その23 左町さんは消しちゃってる

「ワハハハハハ! タクミ! 見事に怒られておったな! 200年前の罰ゲームのリベンジようやく果たせたわ!」

 

 別室に通され、しばらく待っているとランドルト王が現れ開口一番に拓光をちゃかした。タクミは微妙な面持ちで受け答えをしている。色々と感情がないまぜになっているようだ。

 ちなみに200年前は真面目な演説中に突然ランドルト王が踊り出すという、どぎついモノだったらしい。

 100年ごとの罰ゲームとか、壮大な話のワリにはしょーもないことばかりしているようだ。

 

「さて。おふざけはここまでだな。すまんな、ドクトゥス。こやつとは、いつ会えるか分からぬでな。さ、皆も座ってくれ」


 そういうとランドルト王は部屋の椅子に座り、こちらも座るように促した。

 

「いえ。タクミ様とのお話は以前からよくお聞きしておりましたので……伝説のお二人の絆の深さを垣間見ることができ光栄です」

 

 組織のトップたるドクトゥス君はさすがの大人の対応だ。

 オレと仲村さんの二人は完全に蚊帳の外といった具合でこういう身内ノリの輪には入っていけない。

 権力に弱い中年のオッサンはただ卑屈に笑顔を保つので精一杯だ。

 

「サマチ殿とナカムラ殿もわざわざすまぬな。あの場で内密な話も出来ぬのだ。今やセブンセンスはどこに入り込んでいるかも分からぬでな」

 

 といきなり本題をぶっ込んできた。

 セブンセンスの名前を出してきたということは、大体の事情を把握しているということだろう。

 

 

「ランドルト様。セブンセンスのオクトーを倒したのは、こちらのサマチ様です」

 

 ドクトゥス君がそう説明するとランドルト王は椅子から身を乗り出した。


「おお! そうか! タクミがやったとばかり思っておったが……さすがタクミの師匠殿だな!」

 

 王様に褒められて悪い気はしない。

 

「へへへ……ま、まあ運がよかっただけで……へへ」


 が、褒められ慣れてない自分は、ただただ気持ち悪いうすら笑いを浮かべるしかなかった。つくづく主人公にはなれないのだと、こういう場で痛感する。


「セブンセンスはな。このランドルト王国に姿を現してから短期間で冒険者業界を席巻しおった。実力は言わずもがな……弱者を無償で助け、民衆の評価もすこぶるいい。だが……」


 ランドルト王は、そこで一旦話をやめると険しい表情になる。先程まで拓光やドクトゥス君に見せていた柔和な態度はなりを潜めて場に緊張がはしる。

 こちらもヘラヘラしてはいられない。顔を引き締めると、それが合図だったかのようにランドルト王が続ける。


「1年ほど前からか……まずはセブンセンスに友好的でない冒険者のギルドパーティーの行方が分からなくなった。だがその時はな……元々素行に問題があったパーティーだったこともあり大した騒ぎにもならなんだ。」


「ヤカラみたいな連中が新進気鋭の冒険者パーティーが気に食わなくて、ちょっかい出したら返り討ちと……まあ、ありそうな話っすね」


 拓光がランドルト王にさも当然のように意見をする。決して人見知りというわけではないが、初対面の王様にグイグイ意見などできようもない。今回は拓光に任せて黙っておこう。


「その後も次々と有力な冒険者が行方不明になっています。セブンセンスに敵対的であるというだけでなく、セブンセンスに疑惑の目を向けただけの者でさえ姿を消しているのです」

 

 ドクトゥス君はあきらかに怒気を含んだ口調だ。

 しかしだ……そもそもオレ達はセブンセンスのヨシミツ、もとい七々扇義光をこの世界から解放するのが目的であり、それを達成してしまうとこの世界が消えてしまうわけだから……この世界の一番の敵はオレ達なんじゃあなかろうか? そう思うとまともにドクトゥス君の顔を見ることが出来ない。


「そこでな。ドクトゥスから内密に話を受けたワシは、冒険者とは関係ない王国騎士団の方から調査の者を出したのだが……2週間ほど前にソッパス周辺で連絡が途絶えてな……」


 ランドルト王から、その話を聞いたオレは隣にいる拓光を見る。仲村さんも、もちろんピンときたらしく拓光の方を見てオレと目が合った。拓光はというと、前を向いたまま「はぁ~ん……それであの森に転移したんすか」とブツブツと呟いた。


「そのタイミングでだ。タクミ。お前が辺境から顔を出した、という噂が出回ったのだ。ワシはこの通り自由に出来る立場でないのでな。お前のことをドクトゥスに頼んだというわけだ。なのに……」


 ランドルト王はそこでため息をつくと呆れたといった感じで話を続ける。


「お前ときたらエンカンに来ても自由気ままに……いつまでたっても顔を見せに来ないときた。闘技会も明日だというに……」


「まあ、こっちはこっちで色々とやんなきゃで……。ただ目的は同じっす。こっちもセブンセンス目当で色々と動いてたんすよ。そのせいで左町さんは女神に狙われちゃったわけだし」


「そう! それだ!」

 

 ランドルト王が声高に叫ぶ。

 

「サマチ殿のおかげで、ようやくヤツらのシッポを掴んだというわけだ! 証拠さえ掴めばヤツらを公然と裁けるからな!」

 

 ワハハハハハ! とランドルト王は高笑いをする。

 

 これは良い展開だ。パルデンスのみならず王国を挙げてセブンセンスを取り締まれる。ヨシミツの身柄さえ拘束してしまえば後はどうとでも出来るというものだ。


「今まで女神に襲われたという証言は一度もありませんでしたからね。狙われたが最後だったのです……サマチ様。オクトーの顔をしっかり覚えていらっしゃいますか?」

 

 オレはドクトゥス君の問いに「もちろん!」と自信満々で答えた。

 忘れようはずもない。あの半裸痴女め。突然短剣で斬りかかられ、魔法をぶっ放され……最後に英雄殺しで消えていく時の、あの恨めしそうな目まで覚えている……と、ここで思い出したくないことまで思い出してしまい、額を押さえて塞ぎ込んでしまった。

 その様子を見たドクトゥス君が声をかけてくる。


「サマチ様。どうなさいました?」


「い、いや……なんでもない。覚えてるよ、ちゃんと」


 へこむのは後でいい。今はしっかりとしなければ。

 

「ではセブンセンスに乗り込み、証言を……彼らを止めなければ!」


「そうだな。アチラはとぼけるかもしれんが……なに、ワシが言い逃れなぞさせんよ」


 ドクトゥス君とランドルト王の鼻息は荒い。今日にでも乗り込む気なのだろうか。

 ともかく、これで闘技会などには出なくて済みそうだ。


「で、だ。サマチ殿! サマチ殿にはウチの騎士団に同行してもらい確認をとってもらいたい」

 

「確認? ああ確認ですね。もちろん……って、え? というと?」


「もちろん。撃退した女神の面通しだ」

 

 不意にきたランドルト王からの要請に少し戸惑う。英雄殺しで消してしまった女神の面通しなど出来るはずもない。なぜなら『消して』しまったのだから。

 

「ハハハ……いやいや。そのぉ……オクトーのヤツは撃退したわけじゃなく、消しちゃったんで……もういないっていうか……」

 

 こちらの主張を受けたランドルト王は楽しそうに笑いながら言葉を返す。

 

「消した!? ハハハ! 女神の上位神を討ち取ったと申されるか! さすがだな! なに! 死体でも構わんよ!」


「いや、だから……消しちゃったんで……死体も……ないです……」

 

 見える……ランドルト王の頭の上に『?』のマークが……これは、なんと説明したものか……

 そう思い、仲村さんの顔を見る。『消した』の説明をどうしたもんかと助けを求める。

 

「う、うーん……この二人には説明しなきゃ……かもね」

 

 一応、上司である仲村さんの許可を得た。

 この世界のキーマンである二人には『英雄殺し』の説明が必要だ。

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