その8 拓光君は悪いヤツだった
「……モウスさんは転移魔法使えない感じっすか?」
そろそろエンカンに着こうかという頃に、魔法の知識だけは備わっている拓光が質問する。
「転移魔法は大賢者であるタクミ様と我がパルデンスの団長であるドクトゥス様、それとあともう一人……世界でも三人しか使えない超高等魔法です。私などではとても……」
「あー……へー……そうなんすかー」
「ちょ、ちょっと!」
自らの質問で墓穴を掘りそうになる拓光に仲村が焦る。
「エンカンは行ったことないっすから転移魔法使えなかったっすけど……帰りはサクッと帰りましょうね仲村さん」
拓光は動じることもなく息をするように嘘をつく。
「まだっすかねー」と呑気に窓の外を眺めながらあくびをしている拓光の様子を見て、仲村は脅威を感じると同時に頼もしさを覚えていた。
「見えて来ましたよ。エンカンです」
モウスが知らせると、二人は馬車の左右の窓からひょっこりと顔を出し馬車が向かう先を見据えた。
巨大な城壁が見渡す限りに街を覆い。これまた巨大な城や塔だけがその城壁の上から顔を出している。
「うわあ……テーマパークの城とはやっぱ規模が違うねー」
「まぁ、あーゆうのと比べると……前の世界の城はもっとヤバかったっすよ。浮いてたし」
馬車は城門をくぐりエンカンに入る。
無機質に外を囲っていた城壁の外とは打って変わり中は国の中心というだけあり賑わいを見せていた。
「賑やか……っていうか。なんすか? お祭りでもやってんすか?」
「ランドルト王国の建国千年祭が2週間後に控えてますからね。皆うかれているのですよ。千年祭がはじまればさらに賑やかになりますよ」
「千年!? へぇ~さすがファンタジーだね~」
「普通なら、そんなに続かないよね~」というセリフを仲村は呑み込む。
「で? モウスさんの所属してる……えー……パ、パンデミック? だっけ? はどこにあるんすか?」
「パルデンスですね。賢者という意味を持っています。王国でもトップクラスの実力者達が揃っているパーティーですよ。我々のリーダーであるドクトゥス様は王国一と謳われたこともある冒険者です! 特に空間を支配する魔法はドクトゥス様の得意とするところで……」
「過去系なんすね。今は最強じゃないってことっすか?」
「あ……え、ええ……まあ……」
自分のパーティーの自慢話を遮られたモウスは歯切れ悪く返答した。
「2年前……新興の冒険者パーティーが現れてからは、パルデンスは王国一の座を奪われたままです……」
「落ちぶれちゃってるわけっすねー。ははは、大変だ。それでオレに声かけたってわけっすか?」
「ええ……まあ……詳しい話はドクトゥス様がなさいますので、これ以上は……」
歯に衣を着せるつもりもない拓光の言動に仲村は相も変わらずハラハラしていた。
拓光はというと先程までの傷口を抉るような言動も一度もモウスの方を見ずに外を眺めながら行っている。会話こそ交わしているものの「所詮はAI」と割り切っている拓光はこの世界の住人に敬意を払うつもりもないのだろう。
「着きました。ここが我がパルデンス本拠地です」
拓光と仲村が乗る馬車は城のように大きな館の前で止まった。
「へー……すごいお屋敷じゃないすかー。なんか悪いことでもやってんすか?」
機嫌を損ねたのかモウスは答えない。黙って右手を前に出し拓光と仲村の二人を「こちらです」と先導し歩きはじめた。
その様子を見て仲村はなぜか満足げだった。自分の開発したAI達の多用な反応、人間に言われるがままではなく機嫌損ね、無視をするという行動に出ている。
「うー……でも、もうちょい当たり障りのない態度でお願いできないかな拓光君」
「えー……産みの親としては誇らしいっしょ? AIがいっちょ前に拗ねてんのは」
仲村の思考を見透かしたかのような発言に仲村は目を丸くする。
「いや……顔が……そんな嬉しそうな顔してたら察しはつくっすよ」
そうこうしているうちに目的の部屋には着いたようで、モウスは大きな扉の前で立ち止まりコンコンと叩くと
「大賢者タクミ様がお着きになられました」
と扉の向こう側に報告した。
「入ってもらって下さい」
予想より若い声が返ってくると、モウスが扉を開け二人を「どうぞ」と招き入れる。
広い応接室のような部屋の奥。女性かと見紛う程の美少年が立っていた。他にも所属してる冒険者と思わしき男女が2人いたが、その無視出来ない存在感が「この少年がここのトップだ」と拓光と仲村の二人に確信させた。
「名前がいかついからもっとゴツイの想像してたけど……どえらい美少年っすね。どうも。拓光っす。えーっと……」
「パルデンスの代表を務めているドクトゥスです。ハーシー=ドクトゥスです。」
