その40 なんじゃそら……
目を覚ますと……いや、目を覚ますという表現は正しいのだろうか?
とにかく真っ白な空間に居た。
見覚えがある。病院の待合室の受け付けのような場所。そこの長椅子に座っていた。
カウンターの上のモニターは相変わらずザーザーと砂嵐を流している。
「ブルマインの……案内所か?」
どうやら、本当に死ぬのだけは避けられたということだろうか?
「おはようございます……とは少し違いますね」
「うおっ!」
後ろを振り向くとニクスさんが立っていた。
「お元気そうでなによりです。傷は……残っていないと思いますが……いかがですか?」
「傷の具合って……」
そこまで口に出して、さっきまでのことを思い出す。
「あっ! アンタなぁ! 傷はどうって、アンタが背中から……」
アレ? 背中の傷……いや、無くなった腕が戻ってる! そういえば砕けた顎も戻っててしゃべれる!
「『腕が無くなった』のではありません。今のアナタを形作っているプログラムの上から『腕が無くなる』プログラムを上から被せていた状態だったのです。他の傷も同じです」
「な? なに? なに言ってんの?」
「プログラムならば短剣……『英雄殺し』で、応用次第で消すことが出来るということです。女神達の周辺の空気中の酸素を消したのも、その応用ですね」
「空気中の酸素を消した?」
「『英雄殺し』は、ただそこにあるだけで空気や空間に触れている状態です。それらを消してしまっていては所持していることすら出来ません。なのでそれを防止する為に特定のモノは消せないように設定されていたのです。ワタシはその設定を変更して……」
「いや! そうじゃなくて! ニクスさんがなんでそんなこと知ってんのか? ってことだよ」
「分かりませんか? この仮想世界において……いえ、ここが仮想世界だと認識しているのはプレイヤーであるアナタ達以外にはワタシしかいません」
「?」
プレイヤー……。ブルマインに入ってる人間ということか?
「え? 初耳なんですけど……。ここの世界にはもう一人いるってことなの?」
「プレイヤーではありません。ワタシはこの仮想世界を創り出しているAI、ブルマインです」
「……」
ブルマイン……ニクスさんはブルマイン。ん? は?
「え? ブルマインってなんかこう……仮想世界に入る為の、ただの機械でしょ? プレステみたいなのじゃないの?」
「……。そういう認識でも間違ってはいませんが……。創造主、ナカムラ様が生み出したのは、まずワタシという存在そのものです。そこから機能拡張を繰り返し、AIが生命体として生きていける世界を作ったのがサマチ様の知るブルマインです。仮想世界を創り出しているのは、ワタシの機能の一部に過ぎません」
「あ、うん。ごめんなさい。プレステとかと一緒にして、ごめんなさい」
ずっと無表情だったニクスさん……いや、ブルマインと呼ぶべきか。ブルマインがプレステ呼ばわりした瞬間に眉がピクリと動いた。めっちゃ早口だったし……。ゲーム機と一緒にすんなってか? 仲村さんと同じこと言うんだな。
「えーっと……じゃあ、ニクス……じゃなくてブルマインさんは、なんで今までブルマインとして接触してこなかったのに今回は助けてくれたの?」
「ニクスで結構です。この先、仮想世界に戻った際にも、その方が都合がいいので……。先程の質問ですが、ブルマインの住人として仮想世界に入ったのは今回が初めて、というのもあります。なにより、仮想世界で死傷者が出るのはワタシの望むところではありません」
「まあ……ねえ……。死傷者が出るようなもんを製品化になんて出来ないだろうし……最低でも開発が一時中断なんてことも……あ!」
とココで大事なことを思い出す。
「ニクス! 拓光と仲村さんが……。 そうだ! 二人を助けないと!」
「そちらもご心配はいりません」
「なんでよ! 二人が死んだらどうすんの!? それともブルマインで死んでも、死なないってこと!?」
「動物実験では、全体で68%。人間に近いところではチンパンジーなどが94%の確率で死亡しています。知能が高いほど死亡率が高くなる傾向にありますね」
「ほんなら人間なんて、ほぼほぼ死ぬじゃねーか! だったらさっさと助けに……」
「ですから、ご心配には及びません。今朝、サマチ様の部屋で念のためにタクミ様のアラームを切っておきましたので」
そういうと、ニクスはオレの後ろのモニターを見た。オレが振り返ってモニターを見ると、砂嵐だったモニターに映像が写し出される。
「お……。え? なにこれ? なんの映像? ロボットぶっ倒れてんだけど……特撮かなんか?」
「ナカムラ様が製作したロボット。名は先程『埼玉』と決まったようです」
「なんで『埼玉』なんよ……」
どうでもいい質問だと判断したのか……。ニクスは話を続ける。
「……。相手にしているのは『エーテリアル・ギャング』という冒険者パーティーです。代表のノアナ・マルコヴィチは冒険者でも最高クラスの実力者です。ナカムラ様が作ったとはいえ、突貫工事のロボットでは歯が立たなかったようですね」
「全然、大丈夫じゃねーだろ! さっさと助けに……」
「ロボットが重要なのではありません。タクミ様が覚醒されるかどうかが重要なのです。アラームが鳴る時間は今からブルマイン内の時間ですでに過ぎています。タクミ様は今から……」
ニクスが急に黙った。
……。
え? 溜めてんの?
……。
き、聞けってこと?
口内に残る唾液をゴクリと飲み、意を決してニクスに尋ねる。
「……た、拓光が? どうなんの?」
「大賢者モードに突入するのです!」
ニクスは胸の前でガッと拳を握り締め、自信満々に宣言した。なんじゃそら……。
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