、非常に居心地が悪い。
拓光はこの世界では大賢者で有名人であるが、今回は状態が状態なだけに目立たない所で仲村さんと一緒にいる。
他のメンバーが声援に応える中、オレがまるで注目を浴びていないかと言うとそうでもない。
「誰?」という視線。
まあ……アイドルグループのセンターに突然知らんオッサンがいたら戸惑うよな。気持ちは分かる。分かるが……あまり気分のいいものではない。横を見ると笑みを浮かばせて手を振って声援に応えるニクスがいる。普段割と表情筋使ってないのに……こういう時はちゃんとファンサービスはするらしい。
「なあニクス」
「なんでしょう? サマチ様」
「凄い場違いな感じがしてるんだけど……ここはドクトゥス君が陣取る位置じゃない?」
「ドクトゥス様は……ご自分の推しを推される方ですから……」
はぁ……ドクトゥス君に推されるのは悪い気はしないがね……まあでも分かる。付き合い短いけど分かる。彼ってそういうとこあるよね。周りは関係ないんだ! って感じよね。お気持ちは非常に有難い。有難いが……そうじゃないんだ……ドクトゥス君。
しかしまあ、どいつもこいつも……こちらの方をチラチラ、ヒソヒソと……気になってしょうがない。
……。
ちょっと聞いてみるか……。
アゴに肘をつけて身体能力を上げる。そうだな……5倍くらいで聞こえるか。
(「え? ちょっと見た? なにあれ? キモくない?」)
(「肘とアゴがくっついた……キモ~い」)
聞こえる聞こえる。さっそく悪口言われてる。まあ肘とアゴくっついたらキモいよな……。
(「誰なの? あのオッサン?」)
(「臭そう……」)
(「なにあのマヌケ面……」)
(「邪魔だよ。あのオッサン」)
(「帰れよ」)
むう……ひどい……聞くんじゃなかった。オレだって別に好きでここにいるわけじゃあないのに……
有名人が、よくエゴサしません。って言ってるけど、正解だわ……。こんなんオレのメンタルじゃ耐えられん。
聞くに耐えない自分への罵詈雑言にしょげてしまう。その瞬間……
(「うはっ、頭頂部(笑)」)
という声が耳に届く。
ピシッという音が頭に響いた。……気がした。
「だ……」
こちらの様子がおかしいと最初に気付いたのは、左後ろにいたドクトゥス君だった。
「? ……サマチ様? どうされたのですか?」
心配したドクトゥス君の一言がもはや届いておらず声を荒げる。
「誰だぁああああ!! おい! 今、頭頂部って笑ったヤツ誰だコラぁ!? お前か!? あぁ!? お前かぁ!」
突然の激昂に、その場の全員が驚く。いち早くコレに反応したドクトゥス君が諌めようとする。
「ど、どうなさったのですか、突然。落ち着いて下さい、サマチ様!」
「ドクトゥス君ーー!」
「は、はい!」
「ど、どうなってんだー! この世界は! はぁ? 性別や肌の色で差別してはいけないのに? 太っててもブサイクでもバカにしてはいけないのに! 尻尾があってもケモミミでも誰も気にしないのに! ……は、は、はげ……いや、ちょっと頭頂部薄くなってたら笑っていいのか!? ええ!?」
「え? え? え? な、なんのことですか?」
「こっちは今、本当にデリケートな時期なの! 受け入れるのに覚悟がいる時期なの! あー! もー! どうせダサいよ! かっこ悪いよ! オレはよー!」
見かねた仲村さんが拓光を連れてこっちに来る。
「ど、どうしたの左町さん? 急に……」
「仲村さんはどう思ってたの?オレの頭頂部……」
「へ? 頭頂部? 私は別に……気にしたことなかった、っていうか……」
「はっ! 興味すらないですか!」
「ほなら、どないせーちゅうんじゃい!」
憤慨する仲村さん。その影に小さくなって隠れて拓光がこちらをチラチラ見ている。
「フン! お前もどうせカッコ悪いと思ってんだろ!?」
「……ないよ」
あまりに小さな拓光のつぶやきに聞き返す。
「はぁ?」
「さまちのオジサンは、カッコわるくないよ。カッコイイよ。ボクのヒーローだもん」
そう言うと再びササッと仲村さんの影に隠れた。
あまりにも予想外の返答に次の言葉が出てこなかった。
え? コイツ……そんな風に思ってたの?
拓光の一言である事を思い出す。
子供の参観日の時のことだ。子供の友達『たかし君』のお父さん。若くして成功したイケメンだった。
その日の夕飯時オレは子供に
「たかし君のお父さんカッコよかったなあ」
と子供に言った。すると
「なに言ってんの? お父さんのがカッコイイよ。世界一カッコイイし」
と顔色も変えずに言ってくれたのだ。
そうだった。こんなオレのことをそんな風に思ってくれてる存在がいることを……。
感情と涙腺のダムが決壊。隠れている拓光に抱きついてオイオイと泣いた。
「ご、ごべん! ごめんよ拓光ぃ~! オジサンが悪かったよー! 今のオレカッコよくなかったよ! う、うわーん!」
「そ、その通りです! サマチ様はパルデンス皆の憧れです!」
ドクトゥス君が……
「ええ! その強さを観れば皆、サマチ様の虜になりましょうぞ!」
シルバが……
「私も……サマチ様はカッコイイと思います」
マーレが……
「……。」
ニクスはなにも言わないけど……
「オレの魅力は、オレのことを知っている人が知っててくれてればいいんだ! ありがとう! ありがとう皆!」
闘技会が始まるコロシアムの前でパルデンス一行は「サマチ様! サマチ様!」と叫び、沸いている。
その様を冷静に後ろから眺めていた仲村は一言だけ
「なんじゃそら……」
とつぶやき、拓光を連れてコロシアムの中に入っていった。
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