【紫色】【蜘蛛】【おかしな枝】
ジャンル:サイコミステリー
ウーウー
閑静な住宅街にパトカーのサイレンがこだまする。
「警部お疲れ様です」事件現場の部屋に入るなり、一足早く現場にいた若い警官から声をかけられたのはその名を
「状況を報告しろ」実村は冷静に一言だけ言った。
「はい、害者は地元では有名な資産家です。金品を奪われ、絞殺されています。凶器は、……」
「蜘蛛の糸か」実村は紫色に変色した被害者の顔を見て静かに言う。
「はい、これで五件目です。同一犯とみてまず間違いないと思いますが、一体何なんでしょうね?」
犯人は通称「スパイダーマン」と呼ばれている。現場に残された凶器の糸を分析した結果、その組成は蜘蛛のそれと完全に一致した。しかし、その太さは直径一センチに及ぶ。実際の蜘蛛から産み出されたものではないと考えられた。そして蜘蛛の糸というのは恐ろしく頑丈だ。その強度は鋼鉄の五倍、同じ強度なら重量は六分の一程度と言われる。もし、この太さの糸で巣を張れば、飛んでいるジャンボジェットすら絡めとることができるという。
実村は右腕の時計を見た。
「あれ? 警部なんかついてますよ」若い警官はそう言って、実村の脇腹についていたものをつまむ。
「枯れ木? 何でそんなところについてたんでしょう。おかしな枝です……」
「ね」
その瞬間、警官の背後に忍び寄った男が電光石火の早業でその首を締め上げた。
男は人間業とは思えない動きで次々と他の警官を絞殺して言った。残るは実村ただ一人。
「お前がスパイダーマンか」実村はその男に問いかける。
「それは警察が勝手につけた名前だろう? だがそうだな、答えはイエスだ」男はニヤニヤしながら続ける。
「俺の体は蜘蛛の糸を作り出すことができる。俺はこの能力を
「よく喋るな」実村は動じない。
「一瞬で皆殺しにしちまったら、語る相手がいなくて面白くないだろう? もっともお前にも死んでもらうがな」男は実村の正面に立ち、首に蜘蛛の糸を巻きつけた。
「あばよ」男は口元を緩めて吐き捨てた。
ピンッ!
実村は容易く蜘蛛の糸を切り落とした。
「バカな! 蜘蛛の糸は最強だ! そんなバ……」男は薄れいく意識の中で実村の言葉を聞いた。
「悪いな。お前の言葉を借りるなら、天稟を授かったのはお前だけじゃないんだ」
男は崩れ落ちた。
「ミノムシの糸はその二倍の強度だ」
男の首にはいつもと逆向きの索状痕が残された。
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