その47 左町さんはライバルポジション
「おはようニクス。着替えはそこ置いてくれ。外で待機よろしく」
部屋に入って来たニクスに矢継ぎ早に指示を出す。
表情こそいつもと変わらないが行動の間で、若干不服そうだということが分かる。
おっさんの着替えを見てどうする気なのだ?
「左町様」
「なんだ?」
「なにかございましたか?」
あれからモウスのことを一晩中考えた。女神達もなのだが、なんとか復活させてやりたい。こちらの仮想世界への決意が表に滲んでいたのなら結構なことだ。それに気付く辺り、ニクスにも本当に意識が芽生えているのだな。と再認識する。
「卑猥な夢でも見て機嫌がよろしいのでしょうか。男性にはよくあることだと聞いております。まさか……ズボンは大丈夫ですか?」
「思春期の学生じゃねえんだよ。お前マジでぶっ飛ばすぞ」
感心してると、これだ。っていうか、コイツこんなキャラなの?
いや、しかし……油断は出来ない。コイツの場合はそれすら計算の内ってこともあり得るからな。
ドン! ドドドン!
外で花火が鳴っている。
窓を開け、通りを上から眺めた。
ランドルト王国の千年祭。
前夜祭もなかなか賑やかでうるさくしてたが……いざ始まると凄いな。
大通りではパレードが始まっており紙吹雪を住人達がこれでもか舞い振らせていた。上空では色鮮やかな花火が日中にも関わらず乱れ飛んでいる。恐らくは魔法の力なのだろう。
「賑やかだな」
「ええ
100年に1度と言われている祭り。実際にはこの世界で初めて行われている祭りだ。ニクスが言うとなにか意味ありげに聞こえてしまう。
「そういえば……闘技会の説明、なにも聞いてなかったな」
「問題ありません。1回戦で当たるハズの『エーテリアル・ギャング』は棄権いたしましたので、試合はございません」
まあ、そりゃそうだろうな。アレに向かって行くヤツなんていねえだろ。
「ふーん……ま、どっちみち敵情視察はしなきゃな」
「そうですね。腕を組んで『ふっ……あの程度か』と強者感を出すのにうってつけの日ですね」
「しねーよ。そんな恥ずかしいこと……」
どうもニクスは参考資料が偏っている気がする。
────────
部屋を出て食堂に行くと、仲村さんと拓光がいた。
拓光は相変わらず幼児のままのようで仲村さんが甲斐甲斐しく世話をしている。
「あ……こぼれた~」
「あーもう……しょうがないなぁ。ちゃんとお口で迎えに行ってって言ったでしょう?」
もはやお母さん。仲村さんは、その後ソイツのこと恋愛対象として見れるの?
「おはよう仲村さん。相変わらず朝が早いね」
「ああ、おはよう左町さん」
仲村さんがそう言うと拓光は仲村さんの後ろに隠れた。背の高い拓光が後ろからギュッとすると完全にセクハラになるのだが……顔を蹴り飛ばしたら、なぜかオレが悪者になってしまったので今日は勘弁してやる。まあ、本人がいいなら構わんよ、オレは。
「今ニクスから聞いたんだけど、今日は……なんちゃらギャング? ……が、棄権したから出番がないらしい。元々、仲村さんも拓光も出番なかったから関係ないかもしんねえけど……」
「なんか……トゲを感じるんだけど……」
「……含ませてるからね、トゲ」
そう。オレばっかり痛い思いしてるからね。チクチク文句言うくらいよかろう。
「コッチも今回は結構ヤバかったんだけど……」
知ってる。見てたからね。でも……
「コッチは四方八方から石をぶつけられまくった後、矢で全身を射抜かれてから片腕を切り落とされて、足とアゴ砕かれて背中を短剣でメッタ刺しにされたんだけどね」
「う……そ、そんなに?」
「まあ、気にしてないですよ。全然。本当に全然……ね」
思っていたより、オレがエグいことになっていて、仲村さんは引いてしまっている。それでもオレはアンタら助けに行こうとしてたんだよ。あえて言わねえけどな。へっ!
「まあ、そういうわけなんで……今日は仲村さんと拓光は、みんなと離れずに行動した方がいい」
「そうだね……。って左町さんはどうするの?」
「オレはもう大丈夫。ニクスいるから」
「なっ?」とニクスを見ると、表情を変えずに答える。
「お助けするのは、今回限りと申し上げたハズです。しかし、ご心配なさらなくともセブンセンスも闘技会が始まれば大人しくしているでしょう。もはや、サマチ様に人員を割く余裕もないでしょうし」
うーんシビア。まあ、700億の仕事だし。そんな簡単にはいかんよね。分かった。おいちゃん頑張るよ。
「うーん……でもまあ最初は皆で団体行動ってことになるんじゃない?」
「まあ、開会式やらなんやらあるだろうしね……その辺はドクトゥス君聞いてみるとして……オレも1日くらいゆっくりしたいんですよ、仲村部長」
ココは敢えて役職で呼ぶ。ブルマインに入って1ヶ月半くらい? 何連勤で頑張ってると思ってらっしゃるんですか?
「左町さんも言うようになってきたね……まあ私は構わないよ。拓光君は任せといてくれてもいいし。ね? 拓光君はおねーちゃんと一緒にいるよねー?」
「うん」
仲村さんに後ろからしがみ付いたまま拓光が返事をする。コチラのことが、気にはなるのだろう。チラチラと見てくる。
子供ってのは人見知りが普通だ。
「挨拶しなさい!」って親に言われて、出来なくてもオレは気にしない。子供なんて人見知りなのが当然なのだから、むしろそこから距離を詰めるのが人の親としての腕の見せ所だ。だが……拓光相手にご機嫌を取ることだけはどうしても出来そうにない。
なめんなよコラ。
「サマチ様。次戦の対戦相手の情報収集もあります。あまり自由に行動なさるのは……」
ニクスに……700億に言われると……断れない。
「主人公のライバルポジションですから。開会式に出ないなんて許されません。絶対的強者感を纏わせて……」
ニクスはオレをどうしたいのか分からない。
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