その38 左町さんは拷問がイヤ
なんで目から血が……
いや……目からだけじゃない。鼻から……耳からも何か流れ出てるのを感じる。
なんだこりゃ?
途端、襲いかかって来ていた石つぶてや氷の粒の速度が増す。いや……こちらのパフォーマンスが落ちたのか? 恐らくは身体能力10倍のツケが来たのだろう。
消しきれず、避けきれず、被弾を重ねる。
「痛っ! いっつ! いっつつつ!」
身体能力強化の恩恵が完全に切れたわけではないようで、何発か当たって倒されるということはなさそうだが……痛いものは痛い。
「当たってるぞ! 撃ち続けろ!」
女神達の攻撃がさらに勢い付く。
防ぐ、避けるで手一杯になり逃げ出すことも出来ずに大木の陰に隠れる。
当然、そこまで時間を稼ぐことなど出来ない。回り込まれれば終わりだ。
ならば! 痛いの我慢して突っ込んで行くしかない!
残りの女神は……20ってとこか?
痛い……。痛いけど……。痛い……けどぉ……。
あああああ! もう! 行くぞ!!
意を決して大木の陰から飛び出す。
待ってましたとばかりに女神達の攻撃が襲いかかってくるが、英雄殺しを振り回しながら被弾をなるべく減らしながら突っ込んで行く。
「いたたたたたたたたたったたたたたったぁー!!」
攻撃を加えてくる女神達に『英雄殺し』を振り下ろしていく。
身体能力は先程までと比べると弱まっているのを感じる。飛んでくる魔法は速く感じ、被弾が多くなっているし……何より、さっきより当たると痛い!
我慢! 我慢! 我慢! 我慢! 我慢!!
4、5人程消すと他の女神達からの攻撃に晒されること覚悟で回り込んで攻撃してくる女神が現れた。
セプトだ。
「気にせず撃ち続けろ! 私が仕留める!」
セプトは他の女神達からの攻撃に晒されながらこちらに急接近してくる。露出度が高い服のセプトが石つぶての嵐に晒されているのを見るのは非常に痛々しい。だからと言って、手を抜いてこちらがやられるのはゴメンだ。
セプトはこちらに接近してくると右手に持っていた剣で斬りかかってきた。なにか策があるのかと警戒していただけに先程と同じ展開に拍子抜けする。
当然斬りかかってきた剣を『英雄殺し』で消し、勢い余って後ろを見せたセプトに『英雄殺し』を突き立てようとする。
すると回転しながら、いつのまにか反対の手に持っていた剣でこちらの腕ごと『英雄殺し』を薙ぎ払おうとしてきた。急いで手を引っ込めて距離を取ると、これまたいつの間にか、両手に剣を手にしてこちらを追撃してきた。
「マジシャンかよ!」
セプトの不思議な現象に思わず叫んでしまう。
「私は武器の女神セプト! いくらでも消せばいい! こっちもいくらでも次のエモノを出すまでさ!」
そう言うと持っていた両手の剣を離し、今度は空中に現れるナイフを踊るように手に取りながら次々とこちらに
魔法を処理しつつ至近距離からの投擲に対処しきれず慌てて距離を取る。
そこで、足に衝撃を感じる。矢だ。
矢が足に刺さったのだ。
魔法とセプトに気を取られすぎて、矢の存在を忘れていた。
足に力が入らなくなりガクッと膝をついてしまう。
「今だ! 取り囲め!」
遠巻きに魔法放っていた女神達が一気に襲いかかってくる。セプトも武器を槍に持ち替えてこちらを突いてきた。身を捩り、槍を掴むとグイッと引き寄せてセプトに頭突きを喰らわせる。
鼻から血を吹き出しながらセプトは後ろに反り返るが槍を掴んだまま放そうとせず踏みとどまった。
気が付くと左右から女神に挟まれ同時に斬りかかられる。
槍を脇に挟み込み、力尽くでセプトを一方の女神にぶつけるともう一方の女神の剣を『英雄殺し』で消して、そのまま突き立てた。女神を消えていくのを確認すると今度はセプトを消そうと『英雄殺し』を振りかぶった。
が、トンっと後ろから押される感触を感じ、ギョッとして振り返る。
目にしたのは、先程消したはずの消えていく女神の脚だった。
「マジかよコイツら……」
女神のその執念にゾッとする間もなく右肩に矢が突き刺さる。
その後、肘、右脚と次々に突き立てられ、首元を狙う矢をギリギリで右手の甲で受けるが生命線である『英雄殺し』を落としてしまった。
他の女神が『英雄殺し』を遠くまで蹴り飛ばすとセプトが声をあげる。
「今だ! やれ! これで決めるんだ!」
残り10人程……満身創痍の今のオレにはどうにも出来ない。
それでもだ! それでも、こんなところで死ねない!
