隣の席の七海さんは、今日も距離感バグってます

つきのわ

第1話 隣の席になった七海さん

 高校二年の二学期。


 席替えで、俺は窓際の後ろの席になった。

 陽も当たり気持ちがよく、窓から外の景色を見て、退屈な授業の時間を潰すこともできる。

 多くの生徒にとっては人気の席だろう。


「ぁ……キミが隣なんだ。

 よろしく」


 ぼんやり景色を見ていたら、ちょっと気怠い感じの声で話し掛けられた。

 反射的に振り向くと、


「な、七海ななみさん!?」


 学校一の美少女と言われる少女が立っていた。


「ん。……莉愛リアでいいよ」


 ちょ!?

 いきなり呼び捨てにしろと!?

 俺たち、話したことほとんどないよね!?


「え……いや、それは、ちょっと……」


「ん? ダメなの?」


 七海さんが、真っ直ぐな目で俺を覗き込む。


「だ、ダメじゃ、ないけど……」


「じゃあ、莉愛で」


「……」


「莉愛」


 圧!?

 そんなにじっと見つめないでくれ!?

 しかもさっきより距離が近い。

 これクラスメイトの距離感じゃないよね?

 俺が彼女の名前を口にしなかったら、これどうなるんだよ!?

 どこまで近付いてくるの!?

 気にはなったけど……自分の身でそれを見届ける覚悟は、今の俺にはなかった。


「り、莉愛……」


 美少女の顔面レベルが高すぎて、屈するように名を呼んでしまう。

 すると彼女は満面の笑みで微笑んだ。


「うん。よくできました」


 同時に思った。

 七海さんは近くで見れば見るほど可愛い。

 こんなに近くで見ても、欠点など何も見当たらなかった。


「それじゃあ……私も……大希だいきって、呼ぶから」


 そっちも呼び捨てなの!?


(……ていうか、俺の名前知ってたのか)


 七海さんのクールな表情がほんの少し緩む。

 嬉しそうな、満足そうな顔で笑った。


(……か、可愛いけど、わけわからん!?)


 席替えで隣の席になった七海さんは、学校一の美少女。

 だけど同時に『学校一の不思議ちゃん』としても知られていた。


(……俺の心臓、持つかな)


 いつもと変わらない。

 そう思っていた日常。

 でも、今日はいつもとほんの少しだけ違う非日常から始まったのだった。

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