その39 左町さんは死んだ

「ん? オイ! お前誰だ!」


 だが、そこで何者かの接近に気付きセプトが声をあげる。


「どうやらここまでですね、サマチ様……」

 

 その人物はパルデンスのメンバーの一人、ニクスだった。

 森の茂みからゆっくりと歩きながら現れた人物は女神達など見えていないかのようにこちらに話しかけきた。


「……え? なん……」


 なんで、ここにニクスさんが? オレを助けに?


「なんとか切り抜けられるかと拝見していましたが……ここまでですね」


「お前! サマチの仲間か!?」

 

「サマチ様にここでリタイアされてはコチラにも支障が出ますので……あくまで『今回限り』ということでお願いいたします」

 

 ニクスさんは女神達をまるで相手にせず、こちらだけに語りかけてくる。

 シルバの話ではニクスさんも相当の実力者だと聞いてはいるが……はたして女神10人を相手に出来るほどの力があるのだろうか?

 ニクスさんは先程セプトがほうった『英雄殺し』を拾い上げた。


「『英雄殺し』と呼んでらっしゃるこの短剣。サマチ様はまだ完全に使い方を理解されてらっしゃいません。もっとも……作り手であるナカムラ様ですら理解されてないのですから、当然といえば当然ですが……」

 

 なんで仲村さんがソレを作ったってことを知ってるんだ?

 

「おい! 聞いてんのか! それ以上、近付くな!」

 

「セプト! こいつパルデンスの冒険者だよ。前に見た事がある」

 

 セプトは目の前の女神達のやり取りなどおかまいなしに短剣を前に突き出し、その刃を女神達の方に向けた。

 

「この短剣はこの世界の触れるモノ、全てを無に帰すことが出来ます。こうして、ただ前にかざしているようでも……今もあるモノに触れているのです」


 ニクスさんが何を言っているのか理解が出来ない。分かるのは他の女神達がこの状況を放っては置かないということだ。

 

「くそっ! 取り押さえろ! それが無理なら……もう……」

 

 殺す気だ。ニクスさんだって黙ってやられはしないだろうが……ここにいる女神達以外にも遠くに弓で狙っているスナイパーみたいなヤツもいる。ソレを知らなきゃ射抜かれてお終いだ。

 

「あ……が……」

 

 女神達が襲いかかればスナイパーもニクスさんが敵だと認識し攻撃するだろう。知らせたいが……上手く喋れない。

 女神達は構えをとり、ニクスさんに襲いかかろうと距離を詰める。だが……


「触れているモノ……それは、空気です」

 

 ニクスさんがそう言うと同時に……

 ドサッ。ドサドサッ。と目の前にいた女神達が全てその場で倒れた。

 は? ……なにが起きた?

 

「彼女達の周辺の酸素を消しました。酸素欠乏症で意識を失っているだけです。死んだモノは……いないようです。ああ……それと、ご心配なさらず……ここから400メートル程先でこちらを狙っていた女神も気を失っています。さて……」

 

 そう言うと、ニクスさんはこちらに歩み寄ってくる。

 

「少し急ぎましょう、サマチ様……」


 そう言うと、持っていた『英雄殺し』を持ち替え、刃をこちらに向けた。


「失礼します」


 そう言うと、向けた刃を突っ伏しているこちらの背中に突き立てた。


「あが……な、なん……」


 口から血を吐き出す。虫の息だったオレには十分過ぎるトドメの一撃だ。

 なんでだ? ニクスさんはオレを助けに来たんじゃ……


「説明不足で申し訳ありませんサマチ様……では……」

 

 ロウソクの火が消えるように、目の前の音が、視界が……ぼやけ、揺らいで、消えていく。ああ……だから寿命をロウソクで例えたりすんのかなぁ……真っ暗で無音な自分の中に無駄な思考だけが後に残った。

 仮想世界とはいえ死を、今体験している。

 さすが、ブルマイン。

 なんて恐ろしい体験をさせるんだ。

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