記憶喪失になった彼女は愛と嫌悪で壊れていく

……また来たんだ?お疲れ様。


今日も、変わんないよ。


貴方…。恋人のことだけ忘れてる。


心因性だから、自然と治るってこともあるらしい。でも、私は、思い出せないままでいい気がしてる。


……。


……ねぇ、貴方さ。

浮気したでしょ?



…やっぱ、そうだよね。貴方のこと最近知り合った人にしか思えないのに、嫌悪感すごいもん。

顔も見たくない。話したくない。触れられたくない。近くにいて欲しくない。


よっぽど、好きだったんだろうね。


だから、貴方のことが嫌いです。


……やめて?謝って欲しくて言ってるんじゃないの。

思い出なんにもない人にさ、生理的に嫌ってる人にさ、いきなり謝られたら、貴方はどう感じる?


…ただただ、気持ち悪い。


……泣いて謝るくらいなら、私が記憶失くす前に謝って欲しかった。

抱きしめて欲しかった…。



……近付かないでっ!


はぁっ…!はぁっ…!


む、無理なの…!ほんとに…イライラするっ…!

涙が出るほど、貴方が嫌い…!頭が、身体が、グチャグチャになる…!


それなのにっ…!

ううぅ…。


……。


あのね。


…側にいてくれて、むず痒い。心が、悦んでる。

きっと、掻き毟ると血が出るけど、気持ちいい。

多分、愛してる。


……わかる?


貴方に対して!嫌悪感だけがあるのっ!

思い出なんて無いから!憎くて!気持ち悪くて!純粋な嫌悪感に支配されてる!

貴方が好きなの!愛してるのっ!

思い出なんていらない!愛しくて!心地良くて!無垢な愛情に掻き乱される!


もう…だめ…。壊れる…!


反発する感情が辛いと思う!?

そんなんじゃないっ!!


混ざり合うの!ひとつになってるの!

愛と!!嫌悪が!!


少しずつ、私がおかしくなっていってる…。自分が壊れていくのが分かるのに…壊れたいの…!


憎くて…。

お前のせいだっ!!お前に壊されるっ!!


愛おしくて…。

貴方のせいなのっ!!貴方に壊されたいっ!!


苦しいのが…。


ああ…。だめだ…。

意識しちゃった…。

自覚しないようにしてたのに…。


言葉にしたら、終わる…。

もう戻れない…。

でも、限界ぃ…!


あのね…。


苦しくて…。


……。


気持ちいい…。



…ねぇ。たすけてぇ…。

私、もう、壊れちゃってると思う…。


身体が貴方を嫌ってるの…。

浮気した貴方を、拒絶している。


でもね、心が貴方を愛しているの。

大好きなまま貴方を、受け入れている。


……貴方は、私の恋人なんだよね?

だったら…。


無理矢理…抱いて欲しい…。



抵抗するよ?否定したい。

だけど、大丈夫。すんなりと深く奥まで、肯定しちゃう。


見て…?


ほら…。準備、できてるの。


抱かれたくて、疼いてる。

貴方が近くにいるだけで、火照る。


だから、どうしようもなく憎い。

必死に拒み続けてる。


…ねぇ。もう一度、言うよ?


無理矢理に…抱いて…。



……できない?

ふふ。優しいんだね。


…じゃあ、どうすればいいの…?


壊れていくのを見てるだけ!?

疼き求めてるのに焦らすの!?

もうねっ!無理なのっ!限界なのっ!

どうにかしてっっ!!


助けてよぉっ…!


……。


……ね、想像してみて?


貴方を嫌う女。抱こうとすれば、全力で拒絶する。

そんな女を無理矢理に組み敷けば、はしたなく愛を溢れさせるの。


抵抗しながら、悦ぶ。

乱れ蕩けながら、拒む。


涙を滲ませ睨みつけたかと思えば…。

熱を帯びた潤んだ瞳で媚びる…。


そんな女…抱いてみたくない…?


安心して。

私は貴方を全身全霊で愛しているから、何も問題は無い。

心の底から嫌っている女だから、刺激的で楽しめるんじゃないかな?


きっと、苦しくて…。

気持ちいいよ…。


…ねぇ、お願い。

貴方に…壊されたいの…。



グチャグチャに…壊して…?

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