その11 左町閣下さんは……

 朝目覚めるとメイド服の女性が目の前に立っていた。昨日、部屋まで案内してくれたメイドさんだ。

 キングサイズのベッドは宿屋の簡素な作りのベッドと違いフカフカで体を包み込み、オレをその場から離そうとしない。が、いつまでもこの人を待たせるワケにもいかず


「お、おはようございます」


 と朝の挨拶をする。


「おはようございます。お召し物をお持ちしました」


「あ、はい。どうも。アレ? オレの服は?」


「サマチ様のお召し物は汚れておりましたので。代わりの物をお持ちしました。乾き次第、部屋にお持ちしますので」


「はぁ、そうですか」


 お召し物、汚れておりましたって……恥ずかしいな。

 あ! パンツも!?

 えー……こんな若くて綺麗な子に何させてんのオレ。

 ベッドから降り服を着替えようとするとメイドさんがシャツの一番上のボタンに手をかけてきた。


「え?」


「お着替え。お手伝いいたします」


「い、いや、大丈夫です! 自分でやりますから!」


「そうですか……」


 そう言うとスッと後ろに下がり、今度はジッとこちらを見ている。


「えっと……着替え……見られんのアレなんで……」


「左様ですか……では朝食が出来ておりますの食堂まで…部屋の外でお待ちしております」


「あ、はい……すいません」


 メイドさんはやっと部屋から出てくれた。

 うーん……上流階級ってのは皆こんな感じなのか?

 やりにくいな……


 いそいそと着替え部屋を出ると部屋の前で待っていたメイドさんが


「では、ご案内します」


 と朝食の場へと案内してくれた。




 案内されたのは食堂のようなところで、20人前後の人が、そこですでに朝食をとっていた。

 拓光と仲村さんの姿を見つけ、二人がいる席に近づいていくと、仲村さんがこちらに気付き声をかけてきた。


「おはよう左町さん。昨日は眠れたかい」


「はぁ……まあ、家の低反発マットより上等でした」


 二人が食べている朝食を見るとトーストにスクランブルエッグ、サラダにスープと、いたって普通のメニューで安心した。


「はぁ……よかった……食べ方わかねえようなモン出されたらどうしようかと思った……」


「もし苦手なものがありましたら別に用意させますが」


 突然後ろから話しかけられ後ろを振り返ると、そこには朝食を両手に持ったドクトゥス君が立っていた。


「ああ。いや。そういうことじゃなくてね。いや、ホラ。テレビで見るような冗談みたいに長いテーブルでマナーも分かんないような料理出されたら困るなーって思っただけで」


「? テレビという地名のことは存知あげませんが、一応来賓用の部屋にはありますよ。冗談みたいに長い机が」


 そう言ってクスリと笑うとオレの隣へ来て


「ご一緒しても?」


 と問われた。


「ど、どうぞ、どうぞ。ドクトゥス君の家だしね」


 ははは。とから笑いをして返答する。

 どうもドクトゥス君と話すと緊張してしょうがないな……これがカリスマというヤツか。


「しかし……若いのに凄いねぇ……こんな大きな組織の代表だなんて」


 好かれようと思ってるのか、オレは? ……ついつい分かりやすいヨイショもしてしまう……


「これでも300歳は超えているのでパルデンスでは年長者なのですが……タクミ様やサマチ様と比べると、まだまだ若輩者ですね」


 300!? ……ってもアレか。仮想世界だもんな。実質、この世界の住人は全員同い年ってことか。

 で……なんでオレとタクミがそうなるんだ?

 

「タクミ様は千年前に魔王を倒し、このランドルト王国の建国に貢献されたお方ですからね。私も小さい頃はよく母からお伽話として聞いたものです」


 アイツ、ブルマインに無茶苦茶な設定にされてるな……

 チラっと拓光に目をやるとトーストを頬張りながらこちらにピースサインをきめていた。

「調子にのりません」の儀式は今日はまだやってないのか?


「サマチ様は、そのタクミ様を導いたお方だとお聞きしています。いつかお時間があればお話をお聞かせください。10万年分のこの世界の歴史……大変興味があります」


 え? 10万年?


