その34 拓光君と仲村さん。の逃避行2

 魔法による着弾煙が『埼玉』を包み込むが冒険者達は、その手を緩めることなく撃ち続ける。


「いいか! 絶対逃がすなよ! 手ぇ出しちまった以上、もう後はねえんだ!」


 マルコ率いるエーテリアル・ギャングは冒険者の中でもトップクラスのパーティーだ。しかし、パルデンスはやはりその中でも図抜けた実力者達が集うパーティーなのである。

 普段ならマルコは格上に対して、こんな危険を冒すようなマネはしない。しかし今回は賭けに出て、そしてハメられ、しくじった。なんの利益も得られない。その上ここでもし大賢者をここで逃がすようなことになれば、そこで全てお終いなのだ。


「出し惜しみすんじゃねえ! 殺せ! 殺せ!」


『埼玉』包んでた煙はやがて周囲に立ち込めるほど広がっていく。


「見えねえな、これじゃ……。おい! 一旦止めろ! これじゃ煙が邪魔で見えねえ!」


 エーテリアル・ギャングのメンバー達はマルコの命令で攻撃の手を止める。しかし、それでも油断はしていない。なにかあればいつでも攻撃を再開出来るように身構えている。

 だが、あまりの手数の凄まじいさに煙は一向に晴れない。焦れてきたマルコは「ちっ……」と舌打ちをする。


「あれだけ撃って無傷ってことはねえだろ。誰か様子を……」


 マルコが指示を出し終える前に目の前の煙が突然割れ『埼玉』が飛びだしてきた。


「防御力全振りだって言ったでしょ!」


『埼玉』は敵の集団めがけて払いのけるように右の手ひらを繰り出した。払いのけた手は2、3人を吹き飛ばすも、警戒していた残りの冒険者達はこれをなんとか避ける。

 それでも払いのけた手は地を抉り飛散した土や石が周囲にいた冒険者達を容赦なく襲った。


「くそ! 何で出来てんだありゃ……」


『埼玉』の姿を確認したマルコは腕で飛んできた土や砂埃を防ぎながら悪態をつく。姿を表した『埼玉』は多少汚れはしたものの全くの無傷であった。


「あっははは! どう!? 拓光君! 人がゴミのようでしょ!? あっはははは!」


「はあ……え? なんすか? ハンドルとか握ると人格変わるタイプっすか?」


 仲村は現実世界では、まず叶わない予算や技術を詰め込んだ『埼玉』を拓光にお披露目出来たことが嬉しくてテンションぶち上げなのである。


「どう? 拓光君。デカイってだけで十分武器でしょ?」


「攻撃も効かないし、無敵じゃないっすか。逃げなくてもいいんじゃないっすか?」


「あぁ~……そういうワケにもいかなくてねぇ~……稼働時間があって……」


「え? じゃあ早く逃げないと! なに悦に入ってんすか!」


「ええ……少しくらい調子に乗ったっていいじゃ……っとと」


 仲村と拓光会話している間に敵は体制を立て直し、再び攻撃を再開する。様々な属性の雨あられ……。なんの攻撃が有効か分からないからだ。


「ちょ……顔は止めて。見えなくなっちゃう……」


『埼玉』もセンサーやモニターカメラが集中する顔付近への攻撃を防ぐ為、腕でガードをする。

 仲村は、そのガードしている腕の隙間から様子を伺うと、魔法を撃ちまくっている冒険者達の後方……10人ほどが集まっていたところから巨大な魔方陣が展開されるのが見えた。


「我ら魔術師、古の力を呼び覚ます。遥かなる大地の奥深くに眠りし巨人の魂よ、我らの呼び声を聞け。その身に宿る創造のエネルギーを解き放ち、大地を揺るがす力を与えん。闇に忍び寄る者たちに立ち向かい、我が盾となれ。我らの意志を込め巨人召喚の呪文を唱えん。

 来たれグランド・タイタン!!」

 

