第39話 さすが忍者、きたない


 しかもこの忍び装束……元がエロゲーのキャラというだけあって、かなり丈がキワドイ。


 大事な部分だけを申し訳程度に隠す黒い布に、肩口から指先までをカバーする腕鎧。さらに胸当ては局部をギリギリ隠すような形になっており、太ももは惜しげもなくさらけ出されている。


 スカートからはガーターベルトが覗き、その上からストッキングを履いているため普段見ることのない足にも色気があった。


 そして原作と同じく日本人離れしたスタイルと金髪。アシュフィールド先生は金髪ロングヘア―なので、そのままの素材で生かすことができる。できるんだけど……。



「うーん、すごくお似合いだと思いますよ?」


「なんだその下手糞な褒め言葉は……いや、いい。そんな真っ赤な顔をされたら、言葉にしなくても考えてることは伝わってくる」


 いや確かにコスプレ撮影はしたよ? でもまさかこんな衣装だとは思ってなかったぞ!? さすがにこれはセクシー過ぎるって。



 しかしどうしてこの先生、こんなエロゲーのキャラクターのコスプレをしようと思ったのだろうか?


 俺は改めてまじまじと先生の姿を見てしまう。すると先生は俺の視線に気づいたようで。恥ずかしそうに足を内股気味にしてモジモジとしている。どうやら自分の格好を見られることに羞恥を感じているらしい。


「単純に忍者のキャラクターが可愛くて好きだったんだよ! だいたい当時の私は日本語を覚えたてだったし、そういうジャンルのゲームがあるなんて知らなかったんだ!」


「それでプレイをしてみたと?」


「お、思いの外面白かったんだ! ストーリーがだぞ!? 捕まったヒロインがアレなシーンは過激で興奮もしたが」


「あ、いいです。それ以上聞くとまずそうなんで」


 なんでコスプレのイベントや撮影所には行かないんだろう、って思ってたけど。これはちょっと無理だ。


 先生が捕まっちゃうか、それか理性を失くした観客が犯罪者になるかのどっちかです」



「や、やっぱり露出度が高いかな!? 日本人がコスプレしているのは見たことがあったんだが、どうも私がやるとHENTAI度が跳ね上がってしまうんだ……」


 そりゃそうでしょうね、そんなドスケベボディをしていたら。


「えと、どうします? クノイチらしく忍んでみます?」


 高身長と大きな胸は全然忍べていないけど。


 原作をプレイしたことは無いので分からないが、少なくとも俺が知っている感じだとシノビっぽくなかった。



「取り合えず、その小道具はしまってください」


「ど、どうしてだ!?」


「ウチには未成年の女子が二人も居るんですよ!? アダルトグッズなんて視界に入ったら教育に悪いでしょうが!」


 ちょっと目を離した隙に、先生はスーツケースからヒワイな秘密道具を取り出していた。しかもまるで四次元ポケットのように、次から次へと止まらずに出てくる。


 ていうか、よくこんなに揃えたな!?



「いろいろと試している内に増えてしまってな……」


「その言葉、アシュフィールド先生の口から聞きとうなかった」


 ウィンウィンと機械音が我が海猫亭の和室にこだまする。


 なんだよもう、俺の息子をひと回り近く大きくした凶悪なブツを見せつけないでほしいんですけど。まさかそれ……使用済みとかじゃないよな?



「しかし堂森。ここ数週間でお前の私に対する態度が変わってきた気がするのだが……」


「だって先生は隙あらばそういうプレイを仕掛けてくるからじゃないですか」


 おかげさまで、こっちは美女耐性がついてきたんだよ!


 顔が良いだけで癖が強い人ばかり、次から次へと現れるんだぞ!?


 もうほとんど驚かないし、動揺しないように努めるようになった。そんなことを考えていると、先生が急に真剣な表情でこちらを振り向いてきた。


 その視線はやけに真剣だ……一体どうしたというのだろうか?


「……これは真面目な話なんだがな」


「せ、先生?」


 あの表情を見る限り冗談じゃないようだ。俺は思わず姿勢を正した。すると彼女は意を決したように口を開く。


「私は、自分が魅力的な女性だということを自覚している。それはもちろん分かっているんだ。昔からよくモテてきたからな」


「そっすね」


 あ、自覚はしていたんですね……。


 でもだからこそ分からないな。なんでこの先生は俺なんかに近づいてくるんだろう?


 俺が内心で首を傾げていると、先生は少し逡巡した後、再び口を開くと――とんでもないことを言い出した。



「……堂森は私のこの身体に欲情しないのか? 興味は湧かないか?」


「その言い方だと俺が変態みたいじゃないですか」


 いやもうね……そりゃあエロいですよ。興奮もしますよ!


 だけどさ、一応こっちだって男だし、先生のその身体は刺激が強すぎるんですよ!?


 でも俺は未成年の女の子たちに囲まれてるし、今さらだけど先生をそういう目で見るのは罪悪感が……。


 そんな俺の内心など知る由もなく、先生は俺の隣に座り距離を詰めてくる。



「あのゲームを通して私は悟ったんだ。性欲とは素晴らしい。生きることへの原動力とも言える。だが社会に抑圧された人間は逆行していないか?」


「ちょ、ちょちょちょ? 何の話ですか?」


「私が生物という学問を修めようと思った理由だ。どうだ、私と一緒に生命の不思議を解き明かさないか?」


 そんな理由!?

 しかもそれ結局、エロゲが勉強の理由じゃないっすか!


 なんでこの人って徹頭徹尾、こちらの抱いているイメージを崩壊させてくるんですかね!? クールで意識高い系の外国人講師さんはもう国外逃亡してしまったじゃないか。


 しかしそんな俺の思いは彼女には伝わらないらしい。なおも彼女は俺に身体をくっつけながら囁いてくる。そして艶やかな声色で誘惑してきた。



「大丈夫だ堂森、もっと自分に素直になってくれ……お前ならきっと受け入れてくれるはずだから」


 いやいやいやいや! そんなわけ無いでしょ!?

 なんでそこまで自信あるんですか!? 絶対に無理ですって!!


 そんなことを考えていた俺だったが、しかし先生の行動はエスカレートする一方で――気がついた時には俺は畳に押し倒されていた。



「せ、先生……!? な、なにを……っ」


「私だって恥ずかしいんだ! だがそれ以上にお前の想いを受け止めてやりたいと思っている!」


「……」


 いやちょっと待って?

 なんでどうしてこうなった?


 そんな俺の疑問に答えてくれる人など居らず――。



「さぁ堂森! もう自分を偽るのはよすんだ! さぁ来い!!」


 もはや彼女の暴走は誰にも止められそうにない。俺に馬乗りになったアシュフィールド先生の顔が近付いてくる。


 そしてその距離は――ゼロになった。


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