その29 左町さんは片っ端から消すことにした
ゾロゾロと湧き出てくる半裸衣装の女性達は恐らく女神達だろう。こちらを扇形に取り囲むように次々と出てくる。
「コイツがサマチかい? モウス」
「ええ、そうです。女神セプト様。この方が大賢者タクミ様の師、サマチ様です」
セプトと呼ばれた女は女神と呼ぶには粗暴な印象だった。挑発的な格好ではあるが筋肉質で、その仕草は女性と呼ぶには荒々しい。まあ美人ではあるが……
「セブン様がアンタをやたらと危険視しててね……卑怯かもしれないが、全員でやらせてもらうよ」
モウスはいつの間にかこちらから離れ、女神達の側にいた。
相手は女神達だから男は大丈夫だと思い込んでいた……ハニートラップにかかった男の冒険者が裏切ってるってこともあるのに……。
……油断した。
10人20人……セプトが話しをしている間にもどんどん増えてくる……。たった一人を何人で囲む気なのだろう。奥の茂みにもまだ大勢の女神達が確認出来る。
「セブンセンスの女神達……105人。サマチ様を亡き者にする為だけに集められた者達です。……確実にアナタを葬る為に」
「105人? ハハ……いくらなんでも多すぎない? 後ろの方にいるヤツらはどうすんの? オレをボコしてる間に暇しない?」
モウスに冗談を飛ばしながら『英雄殺し』を取り出す。ダメもとで自分手のひらを切ってみるが……やはり元の世界への転移は始まらなかった。手のひらから滲み出る血を見ながら、ここに来て初めてこの世界からの緊急時の脱出方法がないことに気付き、舌打ちをする。後で仲村さんに大クレームだな。
「んで? モウス…… 一応聞くけどアンタ実は女神だったりしないよな? いきなり、その
「もちろん。私は女神ではありません。私は……ランドルト王国の出身者ではなく、隣国……いわゆる『
「クレイドル?」
聞いたことのないフレーズに首をかしげると、モウスは溜息をつき説明を始める。
「本当にご存知ではないのですね……ランドルト王国に従属化し、国名すら奪われた国々……通称『
「いやぁ……ご存知なんでしょ? みたいに言われても……ねぇ?」
「ランドルト王国は1000年前に建国された際、強大な武力を後ろ盾に周辺各国を庇護下に治めました。しかしその後、庇護下に治めた国の中の一つが反乱を起こしました。今となっては、本当に反乱など起こしたのかどうか分かりませんが。そして、ランドルト王国はコレを制圧し二度と反乱が起きぬようにその国にあるペナルティを課します」
ペナルティ……江戸幕府みたく参勤交代でもやらせたんか? 生かさず殺さず、国力を削ぐ……といったところか。
「一定以上の強い魔力を持っている者、または持って生まれた者達の片腕を切り落としたのです。戦力と国力を削ぐ為に……これは1000年経った今でも
さすがにギョッとした。現実世界でも紛争地帯……村単位で行われたことがあるのは聞いたことがあった。片腕を落とし戦えなくする為、そして片腕を落とした者の子供の世話をする人間を作る……そうやって敵側の負担を増やすと共に恐怖心を煽るのだ。どこか遠い国での話。聞いた時は酷い事を……と思ったが、それを国の単位で行っているということか。
「その後は他の国々でも同じことが行われました。一度に全ての国々ではなく、徐々に徐々にです。魔王を倒した英雄ランドルト王が糾弾すれば国民も……他の国々もそれに呼応するように賛同し、粛正する。それを繰り返し、300年の年月をかけて大陸全土を掌握したのです」
現実世界では、まずあり得ない話だが……ここは仮想の異世界……ブルマインも随分と酷い世界を作りあげたものだ。
「ランドルト王国の繁栄はこの粛正された国々、
……とそこで、ペキ……ペキペキ……という木の折れる音で異様な存在に気付く。森の木々より遥かにに高い所からこちらを見下ろしている巨大な影だ。その影はこちらを威嚇するでもなしに、邪魔くさそうに木々を片手で避けて静かにオレを見ていた。
「やっと気付いたかい? 『巨象アイラーヴァタ』。100人を越える女神が祈りを捧げることでようやく召喚できる。世界を支えているとされる8頭の巨象の内の1頭だ。いかにアンタといえど、コレとワタシら相手じゃ勝ち目がないだろう」
たしかに耳が大きく、鼻が長い。しかし、象と呼ぶには抵抗がある。顔こそ象だが体は筋骨隆々の人。死んだような目と相まってとにかく不気味だった。
こんなのゾウさんじゃないやい。
「救援は諦めて下さい。ここはソッパスの森の奥深くの『巨象震域』と言われる……最近になってアイラーヴァタが目撃され付いた名ですが……恐れて誰も近づきません。転移魔法が使えるドクトゥス様はパルデンスを離れておりますし、タクミ様には他のパーティーの冒険者達をあてがい時間稼ぎをさせています」
「それは……マズイな……」
「誰にも……邪魔はさせません。ランドルト王国は……この世界は変わらなければならない。これは聖戦です。私がランドルト王国に来れた意味が……」
「あ。待った。お前みたいな脇役の身の上話なんかいらないから。話が長えよ……スキップ機能がいるな」
モウスの話を遮り『英雄殺し』を握りなおす。
魔法がやっと1つ使えるようになった拓光と仲村さん……他の冒険者が功名心で二人を襲えば、それは時間稼ぎでは済まない。
「少し急ぐんだ。さっさと終わらせてもらうぞ」
……助けにいかなければ。二人を放ってはおけない。
「そうかい! 私も長話は苦手だからね! アイラーヴァタ!」
セプトが叫ぶと巨象は木をかき分けてこちらにその巨体を表す。ゆっくりと拳を振り上げると、その巨躯は迫力を増し、ますます大きく感じさせた。
「そんだけ大口叩いてんだ! 一瞬で終わらないでくれよ!?」
その言葉が合図だったかのように巨象は振り上げていた、その巨大な拳をこちらに向かって振り下ろし……
そして消えた。
巨象が振り下ろした拳の凄まじい風圧だけが後に残り砂埃を舞わせた。
「は? え……?」
巨象の一撃により轟音が轟くはずだったその場にセプトの間の抜けた声だけが響く。
「おっと、ごめん。一瞬で終わらせちゃった。いいねー……デカイと消しやすくて」
正直あれだけ的がデカイと消すのは簡単だ。なんの事はない向かってくる巨大な拳向かって『英雄殺し』を突き出していただけだ。他の世界でもデカイのは何匹か消している。伝説の巨竜とか幻の巨人とか……
「召喚をキャンセルした? ……いや、ありえない……あんな一瞬で……アンタ! なにをしたんだ!?」
先ほどまで威勢のよかったセプトが分かりやすく狼狽えている。
「見てたろ? すぐに分かるよ。お前らも消すから」
なぜだろう。今まで1番のピンチのはずだが……今回はやけに落ち着いている自分がいる。
いや。落ち着いてはいないな。
そうだ……オレは多分怒っている。色々とだ……。
「プログラムの分際で人間様に逆らいやがって……」
肘と顎をつけ身体能力を上げる。
「身体能力2倍……いや5倍」
仲村さんは「2倍以上は使わない方がいい」と言っていたが……急がなければ拓光と仲村さんが危ない。ここは一つ、おじさんが無理をしようじゃないか。
「覚悟しろよ。末尾の
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