その15 左町さんは…ぁああああああああ!
「うわあああああああああああ!」
打ってきたぁああ!
そこは「くっ!」とか言って使えないんじゃねえのかよぉおお!!
避けるスペースもないほどの業火が襲いかかってくる。
「ひっ」っと小さく悲鳴をあげ、身を縮めて目を逸らしそうになるも……
さすが反射神経も倍! あることを思い出しポケットに手を入れ、短剣を持つとそのまま前に突き出す。
目の前に拡がっていた業火は上着から突き出した短剣の先に触れると一瞬ノイズが走り、音もなくそのまま全てがかき消えた。
「なっ……」
オクトーもさすがに驚いたようで声をあげる。
「ふへへへ……」
へへへ……そうだった。こちとら規模のデカイ魔法は大好物だった。
「うへへへ……アテが外れたな……魔法『は』効かないんだよ」
へへへ………
うおおおお! かっけー! かっけーぞオレ!
子供達に今の輝いてるオレを見せてやりたい!!
笑い方は……ちょっと気持ち悪いが……知ったことか! 調子に乗りまくるぞオレは。
相手の顔をうかがうと最初こそ驚いていたがすぐに冷静な顔に戻りこちらを分析してきた。
「なるほど、その服……魔力を打ち消すマジックアイテムですか。たしかに珍しいですが……」
そう言うと今度は地面に手をかざす。
「対処法はあります……」
かざした手が光ると街の石畳が爆音と共に形を変え、巨大な石の石柱がこちらに襲いかかってきた。
「魔力で出来たものは防げても本物の石を成形したこちらは防げないでしょう!?」
不正解!!
こちらは手を地面にかざした瞬間にオクトーに向かって飛び出していた。
「魔法『は』効かないんだよ」と言ったのはこちらの誘導だ。魔法『は』効かないんじゃない。魔法『も』効かないのだ。
あてっずっぽうに、短剣を持っていた手を前に突き出し石柱に当てる。こちらに当てようとしているのだから短剣に魔法を当てるのなんて簡単だ。
「だてに仮想世界渡り歩いてるワケじゃねーんだよ!」
先程の業火と同じように一瞬ノイズがはしると石柱も同じように音もなくかき消えた。
この短剣……『英雄殺し』はブルマインが形成した世界、全てのモノを無に帰する。
これを聞いた時、拓光は
「じゃあ地面にぶっ刺したら全部終わるんじゃないすか」
と仲村さんに聞いた。仲村さんは少し考えて「うーん……やってみれば」とのことだったので……最初の世界で試してみた。
地面に刺した直後、直径2、3メートルの半円の穴が突然出現し二人で落ちて死にかけたのだった。
もう二度とやらん。
このように……消せる範囲はあれどブルマイン内では無敵の武器。それがこの『英雄殺し』!
リーチ……短いけどね!
消した石柱の陰に身を隠していた為か……消されると思ってもいなかった動揺からか、オクトーは簡単に懐に入ることを許した。
低い態勢で内側から外側……上になぎ払うようにオクトーの喉を狙う……
それを受けたオクトーは胸から上……急所を隠すように両腕でガードをした。
その両腕のガードをかいくぐり喉元に短剣を深く突き刺す!
ことはせずに最小限の力でオクトーの左腕に軽い切り傷を作り距離をとった。これで十分だ。
オクトーは理解できないといった顔をこちらに向けているが、こちらはオクトーに一瞥もくれずに短剣を上着ポケットにしまった。
「なんのつもりです? 次は……こうはいきませんよ」
意思があるAIやプレイヤーは『英雄殺し』で刺した後、なぜかしばらく消えない。パソコンをログアウトする時のように処理に多少時間がかかるからだろうか。
次……ね。
悪いな、見逃すつもりも余裕もなかったんだわ。
「いいや……アンタとは、これっきりだ」
そう言った直後、オクトーにノイズが走ると傷を付けた左腕からモザイクが抜け落ちていくように消えていく。
そのことに気付いたオクトーは叫び声をあげようとするが……叫び声を出すはずの口はもう消えており、なにかを訴えるような眼差しをこちらに向けたまま消えていった。
か、勝った……
「ぷっはっーーー!!」
は、はぁ、はぁ……い、息するの……忘れてた!
こ、こここ、こ、こわ……
「怖かったぁああああああ!!」
ああああああああああああああああああ!
ああああああああああああああああああ!
うわああああああああああああああああ!
怖かったぁあああああああああ!
お命頂戴とか言ってきたよアイツ! ※言ってない
超こえぇえええええええええ!
え? なに? なに? なんなの!? 日本のサラリーマンに起きていい現象なの!? 初めてなんだけど! 命狙われたの! 怖っ! 心臓バクバクいってら!
ああああああああああ! ポケット破れてるぅうううう! ポケット入れたまま短剣突き出したからぁああああ! 嫁に怒られるぅうう!
あ。大丈夫か。仮想世界だし……
……。
……。
最後のアイツの目……なんだよアレ……くそっ……
……。
……。
ああああああああ! もーーーーーーーーー!!!
「左町さん」
「ぎゃあああああああああああああ!!」
「うわあああああああああああああ!!」
声をかけてきた主は、こちらの悲鳴に驚き呼応するように悲鳴をあげた。悲鳴をあげながら、よく見ると声の主は拓光だった。
「お、おま……ふざけんな!!!」
ビックリさせられたことに腹を立て、拓光の頭を強めにゴン! と小突くと拓光は大げさな程に地面に突っ伏した。
あ。身体能力2倍解くの忘れてた……
「な、なにするんすかぁ!? ちょっと! マジで痛いんすけど!」
「う、うるせー! こっちはついさっきワケ分からん半裸の痴女に殺されかけたんだぞ!? 急に声かけてくんじゃねー!」
「あ。やっぱりアレ刺客だったんすね」
頭をさすりながら立ち上がった拓光が
「監視してたら女神がこう……光って、現れた人影が凄い勢いで窓から飛び出してパルデンスの方に向かってたんすよ。タイミングとか方向とか考えて左町さんが狙われたんかなって……」
「え? アイツ……おせっせせ中に呼び出したんか?」
「おせっせせ中に呼び出してたっすね」
あっそう……
なんだろう……
……。
ム、ムカムカする!
なんだそりゃ? こっちは生きるか死ぬかだったのになんそりゃ!? ヨシミツ許せん! こっちは殺されるとこだったのに!
「まだヤッテんのか!? アイツら!」
「え? あ……さあ……ヤッテんじゃないすか!?」
「まぁだヤッテんのかぁ!! 仲間の女神やられたってのに!?」
「へ? あ、凄いじゃないっすか。返り討ちにしたってことでしょ?」
「そう! 凄い! オレ凄い! 帰るぞ拓光!」
「へ? あ……そうっすね(えぇ……テンションたけぇ……うぜえ)」
────────
オクトーがやられた……
しかもただやられただけではない……この世から完全に消し去られた。殺されたのではなく、存在が消されたのだ。
セブンは今までに感じたことのない胸騒ぎを感じていた。
……消える寸前のオクトーの絶望がセブンには伝わってきた。
存在そのものが消える恐怖。
セブンもその恐怖に晒され戸惑っている。
だが……
ふと、横に目をやると無邪気に寝息をたてる男が一人。
男の顔にかかっていた髪を手でそっとあげ、撫でると不思議と迷いが消えていく気がした。
そう。止まるわけにいかない。この男の野望を叶える為に。
この男を世界の王にする為に。
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