その10 左町さんは照れちゃってる
ドクトゥス君はソッパスの宿屋から少し離れた酒場で待っているらしい。
先程から気になるのは拓光も仲村さんも、なぜかドクトゥスを君付けで呼んでいることだ。
オレまで、いつの間にか君付けで呼んでるし……
「なあ、なんで君付けなんだ?」
「そりゃあ……」
と拓光が口篭もる。
「まあ、会ってみれば分かるんじゃない? 絶世の美少年だし。君付けも分かるっていうか……」
拓光の代わりに仲村さんが答えた。
「ふーん。ジャニーズのシステムみたいですね」
「うーん……それに近いっすね。自然と君って呼んじゃうっていうか……」
雑談しながら移動すると酒場にはすぐに着いた。
酒場を覗くとやけに目立つ少女? 少年が座っている。オーラとでもいうか……酔っ払いどもの喧騒の中でも一際目を引くその人物がドクトゥス君であることは後ろ姿からでもすぐに分かった。
ただ様子が少しおかしい。ドクトゥス君の周りには腹這いになり突っ伏しているガラの悪そうな輩が2、3人いた。
なんなん? その状況?
「ドクトゥス君! 連れてきたっすよー!」
拓光の声に振り向きこちらを確認するとドクトゥス君はニコっと笑った。
おう! これは……たしかにカワイイ! 顔面がCGみたいだぜ。いやそもそもCGなのか? 息子に欲しいレベル。まあ……うちの子のがカワイイけどさ。
オレと目が合うと席を立ちツカツカ歩いてきて手を差し出してきた。
「パルデンス代表のドクトゥスです。サマチ様ですね? タクミ様からお話は伺っております」
これは……握手を求められているのか!? いいのか!? オレのようなオッサンの手がこの子の手に触れて!?
あ! 手汗が凄い!
シャツの前の部分で右手をゴシゴシ拭いて握手に応じる。
「左町です。えー……っと……」
そういや拓光のヤツはオレをどうゆう立ち位置で説明してるんだ?
返答に困っていると
「タクミ様からお話は伺っております。拓光様のジョーシ? でらっしゃるとか」
ジョーシの意味分かってないまんまここまで来てる?
拓光の方に目線やると
「あー……上司ってのは……まあ……そう! 師匠みたいなもんですかね?」
それを聞いた瞬間ドクトゥス君の顔がパアっと明るくなり握手していた右手を両手で覆い
「大賢者様のお師匠様がまだご存命でしたとは! どの文献でも大賢者タクミ様の魔法のルーツは不明のままでしたのに!」
拓光の師匠と呼ばれて戸惑うも、この純真無垢な笑顔を裏切ることも出来そうにない。
まあ、業務指導はしたことがあるし間違ってはいない! のか?
「まあ、そうゆうことだからヨロシク頼むよ。ドクトゥス君」
スーパーヒーローに初めて会った少年の感動を奪うわけにはいかない。
ジンワリと手汗が滲みながらも努めて大人の対応をした。
オレとドクトゥス君の挨拶が終わったのを確認すると拓光が口を開く。
「で? ドクトゥス君。こいつらはなんなんすか?」
拓光の質問はもっともだった。まあ、だいたい察しはつくが……
「ここで待っていると、どうも……その……私を女性と勘違いしたようでして……『酌をしろと』。用事があるからと断ったのですが……なかなか聞き入れて貰えず……仕方なく……」
よく見ると、輩達は気絶しているわけではなく、突っ伏したまま両手で踏ん張り必死に立とうとしている。
「空間魔法です。一時的に彼らの周りの重力を重くして動けないようにしているだけです」
へー……やっぱ魔法って便利なんだなぁ……と思い。輩達の顔を見ていると……
? どこかで見たことのある顔だった。
「ぐぎぎ」とうめき声を漏らしている輩の一人と目が合うと
「あ! お、おま……え……」
とオレの顔を知っているかのようだった。仮想世界に知りあいなんて作ってな……
あ。
こいつらさっき金を巻き上げた……
