3日目 午前10時35分
私は書斎の扉前で、紅茶を淹れたティーカップを載せたお盆を手に、腕時計の針を見つめていた。
そして、イベント開始の時刻となり、軽くノックをして、返事を待たずに入室した。
「……ああ、俺は、どうすれば良いんだ」
すると、大きな独り言と共に、宗形がデスクに両肘をついて見るからに落ち込んでいる。
「こんな温かい地方で、無線機が通じないほどの猛吹雪が続くなんて、しかも良く分からない生物が近くに棲み着いている。また妻や娘たちのように、何かあったら……私の運の悪さは、やはり呪われているのでは……」
彼が見つめるは、シンプルな写真立て。そこには、幾分若い彼と妻、そして双子の少女が花畑と共に笑顔で写っていた。
私は心の中でガッツポーズを決める。
あの写真が遊麗館の外観を写したものだと、問答無用で宗形が館に潜む怨霊に乗っ取られ残虐の限りを尽くす、本来ならば分岐しない『呪われし幽霊館』ルートに再突入してしまう。(24敗)
私は「御主人様」と一声かけ、彼の目の前にスッと、温かな湯気が立ち上るティーカップを置いた。
「呪いなどありません。運が悪かっただけです」
「いや、しかし……」
「人生において運の総量は決まってるって、保険のCMでスダ君も言ってましたし」
「まぁ、そういう意見もあるが……」
「え? 日本一正統派爽やかイケメンの言葉を信じないんですか? 『他人を愛し、全てを信じて疑わない』がモットーの信々教の幹部だったくせして」
宗形はぎょっと目を見開き、私に顔を向けた。
「な、なぜそのことを……というか君、キャラが変わってないか?」
「それに、あなたの奥様と娘さんたちは生きてます。このルー……いえ、とにかく、もう少しで助けが来るんで、ホント希望を持ってください」
実際、一つたりとも嘘はついていない。私は真摯な眼差しで、猜疑心丸出しの彼の視線を受け止めた。
しばらく緊張状態が続き、ようやく、宗形が小さな笑みをこぼして視線を下げた。
「……そうか、確かに自暴自棄になるのは早計だな。妻にも、そんなせっかちなところを治すように言われていたよ」
曇りのない晴れ晴れとした目をゆるやかに細め、イケオジオーラ全開の微笑みを振りまいて「ありがとう」と彼は言った。私は一瞬心を打ち砕かれそうになるも、『既婚者はNG。NTRは悪』と心頭滅却し、両手で顔を覆って「滅相もございません!」と精一杯耐えた。
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