その51 左町さんのエッチ
魔法陣の光が収まり目を開ける。
転移直前の不気味な笑顔のセプトが気になり、辺りを見渡すがセプトどころか誰もいない。
「森だ……」
転移先はいつも森なのか? 冒険者入り乱れてのバトルロワイヤルのはずが周りに誰もいない。
寄り添っていたマーレの姿も見えない。同じパーティーが固まって有利になるのを防ぐ為にランダムにバラバラに飛ばされてるのか。
いや……どうだろう? また嵌められてるという可能性もなきにしもあらず。転移すると毎回ろくな事ないしな……慎重にいかなければ。
……と気を引き締めた瞬間、ザザザっという物音と共に何かが近付いてくる気配を感じる。
身体能力2倍を発動し、接敵に備える。
「サァマァチィイイイイ!!」
「ウソだろ……」
とんでもない形相でコチラに向かって来ているのはセプトだった。セプトは自分の能力で戦斧を出すと、容赦なく斬りかかってくる。
やはり嵌められたのか? 攻撃を避け、距離をとる。
「くっそ! また嵌めやがったのか! クソ女神が!」
「うるさい! 大人しく死にやがれ!」
セプトが戦斧をブンブン振り回してコチラを追いかけて来る。
が……しばらくしても他の女神達の追撃がない所を見ると単純にお互い近くに飛ばされただけなのか。
「お前は絶対に殺してやる! わ、私によくもあんな……」
女神達を消した記憶はすでに消えているはずだが……セプトは一体どんな記憶改変受けているのか……顔を真っ赤にして怒っているところを見るに、よほどのことだったのだろう。
「人の背中メッタ刺しにしておいて、何怒ってんだ! 怒りたいのはコッチだ!」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
会話にならない。セプトは、やたらめったら戦斧を振り回して追っかけてくる。身体能力2倍では避けるので精一杯。いや、避けるだけなら十分だ。
先の女神100人との戦いでは5倍10倍と制限なく能力を使い続けたせいで最後はガス欠になってしまった。要所で瞬間的に使えばいいのだ。セプトを倒したとしても他の冒険者がいるのだ、こんな序盤で奥の手は使えない。
とはいえ……どうする?
これ以上、セブンセンスの女神達と敵対したくないのだが……。
女神達も救うと決めた今『英雄殺し』を使うわけにもいかない。そもそも闘技会で使うと面倒なことになりそうだ。人に向かって使うのはよしておこう。
そう。
横薙ぎに迫ってくる戦斧をしゃがみ込んで避け、セプトの足元に『英雄殺し』を突き立てる。
突然足元にポッカリと空いた穴にセプトは為す術もなく「きゃっ……」という可愛らしい声をあげて落ちた。バランスを崩して尻もちをついたセプトを尻目にこちらは素早く穴から脱出する。
「バーカ! バーカ、バーカ、バーカ、バーカ、バーカ!! 「きゃっ……」だってさ(笑)セプトちゃんカーワイイー!」
思いっきり馬鹿にしながらセプトが落ちた穴から駆け出すと穴からセプトの怒りの咆哮が聞こえる。
「サマチィイイイ!!」
ハッハッハ! 怒れ! 怒れ! もう追いつけるもんか!
しかし……女神達とお近づきにと思っていたのに、こんな真似をして大丈夫なのか?
煽るのはマズかったな……そう思い、振り向くと穴からなにやら木の枠組みで出来た大型の装置が顔を覗かせていた。
な、なんだあれ?
そう思っていると中央のデカい重りが下がり、奥からビョンッと凄い勢いで木の棒に捕まったセプトが現れる。
あれは、もしかして……
セプトは穴から突如出現した
「攻城兵器も武器だからね!」
「ず、ズルイ! なんだそりゃ!」
セプトはいつの間にか持ち替えた剣をこちらの脳天目掛けて振り下ろしてくる。
虚を突かれながらも避けるが、バランスを崩して転倒してしまった。セプトがその瞬間を見逃すはずもなく今度はその剣を顔面目掛けて突いてくる。顔を横にずらしてギリギリで避けて刀身を掴むと、剣の柄からパッと手を離し今度は素早く短剣を出し喉元を掻き切ろうとしてきた。セプトの手首を掴みこれを止めるが……セプトは全体重をかけてこちらの喉に短剣を突き立てようとしてくる。
「死っねぇえええ!!!」
マ、マジだ。この女マジでオレを殺す気だ。いや……この間も殺す気だったんだろうけども! 殺意に憎悪を感じる。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待て! え? なに? オレがなに? オレなにしたん?」
「ふざけるな! お前、私のふ、服を……」
「ふ、服? 服がなんだ?」
「私の服を消して私の体を……そ、そのいやらしい目で私辱めただろうが!」
「は、はぁあああ!? なんじゃそりゃ!? 知らねえよ! なに言ってんだお前は!」
どうやらブルマインにとんでもない記憶改変を受けたようだ。いや! 待て待て! そんな理由で殺されてたまるか!
「っていうか、そんな裸みたいな格好してるくせに……裸見たくらいでなに言ってんだ!」
「ちっ! まったく男ってのは……この格好は好きでやってんだよ! だからって裸になって、アンタにいいようにされていいわけないだろう!?」
ごもっとも。いやだけどさ……
「お前の裸拝んだってんならまだしも……見てもないのに殺されてたまるか!」
両の手に力を込めるが徐々に押される。体勢を変えようにもセプトに腰の辺りを両膝でガッチリ挟まれて身動きが取れない。身体能力2倍だけでは押し返せそうにない。
ならば! ……と、腰を思い切り跳ね上げ、膝でセプトを蹴り上げる。巴投げのような形で投げ飛ばした。
投げ飛ばされたセプトはすぐに立ち上がり短剣を投げ捨てると、両の手から大剣を出しこちらに向かって構えた。
「くそっ! そんな薄着で男に
「そういうのがキモいってんだよ!」
セプトが大剣を振りかぶる。
……ズズン!
突然の地響きにセプトが手を止め、地響きがした方向に顔を向けた。
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