仙台×坂道×危機一髪

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 夏の日、アイスを食べながら。

精也せいや君ってさ、脛に傷持ってるよね」

「失礼な。人に知られてマズイ過去など持っていないよ」

 ぷんすかぷんぷんである。

「いや、慣用句的な意味でなくて、文字通りの意味でね?」

 風子かこが顔の前で、手を振り否定する。

「ああ…」

 半ズボンからのぞく生っちろい脚…。確かに、脛のあたりが薄い茶色に染まっている。

「これね。仙台の坂道でやられたやつ。ガードレールと自転車に挟まって、皮膚が摩滅した。で、ベリベリってデニム生地からはがした。知ってる? 皮膚が無いと、空気って凶器なんだぜ。後ろっ側は青あざ。痛くて二、三日歩けなかったよ」

 顔を上げると、風子がドン引きしている。

「良かったね…」

 どうにかそれだけ言う。

「良かっただとお…?」

 顔を真っ赤にする僕。青い顔の風子。

「仙台名物、坂道で骨折だよ。ま、旬は冬だけど。いやあ、危機一髪だったね。精也君。痛いの数日で済んで!」

 風子の目が泳いでいる。僕は下を向く。

「まあ、数日ということもなかったけど…。どうにか歩けるようになってから、仙台市内ぐるぐる歩いていたら、後でくるぶしが判別できないくらい腫れたもん…」

 それから、仙台では大雪が降ると、バスが走らないから、休校になることと、雪で介護施設のバスがひっくり返って利用者が亡くなった事故もあるのだと教わった。

「仙台の坂道、恐ろしいよ!」

 今更、風子に同意を求める。

「あいつら、ひいき目に見ても、傾斜が45度あるだろ? 水平から測っても、垂直から測っても同じ! で、毎回、『よし、登るぞ!』って気合い入れなきゃだし! 途中、休まないと無理だし! お山のてっぺんにはお天気カメラあるし!」

「そうだねえ。だから、山の上にお城作ったんだよ」

「なるほどね!」

 完全に涙目であった。独眼竜、さすがだぜ。

 ※ちなみに、天気が悪いと古傷が痛みます。

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仙台×坂道×危機一髪 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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