「かえ……オレの……か……ね」
「セイッ!」「ぐう」
「セイッ!」「うが」
「ヤアッ!」「ひぐっ」
気付くと同時に体が動く。悪漢達の顔に正拳突きをたたき込んでいった。
「ドクトゥス君ー!」
唖然としているドクトゥス君に声をかける。
「君は空間魔法の使い手らしいね。それもかなりのモノだと聞いている」
「え、ええ。そうです」
「君はいい。自分を守る術を持っているからな。だが、もし君が本当に非力な女性だったとしたらどうだ!?」
「!」
「そうだ……こいつらにされるがままどんな目に遭っていたかも分からない。他の女性もそうだ。こいつらにどんな目に遭わされるか……だから……そのー……君はこいつらがケガをしないように配慮したのだろうが……多少痛い思いをしてもらい罰することも、私は必要……だと思う」
「な、なるほど……おっしゃる通りです」
素直だなぁ……この子は。嘘つくのに罪悪感を感じちゃう。
あ、お金にはもう困らないって拓光が言ってたし……お金だけ返しておこうかな。
懐から金貨の入った袋を取り出すと
「ち、治療費だ」
と輩達の上に落とした。
「あー……さて、左町さんの
くそっ! 全部バレてやがる。
「そうですね。しかしここでは他の方も巻き込みかねないので表に出ましょうか」
表に出ると、ドクトゥス君は両手を胸の前にかざし光る玉を手の中に作り出した。
「私の周りに集まって下さい」
ドクトゥス君に言われるがままオレを含めた3人は傍によりそうように集まった。
「今からエンカンに移動しますが……多人数の為、若干のズレが生じるかもしれません。気を付けて下さい……行きます!」
転移魔法テレポート!
ドクトゥス君が作り出した光の玉が肥大し、4人を包む。あまりの眩しさに目を閉じた。
目を閉じていても分かる眩しさに思わずまぶたに力が入る。
そのまま光が収束していくのが分かり目を開けるとさっきとは違う風景になっていた。大きな屋敷の前だ。
そして、足下には地面の感覚がない。
「おっっと!」
地面より少し高い所に転移したようで急に下に落ちる感覚に襲われたが、辛うじてバランスを崩さず着地した。ドクトゥス君は自分の転移魔法だからかなんなく着地し。仲村はバランスを崩したようで後ろにすっ転びそうになっていたが。
「とっと……」
と仲村さんの両肩を拓光が受けて止めて事なきを得ていた。
「あ、ありがと」
と仲村さんがお礼を言うと。拓光はそれには答えずに
「んー……ちょっと多人数になると座標がズレるっすねー。地面に埋まっちゃうの警戒し過ぎたんじゃないっすか?」
とドクトゥス君に苦言を呈している。
「おっしゃる通りです。申し訳ありません」
「大事なのはイメージっす。魔法は総じてイメージっすよ。自分の想像力を過信するでも卑下するでもなく忠実に再現する力が求められるんすよ。」
偉そうな拓光の講釈に
「はい!」
とドクトゥス君がとても良い返事を返していた。
いや……お前魔法使えねーじゃん……
「さて……今日はもう休んで詳しい話はまた明日に。オレもう……眠いっすから」
と拓光は屋敷に入っていく。自分ちかお前。
「すいません。もう少し早く、お迎えにあがれればよかったのですが……どうしても今日まで屋敷を離れられなかったもので」
ドクトゥス君がオレに謝罪をしてきた。
「ん? は? いやいや! 全然! 全然!」
「部屋は準備させてありますので今日はゆっくりとお休みください」
「あ。うん。はい」
と言うとニコっと微笑んで、先導して屋敷の中にオレを案内してくれた。
うーんこれは……
美少年の清らかな心に触れて惚けていると……
「ね? ドクトゥス『君』でしょ?」
と仲村さんがオレに耳打ちしてきた。
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