その50 左町さんだって目立ちたい

 開会式が始まる。マーレが引っ付いたまま……

 分かる。分かってるよ、仲村さん。

 オレのことを白い目で見ている理由は分かってる。オレ既婚者だもんな。子供までいる。普通の倫理観ならダメだよな。


「あの……マーレさん、ちょっと離れてもらっていいかな」

 

「え? お嫌でしたか?」

 

「いやいやいやいやいや! か、開会式も始まるじゃない? ちゃんと整列しとこうよ。ね?」


「……分かりました」


 マーレは分かりやすく意気消沈すると自分の後ろへと回った。

 マーレが離れてから、仲村さんの方を見ると侮蔑の目に変化はない。……ほたら、どないせえちゅーんじゃい!

 と、そこで少し離れた所にセブンセンス御一行が目に止まる。他の大所帯とは違い、10人もいない。

 まあ、開会式でわざわざ200人ちょっといる女神達を全部呼び出すような真似はしないか。

 見知った顔は3人。ヨシミツとセブン、それとセプトだ。どうゆう記憶改変がされてあの場にいるかは分からない。

 セブンセンスに襲われた事実は伏せているのだが、アチラからすればなんの反応もないのは不気味なのだろう。皆、こっちを見ていたせいで目が合う。

 セプトは凄い顔でコチラを睨んでおり、セブンとヨシミツは……コチラを観察するかのように見ていた。

 出来れば穏便に接触したいところだが……そうもいかない。ヨシミツは記憶を保持している可能性が高いからだ。今もオレの暗殺の算段くらいはしてるだろう。うーん……どうしたもんかね

 そうこうしているうちに開会式が賑やかに始まる。学生時代の空手の試合で経験した堅苦しい雰囲気とは異なり、まるでお祭り騒ぎだ。パレードや花火、オーケストラの合奏等……オリンピックの開会式みたいのが近いか。

 色々と目の前で楽しげなことが繰り広げられてるにも関わらずセプトはコチラを睨むのをやめない。

 最初は相手にしないようにしてきたが。だんだん腹が立ってきたので、一瞬馬鹿にしたように変顔をしてやると。怒り狂ってコチラに近付こうとしてきたところを他のメンバーに止められていた。

 へっ! ざまあみろ。

 と思っていたのもつかの間、あれだけ賑やかだった会場が急に静まり返る。

 何事かと壇上の方を見ると……

 なるほど、王様のご登場だ。さすがは千年君臨し続けている絶対的独裁者。躾が行き届いている。

 ランドルト王は会場を見渡すとゆっくりと話し始める。


「千年……。この国を興してから千年の年月が流れた。国は繁栄し平和が訪れてから700年……多少の反乱はあれど、このランドルト王国は戦争を経験していない。なぜか?」

 

 問いかけに聴衆達が反応する。

 

「ランドルト王のおかげだ!」

 

「そうだ! 王のおかげだ!」


 皆、口々に王への賞賛を送る。


「はは……。多少の貢献は出来ておるかもな。だが一番の理由は……この国が、お前達が強いからだ。それ故に他のどの国も我が国に手出しをしようなどとは思わぬからだ」


 王の口調が俄然強くなる。


「この世界で生き残るということは、いわば試練だ。強者だけが生き残ることが出来るその試練の中で、たとえ我が国が滅びても、私は涙しないだろう。それがこの国の運命なのだから!

 なればこそ! 強くあれ我が民達よ! 敵は常に我らの喉元を狙っていることを忘れるな! 手に持つ刃を磨き研ぎ澄ませ! きれい事で国は守れぬ、平和は剣によってのみ守られるのだ!!」


 王の演説に聴衆が沸く。地鳴りのような歓声が闘技場を包み込んだ。

 どこかで聞いた独裁者のセリフにそっくりだ。


「その為の闘技会だ。我が国の冒険者達がいかに精強であるかを知らしめる為のな。そこでだ……今回は趣向を変えてみることにした」


 王がそう言うと3名の鎧を着込んだ男女が壇上に現れる。その姿を見た途端、闘技場内がザワつき始めた。


「え? どうしたん? 誰なのあれ」


 会場の異様な雰囲気が気になりマーレに聞いてみる。


「あれは……騎士団の3将軍です。普段は王国におらず、揺り籠クレイドルで任に就いていて国内に留まることは滅多にありません。それも3人同時にとなると前例がないのではないでしょうか……」


 揺り籠クレイドルの抑えと、それに隣接する周辺各国からの防衛を担っているってことか……そんなんが3人も抜けてて大丈夫なんか?


「我が国最強の3騎士が闘技会に参戦する! 決めようではないか! 最強が誰なのか! 冒険者か? それとも王国騎士か? この千年祭での闘技会で、勝者には冒険者ギルドでの絶大な権限と永遠の栄誉が贈られる。さあ! 手に入れるがいい! お前達のものだ!」


 控えていた冒険者達もこれに盛り上がり、先程よりも一層激しい怒号にも似た歓声が闘技場を埋め尽くした。

 闘技会がついに始まる。

 幸い1回戦は拓光のおかげで不戦勝になっている。嫌なことは先延ばし体質のオレには願ったり叶ったりだ。

 だが、明日以降確実にやってくる自分の出番。嫌だなと思う反面、年甲斐もなくワクワクしている自分がいるのだ。

 さあ。持てる力を駆使し、この仮想世界に『左町旋風を』を起こしてやろうじゃないか。でも今日はとりあえずゆっくりと……


「そこでだ!」

 

 王が続ける。

 

「伝統となっている3人一組のトーナメント戦だが……少し趣向を替えようと思う。誰が一番か・・・・・を決めるのであれば、そのルールが邪魔だ。パーティー内で戦うわけにはいかんし、出場出来ない者も出てくるしな。腕に自信があるもの、出たい者は全て出場するがいい! 個人戦だ! 下手な戦略などなにもない、1対1の勝負だ! 勝った者が全てを手にするのだ!」

 

 おいおい王様……急になに言い出すんだよ。

 オレは今日オフにする予定だって……

 コチラの思考をぶった切るように足元が光り始める。

 

「転移魔法陣だ。出場したいものだけ残れ。3分後に転移した場所で最後まで立っていた32名を本選のトーナメントに出場出来るものとする」

 

 巨大な転移魔方陣は闘技場の床を覆い尽くし、ぼんやりと光っている。

 なぜオレが出場出来ないんだ? と考えている冒険者も多かったようで、かなりの人数がその場に留まり転移に備えている。

 仲村さんと拓光は早々にその場から離れて


「頑張れー!」


 とこちらに手を振っていた。

 声援ありがとう。 君達との溝が今日またいっそう深まりました。


「立っている者が32名になった時点で再び転移魔法で呼び戻されることになっておる! それでは転移開始!」


 ぼんやりと光っていた魔法陣が眩い光を放ち、その場にいた全員を包み込んだ。

 眩しくて目を閉じようかと思った瞬間、ニヤリと笑うセプトと目が合った。

 

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