その18 左町さんは連投する

「申し訳ありません、サマチ様! しかし……よろしかったのですか?」

 

 よろしくないです。

 

「ですがサマチ様の戦いには興味があります。過去、どんな文献にも記載されていなかった大賢者タクミ様のお師匠様……サマチ様のその一片でもここで感じ取れたらと……」

 

 めっちゃノリ気やん。え? 止めてくれんのん?

 

「シルバもいい勉強になると思います。胸を貸してやって下さい! では!」


 ああ……ヤバイ。行かないでドクトゥス君……

 死んじゃう死んじゃう……おじさん……死んじゃうって。


「左町さん、どエライやる気満々だったっすね。なんかあったんすか?」


 ドクトゥス君との話しが終わると拓光が寄って来て舐めたことを抜かした。


「バカ! 誰のせいでこうなったと思ってんだバカ! 昨日殺されかけたばっかなのに! バカ!」

 

「いや、まあ……焚きつけたのはオレっすけどね。最終的に決めたのは左町さんじゃないっすか。どしたんすか?」 


 あん時はあん時で色々考えがあったが……全部吹っ飛んじまった。

 

「オレが負けたら、ココから追い出されるかもだぞ。身の振り方考えとけ! バカ!」

 

「またまたー……大丈夫っすよ。いざとなったら『英雄殺し』があるじゃないっすか」

 

「本人に使えるわけねーだろ! アイツ消しちゃった方がマズイだろが! それに魔法だって銃みたいに細かい弾を高速で撃ち出されたら、こんな小さいので対処出来ねえだろ! 運が良かったんだよ! 昨日は! バカ!」


「それに関しては大丈夫らしいよ」

 

 拓光をどやしていると、横から仲村さんが入ってくる。

 

「今、モウスさんに聞いてきたけど、あの大きい人……シルバさんは遠距離攻撃の魔法で戦うタイプじゃないみたい。魔法で肉体強化して直接戦うんだって。だから左町さんでも十分勝機が……」

 

「最悪じゃねーか! ねーよ勝機なんて! あんなデカイのと真っ向勝負とか正気じゃねーよ! バカ! バカなの!?」

 

 くっそぉ……あっちの魔法を『英雄殺し』で消しまくって「フフフそんな魔法は通用せんぞ。まだまだだな」作戦が早くも破綻だ……

 

 シルバの方を見るとアップを終え、腕を組んでオレを待っている。オクトーの時のような殺意は感じないが目の奥に闘志を感じる。やる気満々だ。

 

「ちっ……拓光! 骨は拾えよ!」

 

「ハイハイ。大丈夫っすよ」


「ファイト! 左町さん!」

 

 仲村は自分の声援に力なさげに右拳を振り上げて答えた左町を見送ると、拓光に話しかけた。

 

「だ、大丈夫かな……左町さん。死なないにしても、タダじゃすまないんじゃ……」

 

 仲村が口に出した不安を拓光もまったく感じていないわけではなかった。それでも、左町があの大男に敗北を喫する所が想像出来なかった。

 それが、これまで積み重ねてきた信頼によるものなのかどうかは拓光自身にも分からないのだが……。


「平気っすよ。あんだけバカ、バカ言ってるウチは余裕ある証拠っす。あの人、なんだかんだでなんとかしちゃう人っすから」

 

「へー……結構、信頼してんだね」


 仲村が笑って茶化すと、拓光は複雑そうな表情で「うーん……」と唸る。


「信頼って言葉使われると……なんだろう……ちょっと、キモいっすね。付き合い長いから分かるだけっす」


 拓光が『信頼』などというムズカユくなる言葉を使わないことを仲村は分かっていて、敢えて使った。

 照れ隠しに毒気つく拓光を見たかったのだ。



 ────────



「……。」


 仲村さんと拓光が後ろでイチャついている……

 気がする。

 こんな時じゃなければニヤニヤと眺めていたいが、今はムカつく。ちょームカつく。


 目の前に立っている男を見る。

 組んだ腕は自分の脚より太く、脚などは自分の胴より太い。身長差も30センチ以上はありそうだ。

 この体格差でケンカ吹っかけてくるとか恥を知って欲しい。


 だがもう、やるしかない。


 ストレッチをしながらアゴと肘をくっつけて身体能力2倍を発動させる。『英雄殺し』が使えない以上、頼みの綱はコイツだけだ。

 

「素手か? 武器は使わないのか?」

 

 ストレッチをはじめたオレを見てシルバが話しかけたきた。

 

「使ったら死んじゃうだろ。アンタだってなにも持ってないだろ」

 

 そう言うと両の拳を胸の前で打つ付けた。ギン! という金属音が響く。よく見ると手になにかハメている。

 え? メリケンサック?

 オレが知っているメリケンサックとは形状が異なっており、円錐形の太いトゲのようなモノが突き出したモノが拳の先端に付いている。

 

 そんなん使ったら、死んじゃうでしょ……

 

「使わないのは勝手だが、オレはアンタを決してナメていない。初っぱなから全力いかせてもらうぞ」

 

「それでは、試合をはじめます。これはあくまで訓練です。命の取り合いではありません。どちらかが『まいった』と降参するか、戦闘不能と私が判断した時点で決着とします」

 

 ドクトゥス君がオレとシルバの間に入って説明をはじめる。が……

 ドクトゥス君は彼が手にハメてるものが見えていないのだろうか? 

 

 あんなん使ったら死んじゃうでしょ……

 

「それでは……構えて!」


 あたふたしてても相手は待ってはくれないだろ。切り替えろ!

 右足を半歩引いて構えをとる。

 とりあえずは様子見だ……コイツがどれくらいの相手なのか見極めないと……


「はじめ!」


 ドクトゥス君の開始の合図と同時にこちらに猛突進……

 は、してこない。構えを解かずにジリジリと間合いを詰めてきている。

 これだけだけの巨躯の持ち主に構えを固めたまま、にじり寄られると非常にやりにくい。

 それに仲村さん情報によると、この男は魔法で身体能力を強化して戦うのだという……

 見た目だけで分かる怪力がさらに強化されるのだとしたら一撃もらっただけでアウトだ。捕まれるのも良くない……一度捕まってしまえば、おそらく二度と振りほどけないだろう。

 ならば出来るだけ距離を取ってヒットアンドウェー。これしかない!


 距離を取り、シルバを中心に反時計回りにゆっくりと回る……


 ちっ、コイツ……見た目に反して慎重すぎだろ? ちょっとは仕掛けて……


 焦れてきた、こちらの心を見透かしたかのようにシルバは突如間合いを詰めてきた。

 巨躯に似合わぬ、その速さで一気にこちらとの間合いを詰めると左の突きを連続で繰り出してきた。

 のけ反って躱すと距離を測っていたかのように正確に踏み込んできて大きな右を繰り出してくる。体をねじるだけでは躱しきれず、右手で捌きながら避けるとシルバの左側面に回り込めた。チャンスとばかりにシルバの脚に蹴りをお見舞いしてやり、その反動で一度大きく間合いの外へと逃れた。


 コ、コイツ……なんかちゃんとしてる!


 もっとこう……「ウガー!」とか「グオオ!」とか適当にブンブン大振りで戦うんかと思ったら!

 とんでもねえ!

 基本の塊みたいなキレイな突きだった……ちょっとホント……見とれちゃう……

 しかし、それについていけてるオレも凄い……

 オレっていうか、身体能力2倍……予想以上に凄い。

 強い! 今オレ世界一強い!

 見える……捌けるぞ!


 これなら……いけるか……も?

 

 先程の攻防に酔いしれていると、あきらかに間合いの外の遠方からシルバが大きく体を捻って右手を上に振りかぶっていた。

 

 は? なにそれ?

 

 と思った、次の瞬間。大地を抉りながら豪快なアッパーを繰り出す。抉られた大地は散弾となってこちらに襲いかかってきた。

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