斬りかかってくる女神の剣を避けて正拳突きを放つ。身体能力強化は10倍だった時ほどの威力はそこにはなく女神は唇から血を垂らしながら反撃をしてくる。
後ろから斬られ……石つぶてを当てられ……。手足を振り回し、叫びながら抵抗をする。女神を迎え撃とうと再び拳を握り飛び掛かるが拳は女神に届かない。
右腕を見ると、いつの間にか肘から先が無くなっていた。
「あ。アレ? 腕は……?」
と間の抜けた声を出すが、その切断面を確認すると急に凄まじい痛みに襲われ叫び声をあげる。
腕が熱い。痛い。なにより無くしたことのショックが大きかった。そうこうしていると、複数人の女神から覆い被され取り押さえられた。
「ぐぅ……くっそ! があああああ!」
最早、抵抗することも出来ず大声で威嚇していると女神の一人が顔を蹴り上げてきた。
「うるさい! 黙れ!」
顔を蹴り上げた女神はそのまま右足を踏み抜きへし折ってきた。
「っっっ!」
痛みに叫ぶことすら出来ず、完全に動けなくなったところで残りの女神達が集まってくる。
「何やってんだ! はやくトドメを!」
フラつきながらセプトが他の女神達に怒鳴る。
「セプト! コイツが何人仲間を殺したと思ってんの!? このまま楽に死なせていいわけないじゃない!」
なるほど。コイツらはこのまま楽にオレを殺す気はないらしい……。
「めがひが……ごうもん……すんのはよ……」
先程、顔を蹴り上げられて顎が砕けてるのか……うまく喋れない。もはや、悪態すらつけない状態だ。
「いいから止めろ!! 私達は100人でコイツ一人を囲んだんだぞ。せめて戦士としての敬意は払え! やってることがランドルト王と同じなら、私達は今までなんの為に戦ってきたんだ!!」
セプトの一喝に女神達が押し黙る。
「コイツの持っていた短剣はどこだ?」
セプトが『英雄殺し』の所在を尋ねると他の女神が拾っていたらしく、セプトに手渡す。
「コイツは……なんて禍々しさだ……。セブン様が警戒するのも分かるね。サマチ。他の女神もコイツで消えてった。せめてコイツで楽に消してあげるよ」
そう言うとこちらに近寄ってきて『英雄殺し』で突き刺してきた。
「ぐっ!」
痛えっ! くっそ! オレは『英雄殺し』じゃ消えねえんだよ! バカ野郎!
「あれ? 消えないね……刺し方が違うのか? こう?」
セプトが再び刺してきた。
いや! 痛え! オレは消えねんだよ!
「あ、あれ? こう? こうか? こうかな?」
いて! いててててて!!
刺し方を試行錯誤しながらセプトが何度も刺してくる。
これじゃ、拷問と変わらねえじゃねえか!
「ね、ねえ。セプト。もうその辺で……それってコイツにしか使えないんじゃない?」
「え? あ、うん。そ、そうみたいだね」
先程までオレの顎を砕き、足をへし折った女神がセプトを止める。そんな見てらんなかったのか?
「じゃあ」とセプトは『英雄殺し』をポイッと投げ捨てると、自分の能力でデカイ斧を出した。
「コイツでひと思いに首をはねてやるよ」
死ぬ時ってのは、こんなもんか。それともココが仮想世界で、死なないかもしれないとどこかで思っているからなのか。
どのみち、もうどうにもならない。拓光と仲村さん……どうなったかなぁ。
セプトがこちらの首にピタリと斧を当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます