その41 拓光君は大賢者モードに突入!

 真っ暗なコクピットの中で拓光と仲村は息を潜めていた。外の様子こそ見えないが、外ではエーテリアル・ギャング達がココをこじ開けようと色々と試行錯誤しているようだ。

 

「背中の辺りから入ったのは見たぞ。そう! そこら辺だ!」

 

「いや……でも……マジで開かないんだって!」

 

 防御力全振りロボット『埼玉』は機能が停止してもパニック・ルームのような役割を果たしていた。

 

「チッ……ちょっと退いてろ」

 

 マルコは先程『埼玉』を切り刻んだ黒い剣を手に背中に乗ると、背中の装甲を再び切り刻んだ。

 装甲が取れ、コクピットがあらわになる。

 

「いたぞ! 大賢者……ともう一人。女だ。引きずり出せ」

 

 マルコが指示を出すと部下が次々に背中に乗りコクピットから拓光と仲村を拘束し、マルコの前へと連れて行った。

 

「ハハハ……やっと再会出来たな大賢者様。年貢の納め時ってヤツだ。ありゃなんだ? ゴーレムみたいなもんか? 中に入れるゴーレムなんて初めて見たぜ」

 

 拓光は両手を後ろに縛られたままマルコの前に放り出される。

 一方で仲村は、冒険者二人に取り押さえられながらも抵抗を続けている。

 

「ちょっと! 触んないでよ! 拓光君! 拓光君!」

 

 仲村は自分が本体のコピーであるがゆえに、拓光をなんとか救い出したい。自分が作ったマシーン内であるなら尚更だ。

 

「ちょっと! 拓光君! どうしたの!? このままじゃ……」

 

 拓光は先程からうんともすんとも動かなくなっていた。拓光の性格上、黙って捕まるぐらいなら一暴れして嫌がらせの一つでもしそうなのにである。

 

「最後はずいぶんと大人しいじゃねえの。アッチの女は随分騒がしいってのに……」

 

 マルコとしては、これ以上の混乱を招いて損を被るのは御免被るところではある。大人しくしてくれれば、それに越したことはない。

 

「標的はオレだけだろ? ……あの人はエンカンまで帰しちゃもらえないっすかね?」

 

 目の前に伝説の大賢者がいる。先程まで、自分のパーティー相手に大暴れしていた男が、今大人しく死を待つのみの身になっている。最後に何らかの抵抗があると踏んでいただけにマルコは拍子抜けしていた。

 

「そうだな……。なかなかのキレイ所だが、オレはあの女にゃ用はねえ。だが……ダメだ。こちらとしては、今回のことが明るみに出ちゃ困るんでな。それと……アンタにゃ最後に嫌がらせの一つくらいしときたいんだ」

 

 拓光はその返答には答えず、ただマルコの前でうなだれている。その態度が余計にマルコの神経を逆なでした。

 

「オイお前ら。 その女、好きにしていいぞ」

 

 それを聞いた冒険者達は仲村を完全に押さえ込もうと力を入れた。


「なっ! ちょっと! ふざけ……」


 仲村は縛られた状態から目一杯の抵抗を試みるが両脇から二人で押さえ込まれた状態ではなにも出来ない。


 しかし、この一言には拓光も反応をみせる。


「今なら、まだ……大目に見てやるって意味だったんだが……ね」

 

 マルコの背筋が凍る。

 先程までと打って変わって、拓光の様子が豹変したのだ。

 

「女性に危害を加えるようなヤツではないと思っていたんだがなぁ。もっと野心的で……そんなチンケな連中だとは思わなかったよ。もっとも……どうやって彼女に危害を加えるつもりなのかは知らんがね……」

 

「た、拓光君?」

 

 仲村も拓光の雰囲気が変わった事に気付く、口調すらいつもの感じと違うのだ。

 同時に、両脇から仲村を押さえていた力が緩んだ事に気付き隣の冒険者を見る。

 

「……え?」

 

 両脇の屈強な冒険者二人はヨボヨボの老人に変わっていた。

 

「ブッ……フフ……ハハハハ。モノ・・になるといいがな」

 

 その場にいる全員が混乱する中で拓光だけが楽しそうに笑っている。

 一緒にいた仲村ですら拓光になにが起こったのか分からないでいた。

 

「さて……マルコ。マルコでいいんだよな? さっきまで偉そうに魔法の講釈を垂れてくれてたが……化石と化した爺さんに、続きを聞かせてくれないか?」


 いつの間にか両手の拘束は解け、拓光は立ち上がって両手を広げる。かかってこいといわんばかりに。

 

「やれ! ぶっ殺してやれ!」

 

 マルコのかけ声で拓光のすぐ後ろにいた冒険者が剣で拓光の背中を突きにいった。剣は見事に背中を捉える。他の冒険者達も次々にコレに続き拓光を串刺しにしていった。


「拓光君!」


 仲村は思わず悲鳴をあげる。のだが。

 

「お。いいぞ。オモチャじゃなけりゃ死んでたとこだ」

 

 冒険者達が持つ武器は、剣先が柄の中に引っ込み、刺さったように見えるアレになっていた。

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

「残念……スマンが時間がないんでな。お前達は全員ここでリタイアだ」

 

 拓光がパチンと指を鳴らすと冒険者達の足元が一瞬で黒い沼に変わる。

 

「うわ! 足元が!?」


「ひぃ! 飲み込まれる!」

 

 黒い沼は拓光と仲村、マルコ以外の冒険者達を一瞬で飲み込んでしまった。


「さて……マルコ。これで、二人きりだ。遊ぼうか」


拓光は余裕の笑みでマルコを挑発した。

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