【卒業式】【PSP】【鑑賞用の世界】

ジャンル:時代小説


 オーパーツと呼ばれるものがある。平たく言えば、その時代にそぐわない古代の出土品なわけだが、今もなおその謎は解けていないものが多い。コスタリカの真球、マヤのクリスタルスカルなどがそうだ。その時代にそのような加工技術はなかったはずなのに、存在しているという矛盾。それは、未来の来訪者による実験なのか、時代は繰り返すのか、はたまた神のイタズラなのか。


 時は正保三年。徳松は江戸城で産声をあげた。将軍の子息という身分から、幼少の頃より何不自由なく育ち、齢五歳の頃には十五万石を納める領主となった。しかし、当の徳松にとっては日々の暮らしは退屈そのものである。人生の目標や夢と言えるものなどない、外出することも自由にできない環境は幼い徳松にはストレスでしかなかった。


 徳松に許された世界は城内だけである。やがて徳松は蔵に入り浸るようになり、ある日そこで何やらおかしなカラクリを見つける。PSPと書かれているが、当然徳松には読めるはずもない。あれこれいじっていると電源が入った。ソフトはペット育成ゲームが入っていた。日本語とは言え、時代の異なる文章は徳松にはほとんど理解できない。それでも子どもの順応性というのは凄いものだ。適当にボタンを押すことで、操作方法を理解した。

 徳松はその観賞用の世界で夢中になって犬を育てた。しかし、数時間で画面が消えた。バッテリー切れである。徳松はわけもわからず、スイッチやボタンをいじるが、うんともすんとも言わない。徳松は悲しみのあまり泣きじゃくった。あくまで仮想の犬に過ぎないはずなのに、大事な生命を失ったという気持ちに心を潰されそうになった。

 だが、失うものがあれば得るものもある。徳松は生命の尊さを知った。生きとし生けるものが尊重される世の中を作ろうと志をたてた。

 やがて月日は流れ、徳松は元服を迎えてその名を綱吉と改める。

 後に、犬将軍として知られるその人である。


 了


「どうですか?」あたしは、担当編集者に恐る恐る尋ねた。

 何としても高校在学中に作家デビューしたい。タイムリミットが卒業式であることを考えると、これが最後のチャンスだと思う。

 担当者は重々しく口を開いた。


「どうもこうも無いね」

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