【火】【苺】【鑑賞用の恩返し】

 ジャンル:学園モノ


 野坂先生が入院した。なんだかよくわからないけど、手術が必要みたい。

 先生だけはアタイみたいなどうしようもない生徒を見捨てることなく熱心に接してくれた。分かってる、先生の優しさは分かっていたけど、何かそこにほだされるのはダサいと思ってツッパることをやめられなかった。

「苺畑で靴紐を結ぶな」

 先生によく言われた。アタイはバカだから意味なんて分からなかったけど、先生は優しく教えてくれた。

「いいかい、節子くん? 靴紐を苺畑の中で結んでいたら、周りの人からは苺泥棒と思われるだろ? キミは根はいい子だ。疑われるような行動はしちゃいけない」

 アタイ本当に嬉しかったんだよ、先生の言葉。だけど素直になれなくてゴメン。

「それとな、正しくは『李下りかに冠を正さず』や『瓜田かでんくつれず』と言うんだ。李はスモモ、瓜田の田は畑のことだ。畑は和製漢字だから畑なのに田なんだな。あと略して『李下の冠』『瓜田の履』とも言って、なんで略すと”に”が”の”になるのかは先生も分からない。それと二つまとめて『瓜田李下』とも言うんだけど、どれか一個でいいんじゃないかといつも先生思っている」


 無駄に話が長いところは苦手だった。


 みんなとお見舞いに行きたいけど、アタイみたいなのが病院行ったら迷惑だよね? 先生ジプリ好きだって言ってた。アタイにできることはせいぜい観賞用の恩返しくらい。ジプリ映画のDVDを包んで、委員長に託した。


「みんな、盲腸の手術くらいでお見舞いに来てもらってすまないね」

「先生、これ節子さんからです」委員長が包みを手渡した。

「おお、節子くんからか。やっぱり根は優しいコだ。みんなも、彼女を見捨てないでやってくれ」そう言いながら野坂先生は包みを開けた。


 火垂るの墓


「……死ねってこと?」


 苺畑で靴紐を結ぶな

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