「あー名字がドクトゥス。ハーシーのが呼びやすいっすねー」
「かまいませんよ」
少年はニコリと笑って初対面の無礼な態度を軽くあしらう。その大人な態度に仲村は「ほぉ~」と感心した。
「おかけになって下さい」
目の前の高級そうなソファにすわるようにドクトゥスが二人に促す。
「いや。そんなに時間とられるのもアレなんで、このままでいいっすよ。で? なんの用なんすか?」
度重なる挑発的な態度に隣にいた二人の冒険者とモウスは怒りの形相で拓光を睨みつける。
ドクトゥス本人は気にした様子もなく「そうですか、では」と要件を口にし始めた。
「ウチに……パルデンスに入っていただきたいのです。と言ってもタクミ様もお忙しいでしょうから、千年祭が終わるまでの2週間後までで構いません」
「あ、パスで。じゃあ話は聞いたんでこれで」
そういうと拓光は仲村に「じゃ、行きましょっか」と言って部屋の扉の方へ歩き出した。
拓光以外があっけにとられている中、モウスがいの一番に我に返り拓光を呼び止める。
「お、お待ち下さいタクミ様! まだ要件は済んで……」
「会ってくれって言われたから会ったし、話も聞いてあげたっすよね? オレは忙しくて、ここには所属できないから断った。これで終わりっすよね?」
「そんな……」
食い下がるモウスを一蹴したところで部屋に居た冒険者の男が声を荒げた。
「もういい! モウス! 下がれ! オレがたたき出してやる!」
「そうね。シルバの言うとおり、もう限界……大賢者だがなんだか知らないけど、こっちがここまで下手に出る必要ないでしょう」
そういうと二人は拓光相手に構えを取った。
仲村は拓光の横柄な態度により遂に起きた惨事にどうしていいか分からず拓光に謝罪するよう促そうと袖を引っ張り拓光の顔を覗き込む。
するとそこには薄ら笑いを浮かべ余裕の態度で二人を迎え討とうと構えを取る拓光の姿があった。
え? と仲村は混乱した。なんちゃって大賢者だってことを拓光が忘れているのでは? と……
が、次の瞬間別の思考が頭をよぎり仲村をハッとさせた。
「拓光君もしかして……」
そう仲村が呟いた瞬間
「シルバ! マーレ! 下がりなさい!」
鬼の形相でドクトゥスが二人を制した。
普段、ここまで激昂する人物ではないのだろう。二人は驚いた顔をして、慌てて構えを解いた。
が拓光は構えを解かずにドクトゥスに語りかける。
「あらら……なんなら全員でかかってきてもいいっすよ?」
するとドクトゥスはその場で膝と両の手のひらを地につけ拓光に懇願した。
「失礼は承知の上! しかし! もうタクミ様以外にあの者を止められる人物がいないのです!」
それを見た拓光は構えこそ解いたが相変わらず冷帯な態度でドクトゥスに語りかける。
「しつこいっすね。忙しいのもそうっすけど、こっちはアンタの下に付くつもりなんてさらさらないんすよ」
「それは誤解です! 私達パルデンスは拓光様に導いていただきたいのです! このエンカンの冒険者達の為に!」
その言葉で拓光が構えをやっと解いた。
「ん? それはオレの下にアンタらが付くってことっすか?」
「お前! 調子に……」
その言葉にシルバとマーレが再び拓光に食ってかかろうとするのをドクトゥスが手のひらで制した。
「その通りです。期限は千年祭が終わるまででもそれ以降ずっとということでも構いません。どうか!」
うーん……と少し考えた拓光は
「で? 結局、オレはどうしたらいいんすか? 導くってざっくり言われても困るんすけど」
「タクミ様にはある者を止めていただきたいのです」
「ある者? んー……もったいつけた言い方しないで欲しいっすね」
「2年前……新興の冒険者パーティーが台頭してきて以来、我がパルデンスは王国一の座を追われました。それは別に構いません、強者がいれば互いに切磋琢磨しお互いに高めあえるのですから……しかし!」
冷静に話していたドクトゥスが語彙強める。拓光もさすがに「おう」と気押された。
「千年祭……そこで行われる冒険者による闘技大会があります。そこで勝ち上がったものに与えられる特典が問題なのです! このままではエンカンの……いえ! ランドルト王国の冒険者達は皆、路頭に迷うことに!」
「ま、まあまあ……ちょっと落ち着いて。で? 結局問題のソイツを闘技大会で軽くひねって欲しいと……どこの誰なんすか?」
拓光はいつの間にか興奮したドクトゥスを抑える立場に回っており、そのことに気付いたドクトゥスは再び冷静さを取り戻す為にコホンと一つ咳払いをした。
「その者の名前は『ヨシミツ』冒険者パーティー『セブンセンス』の団長です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます