【けものたち】【恋文】【雪解けチョコ】

ジャンル:AIモノ


「朝顔さん! 事件です! 早く現場に来てください!」

 部下の真田の一報を受けて朝顔警部は現場に駆けつけた。

「ここは?」

「十段理恵の自宅です。ほら、AIを使って小説を書いたとかで今、世間で話題になっている小説家ですよ。何でも、空き巣に入られたようです」

「何ですって? まだ言ってなかったかもだけど、実は私も小説家の顔を持っているの。興味があるわ」

「饒舌家の間違いじゃないですか?」

「うるさいわね! いくわよ」


「十段さん、もう一度お話を聞かせていただけますか?」真田が問いかける。

「はい、帰ったらリビングの窓が割られていて、私そこで泥棒と鉢合わせしたんです。相手も驚いて、何も盗らず逃げたみたいです」

「念の為、他の部屋も見せていただけるかしら?」

「はい、どうぞ」

「この部屋は何ですか?」真田が尋ねる。

「書斎です。そこには鍵をかけているので入られていないみたいです」

「怪しいわ、まだ別の犯人が潜んでいるに違いないわ。十段さん、鍵を開けてくださる?」

「え、ええ」朝顔のただならぬ気迫に十段は恐る恐る鍵を開けた。

「朝顔さん、例のシックスセンスってやつですか?」

「そうよ、小説家で事件と言ったら本田の臭いがぷんぷんするわ」

「本田?」

「ええ、プリモだかベルノだかPだか知らないけど、そんなペンネームで暴れている迷惑な物書きもどきよ」

「朝顔さんもあちこちで迷惑かけてますよね」

「うるさいわね! 真田くん、開けて!」

「ダダダダメですよ。飛び出してきた犯人に刺されたらどうするんですか!」

「何どもっているのよ! そんなわけないでしょ! 命令よ!」

「はーい」

「ずいぶん大きな筐体きょうたいのパソコンですね。これが噂のAIかしら?」

「ご存知でしたか、ええ、世間の噂通りです。私はこのAIを使って作品を書いているのです」

「オホッ! AIがあなたの”ゴースト”ライターってことね」

「何でゴーストを強調するんですか? 知らない人もいるんで、分からないネタを突っ込まない方がいいですよ」

「あのぉ、そろそろよろしいでしょうか?」

「待って、せっかくの機会だからAIの性能とやらを見せてもらおうかしら? そうね三題噺なんていかにも得意そうね。じゃあ【けものたち】【恋文】【雪解けチョコ】なんてどうかしら?」

「朝顔さん、さすがにお題の回収雑じゃないですか?」

「お題回収って何よ! そういう世界観無視ヤメて!」

「あれ、でも待てよ。このあとAIが作品書いて、その中でどう回収されるかを見ればいいのか、それならいいか」真田は独りごちた。

「世界観無視ヤメてって言ってるでしょ! 十段さんお願いします」

「え、ええ」

 十段がお題を入力してエンターキーを押した。


「ウーン、ウーン」筐体から動作音と思しき音が聞こえた。

「どれくらい時間がかかるのかしら?」

「そうですね、最低でも三十分はかかります」

「意外とかかるんですね。俺はもっとポンってできるもんかと思ってました」

「大したオチのない話ならもっと早いのですが、やっぱりオチは重要じゃないですか。それで時間を要するのです」十段はどこか落ち着きなく答えた。


 そして、作品が完成した。


【けものたち】【恋文】【雪解けチョコ】

「俺は今日クラスの女子からキモいって言われたよ」田中が情けなさそうに漏らす。

「小生は下駄箱に恋文が入っているかと思ったら不幸の手紙であった」文学マニアのソーセキこと夏目が相変わらずの口調で答える。

「僕は教科書を隠されたよ」いじられキャラの山崎も泣き言を言う。


 三人は、クラスで「キモオタ三人衆」と呼ばれていて、誰からも相手にされず同じ境遇のもの同士、しばしば傷を舐めあっていた。


「なぁ、この前バレンタインだっただろ? 誰かチョコとかもらった奴いるか? 俺は今年もゼロだ」

「小生も貰っておらぬ」

「僕たちが貰えるわけないだろ」

「小生は、諦めるのはまだ早いと考える」

「何でだ? もうバレンタインはとっくに終わってるぜ」田中はソーセキの方に顔を向けて言う。

「君たちは聞いたことがないだろうか? 雪解けチョコなるものを」

「雪解けチョコ?」二人が声を揃えた。

「左様、バレンタイン当日にチョコを渡すのは男子はソワソワするし、渡す方の女子としても、勘付いているであろう相手に『今日が何の日かわかる?』なんて言うのは恥ずかしいものである」

「僕には話が見えないんだけど」

「そこで、あえてバレンタインが過ぎてから、チョコを渡す風習が我が校に根付いているという噂を耳にした。誰が言い出したのか分からないが、雪解けの季節からその名で呼ばれるようになったのではなかろうか」

「やったじゃん、まだ俺らにもチャンスがあるってことだ!」

「いかにも」

 盛り上がりを見せる二人とは対照的に山崎が言いにくそうに口を開く。


「それさ、どちらにせよ僕らみたいなクラスの除けものたちには関係なくない?」



 作品を見て、朝顔の顔色が変わった。

「このふざけたオチに、この文体、……まさか!」

 朝顔がつかつかと筐体へと向かう。

「ちょっと何ですか! やめてください」十段が朝顔の手を掴む。

「離しなさい」朝顔はそう言って手を払うと、筐体のパネルを乱暴に引き剥がした。


 中に本田入ってた。

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