 魔方陣から巨大な手が、ぬっ……と出て来ると魔方陣の縁を掴んだ。そこから這い出てくるように筋肉隆々の巨人が魔方陣から出てきた。


「行けぇ! グランド・タイタン動きを止めろ!」


 呼び出した冒険者の一人が巨人に指示を出す。


「ウガアアアアアアアア!!」


 巨人は雄叫びをあげ、拳を大きく振りかぶりながら『埼玉』に突っ込んで行く。


「ちょちょちょちょ、なんすかアレ! 避けて! 仲村さん!」


「え? ちょ……急には……」


 巨人の突進に面食らった仲村は周囲からの魔法攻撃もあり対応が遅れた為その場から動けずに巨人を正面から迎え撃つしかなくなった。

 巨人は『埼玉』のガード上から拳を叩き込み「ゴッ」という鈍い音が周囲に響く。それと同時にその拳は『埼玉』に弾かれ巨人は苦痛の表情を見せた。


「あ~……デカイからって生身で金属殴っちゃ痛いよね~」

 

 仲村は痛がる巨人を見て「痛そー……」と小さくつぶやきながら顔をしかめる。


「デカイしか取り柄がねえくせに何やってやがる! 動き止めろ! 押さえ込むんだよ!」


 マルコの指示で巨人が『埼玉』に腰の辺りにガッチリと両腕を回して組み付いてきた。

 

「ちょっと! 触んないでよ!」


 仲村は『埼玉』を操り、巨人の背中に拳を振り下ろす。巨人は苦悶の表情を浮かべながらも、これを耐えてガッチリと離さない。


「よし! 押さえてろ!」

 

 マルコは先程から両手を胸の前で合わせて、なにかの準備をしている。その両手の辺りだけ黒く暗くなっていくように見える。

 

「仲村さん! アイツなんかやる気っすよ! 早くコイツ引き剥がして!」

 

「分かってるよー! こんにゃろぉおお……」

 

 仲村は巨人の体に手を回すとそのまま持ち上げようとするが巨人も持ち上げられまいと踏ん張り、これを堪えてるようだ。機体がギシギシと音を立て、機械音が高音で金切り音をあげると巨人の体が地から少しだけ浮いた。

 

「ォオオオオラアアアア!! 全開ぃいいい!」

 

 仲村はココが踏ん張り所と捉えたのかアフターバーナーに点火する。飛び上がるまでは出来ずとも反動で巨人の体が完全に浮くと、そのまま巨人を振り回し周りの敵をなぎ倒し始めた。


「アハハハハハ! このままアイツに投げつけてぇ……」


 と、仲村はマルコを探すが姿が見えない。

 ぐるぐると景色が回るモニターで拓光も探すが、見つけられない。

 仲村はマルコに投げつけるのを諦めると敵が密集している部分目掛けて巨人を放る。

「さあ逃げるよ」と仲村が拓光に言った、その瞬間。地面にズンっと音を立てて『埼玉』の左腕が落ちた。

 

「え? なに?」

 

 仲村は状況が掴めずに狼狽えていると、今度は大きくバランスを崩し『埼玉』は膝をついた。いや、右の膝から下がなくなっていた。

 

「切り口だ! そこに魔法を撃て!」

 

 マルコの叫ぶ声で仲村はようやくマルコの姿を捉える。手には漆黒の剣のような物が握られており、その刀を中心に何やらぼんやりと仄暗く見える。

 エーテリアル・ギャングのメンバーはマルコの指示通りに切り口に向けて魔法を放つ。装甲がない切り口には当然、攻撃は有効でコクピットの中にいる2人にも少なからず衝撃を与えた。

 これ以上の被弾を防ぐ為、右手で左腕の切り口を庇う。それと同時に後ろから、いつの間にか立ち上がっていた巨人が頭と右肩を掴み『埼玉』の機体を地面に押し倒した。


 右足と左腕がなくなり右腕は体の下。『埼玉』は完全に身動きが取れなくなる。

 マルコは悠々と歩いて『埼玉』の頭に近付き手に携えた仄暗い剣を見せながら話しかけてきた。


「これ……な。空間ごと断絶できる魔法の剣だ。光すら断ち切る。ま、なんでも斬れる剣だな。念のために首……落としとくぜ」

 

 モニターに映し出されるマルコが剣を振るうと、モニターからの映像がプッツリと途絶える。 拓光と仲村……二人がいるコクピットに沈黙と暗闇が訪れた。

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