「た、拓光……オレ……今、何歳だっけ?」


「へ? あ……もー! 年取り過ぎたんすかー? ほ、ほら。10万41歳じゃないっすかー」


 じゅ、10万?

 閣下!? 閣下か!? 

 閣下じゃん! コイツ咄嗟に閣下方式の年齢にしやがったな!?

 ねえよ! 10万年分の積もる話なんて!


「あー……うん。その話は今回の件が終わったらしてあげよう。な?」


「はい、是非!」


 うう……屈託のない瞳でオレを見ないでくれ……


 これは……監督不行き届きだな。

 仲村さんの方を見ると、もはやこちらと目を合わせるつもりはないらしい。窓の外を見ながらお茶を飲んでいた。




 ────────




 朝食後、改めて話をまとめる為に拓光と仲村さんにオレが滞在している部屋に来てもらった。

 だが、その前に……


「拓光。お前完全にオレで遊んでんじゃねえか。なんだ10万41歳って」


「だって、しょうがないじゃないっすかー。師匠設定だと、オレより年上じゃないとおかしいし。そ、そしたら……ププ……なんか……閣下の年齢設定思いだしちゃったんすもん……ククク」


 コイツ……なんか大賢者になってからちょいちょいオレをかろんじてる気がするな。


「わ、私は悪くないよ! 止めるべき行動は止めてると思うし!」


「止めるべき行動?」 


「拓光君ってばエンカンに来る時に大賢者の肩書を利用してとんでもないことしようとしてたんだよ」


「とんでもないことって……なんです?」


「エンカンに来る時の馬車の中で……






「何してるの拓光君?」


「あ、コレっすか? お守り作ってんすよー」


 仲村が見ると拓光は大量の紙に自分の名前をせっせと書いていた。


「名前かいてあるだけじゃん……っていうか……そ、そんなにいっぱい作るの?」


「あー……ほら……これ、エンカンについたら売ろうと思って」


「う、売るって……なんでココで拓光君のサインなんかが売れるのさ?」


「オレ伝説の大賢者っすよ? 大賢者の魔力を込めたお守りなんて売れる決まってんじゃないすか」


「お、お守り!? え? だ……だって拓光君は……魔力なんて……あ。」


 魔法が使えない話をモウスに聞かれるのはマズイと、仲村は仕方なく押し黙った。


「まあ、暴力的なのは止められちゃうっすからねー……頭使わないと……あ、そうだそうだ……」


 なにかを思いついたのか拓光はモウスのところに近づいていく。


「モウスさん? でしたっけ?」


「? はい、なにか?」


「最近……なんか調子悪いでしょ?」


「え?」

 

「いや。悪いんすよ。気の流れ……いや魔力の流れがよくないんすよね」

 

「え? そうなのですか!?」

 

 れ、霊感商法だ!

 

 仲村は目の前でAI相手に霊感商法を持ちかける瞬間を目撃した。

 このまま拓光の思うようにさせてはいけない!

 そう感じた仲村は気が付くと先程まで拓光が一生懸命書いていた大量のサイン……もといお守りの束を掴むと馬車の外に放り出した。


「あ”ーー!!! なにすんすかー!!」 






 ということがあって……今はホラ。パルデンスのおかげでお金には困ってないから大丈夫だけど……拓光君、ホントにちょっと目を離すとろくな事しないっていうか……」

 

「左町さんも仲村さんも……理解できないのはこっちっすよ。この世界で道徳心なんて持ってどうすんすか?」

 

「お前こそ仮想世界で新興宗教の教祖になってどうする気なんだよ……はぁ~」


 ため息が出る……倫理観……倫理観なんだ。拓光よ。

 

「うん……いや……まあいいや。仕事の話をしようか?」

 

 切り替えよう。まあ、なんのかんのと拓光と仲村さんも仲良く? ……やってるみたいだし……よかったよ。

 

「そうっすね。じゃあ……こっちで得たセブンセンスとヨシミツの情報の報告をしましょうか」


「ああ、頼む」


 ……。


 なんもしてないのに……偉そうでヤダな……

 ダメ上司でスンマセン……聞かせて下さい。

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