その35 左町さんは命乞いなど……
一瞬だった。
身体能力5倍を発動した左町は女神の集団に突っ込んで行くと、瞬く間に10人ほどの女神を消し去った。
女神達は左町のあまりのスピードになにが起きたかも分からず大混乱に陥った。
ついでに言うと左町も早過ぎる自分のスピードに大混乱していた。
はっや! はーーっや! 何コレ!?
地を蹴った瞬間に女神達が目の前に現れて無我夢中で『英雄殺し』を振るった……という感じか。
順応するまで時間がかかるな、こりゃ……。
女神の集団から飛び出すと傍らにあった木に手をかけて遠心力でグルリと反転する。狙いを定めると、勢い殺さず再び女神達の中へ突っ込んで行った。
生い茂る木々を躱し、女神達がいるであろう空間に飛び出さんとすると目の前に巨大な氷塊が現れる。
迎え撃ってくることは想定済みで、前に突き出していた『英雄殺し』で氷塊を消すと、ソレを放ったであろう女神を驚く間もなく消し去った。
ついでに、その直線上にいた女神達も……1人、2人……と次々と消して行く。
「散らばれ! 標的にされないように距離を取って遠距離魔法を叩き込むんだ!」
女神セプトは大声を張り上げ、態勢を整えようとする。……が、森は暗く木々が視界の妨げとなっている中で素早く動き回る左町を捉えることは非常に困難で、未だに何が起こっているか把握出来ていない女神もいるほどだった。
「ククノチ! ここはアンタのフィールドだろう!? ヤツの動きを止めるんだ!」
「はーい。まっかせてー!」
ククノチと呼ばれた、女神と呼ぶには幼さが残る少女はセプトから指示を受けると両の手を地面に勢いよくバン! と押し当てる。
「私は木の女神ククノチ。 オジサ~ン場所が悪かったねー」
周りの木々や地面から飛び出した根っこまでが蛇のように動き、左町に襲いかかった。
「なんだこりゃ気持ち悪ぃ……」
数は多いが……今の状態なら反応出来る。
蛇行しながら襲いかかってくる凄まじい数の木々を避けつつ『英雄殺し』で消していく。
無数に襲ってくる木々……その中の枝1本消すだけで大元の大木1本が消える為、周囲にあった木々が見る間に消えていった。
こりゃちょうどいいな。木が消えて広場の出来上がりだ。やりやすくなった。が……いつまでも木にチョロチョロされても邪魔だ。
着地と同時に方向転換し、ククノチの方に向かう。5倍の身体能力強化にも大分順応出来てきたおかげで苦もなくククノチに近付いていく。
「く、来るなぁ!」
ククノチは攻撃を全て消しながら突撃してくる左町に更なる攻撃を仕掛けるが、ことごとく全て消されてしまう。
「逃げろ! ククノチ! みんな援護しろ! 」
セプトが叫ぶ頃には周囲の木々はあらかた消し去り、邪魔をする女神達を消し、左町はククノチの前方まで迫って来ていた。
「これでどうだぁ!!」
ククノチが地面に当てていた手が光を放つ足元からククノチを包み込むように勢いよく大木が生えてきた。
神々しく、うねりながら天に向かって伸びたその様はまさに御神木。左町を狙って他の女神達の放った魔法が流れ弾として当たってもびくともしていなかった
信心深い方じゃないが……さすがにこれは躊躇するっての。消したらバチとか当たんねえだろうな。
御神木に包まれても尚、ククノチが操っている他の木々はこちらを襲うことを止めていない。
消すしかねえじゃねえか……。
一瞬の躊躇を振りほどき、御神木に向かっていく。
「『神樹
ククノチによる御神木の説明が終わる前に『英雄殺し』で消す。
中から驚きの表情でククノチが姿を現すと、その右肩目掛けて『英雄殺し』を振り上げた。
「ひっ……助け……」
命乞いが耳に届く。が、時すでに遅く刃はククノチの肩を捉えた後だった。振り向くと足だけ残して消えており、残りも数瞬置いて消えていった。
「今そんなこと……」
言いたいセリフを飲み込み、迫って来た巨大な火球を後ろに飛んで躱す。躱した場所には槍を持った女神2人が着地のその瞬間を狙っていた。向けられた槍を所有者ごと消し去ると、今度は光の矢のようなモノがこっち向かって飛んできている。
考えているヒマはない。ないが……。
そんなこと……言うなよ。クソ!
もう20人以上は消してる。
なんだ? なんなんだよそりゃ!?
こっちはやりたくてやっているわけじゃあない。殺すって言うから仕方なくやっている。仕掛けてきたのはそっちで、コッチはあくまで被害者だ。
でも……だからってこんな若い
さっきの
自分はもしかしたら、元々こういう人間だったのでは……それとも今は必要に迫られたから?
いや……ここは仮想世界だった。年齢なんて、性別なんてなんの意味も持たない。
オレはただ……始まったイベントをこなしているだけだ。
頭の中を思考がぐるぐると回る。幸い身体能力5倍のおかげで他の事を考えながらでも戦うことが出来た。
「おい! 逃げるんなら追わない! 逃げたいヤツは逃げろ!!」
それでも……出来ることならこれ以上戦いたくはない。全部消すなんて、言ってはみたが逃げるヤツを追っかけてまで消そうなんてつもりはさらさらないのだ。
「おい! 聞いてんのか!?」
「バカにするな! 今日ここに来た女神! モウスだってそうさ! 誰一人覚悟してきてないヤツなんていないよ!」
こちらの問い掛けにセプトが激昂して答えた。
じゃあ、さっきの「助けて」はなんだったんだよ!
セプトの返答に怒りがこみ上げる。
だが、たしかに逃げる者は一人としていなかった。普通これだけの数が一方的にやられたら引くものだ。戦国時代の合戦も5%~10%の兵がやられたら勝負アリだったと聞いたことがある。
しかし、もう3割近く消しているにも関わらず、女神達の戦意は衰えていない。声を出し、連携を取り、こちらを殺そうと死に物狂いで向かってくる。
あの「助けて」は死を悟ったその瞬間に一瞬だけ漏れ出た、ただの弱音だったのだろうか。
なるほど、彼女達は逃げない。
ならどうする?
こちらの目的はなんだ?
コイツらを皆殺しにすることか?
違う。
拓光と仲村さんを助けに行くことだ。
で? どうやって?
距離がある。
今いるソッパスの森は馬車で2、3日かかる距離だ。身体能力5倍で走っても間に合わない。
そんな遠くに……オレはそもそも、ここにどうやって来た?
モウスに……
そう。モウスに転移させられて来たんだ。
一瞬だけ足を止め辺りを見渡す。
モウスだ! アイツは帰る手段を持っている。持っていなければおかしい。
魔方陣を描くのに数時間……そんな長時間……しかもオレと拓光になにかがあった時間帯に行方知れずじゃ「私が裏切り者です」と言っているようなもんだ。
どこだ!?
もう逃げたか?
女神達からの攻撃を捌きつつ、モウスを探す。
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