【灰色】【犬】【最悪のメガネ】

 俺の名はイサム、仲間からはイーさんと呼ばれている。腕利きのスパイだ。だが、そんな俺でも今日の任務はインポッシブル(不可能)に近い。何しろ、昨日忍び込んだ屋敷から苦労して盗みだしたブツが違っているとかで、もう一度潜入しないといけない状態だ。


 昨日の盗難騒ぎで館の警備はさらに厳しいものになっている。とは言え、不利な条件ばかりではない。今日は館の主人の誕生パーティーが開催される。偽の招待状を用意した。これで何食わぬ顔して潜入し、ささっと仕事を終わらせてみせる。

 俺はスーツに身を包み、仲間がもしものために用意してくれた変装グッズの入ったバッグを携える。

 屋敷の門に近づいた時、反射的に俺は身を隠した。

「あれは!?」

 そこには、かつてのユージンであるIMF長官の姿があった。マズイ、なぜあいつがここにいるんだ。昨日の騒ぎが俺の仕業だと踏んで駆けつけたのか。

「どうしたらいい」俺は名探偵ポアロよろしく灰色の脳細胞を活動させる。


「変装グッズあるじゃん」


 俺はバッグを開ける。中に入っていたカツラを被り、メガネに手を伸ばした時に、いいようの無い違和感を抱いた。これって、……


「ひげメガネだよね」


 うん、確かに変装用にメガネを用意しろと言ったよ、言ったけど、でもさこんなんつけてくるやついないじゃん。ちょっとレンズに色が入っているけど、最悪だ、最悪のメガネだ。だが、他に手は無い。俺は覚悟を決め、ひげメガネをかけて門へと歩く。絶対バレると思いつつも平静を装い門を潜ろうとした時だった。


「イーサン……」


 まずい、やはりかつてのユージンの目は誤魔化せなかったか。


「いいサングラスですね」


 バカで助かった。

 俺は無事に門を通り抜けて、玄関へと向かう。その時、足に激痛が走った。


 犬に噛まれた。そうか、昨日残した匂いを嗅ぎつけられたか。俺は警備員に身柄を拘束された。


mission failed (任務失敗)

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