【第1部完】黒猫娘の恩返し~廃業寸前の民宿オーナーですが、黒髪美女を拾ったら美少女の客が集まるようになりました。だけど嫉妬深めな義妹に殺されそうです〜
第26話 「お兄ちゃん、この車のハンドル変なのー」
第26話 「お兄ちゃん、この車のハンドル変なのー」
12月に入って2回目の土曜日。
いっそう冷えてきた冬には嬉しい晴れの天気で、ポカポカとした日差しが庭を照らしていた。
海猫亭の前にある道で、俺はこれからやってくるであろう客人を待っていた。
「お兄ちゃんにお友達ができたのは嬉しいけれど、ちょっと女性が多くない?」
隣には、妹の陽夜理が立っている。
今日の格好は毛糸の帽子にダウンジャケット、そしてミニスカートという出で立ちだ。
寒くないのか?と思うのだが、全然平気らしい。これが若いってことなのか……。
「俺が女の人をチャラい男みたいな言い方はしないでくれ。まぁ、呼んでいるのは事実かもしれないけど……」
別に好き好んでいつも女の人を連れ込んでいるわけじゃない。たまたまそういう時があるだけだ。
「……なんだか最近、お兄ちゃんが変わっちゃった気がする。ヒヨになにか隠してない?」
「え? おま……え?」
反論しようと口を開けた途端、妹はプイッと顔を背けた。
ま、まさか俺が華菜さんと×××しているってバレたのか!?
「だって華菜お姉ちゃんたちが来てから、あんまりヒヨに構ってくれないんだもん……」
拗ねたように小さく呟かれた妹の予想外の答えに、俺は言葉に詰まってしまった。
「ごめんな、ヒヨリ。最近いろいろと環境が変わって考えることも増えて、兄ちゃんも余裕が無くなっていたのかもしれない。そうだ、クリスマスは二人っきりで遊びに行こうか」
「ホントに!? やったぁ!」
んばっ、と両手を上げて飛び上がった陽夜理は、その勢いのまま俺に抱き着いた。
そして俺を見上げた妹の顔は、太陽のように眩しい笑顔だった。
「ふふ。これでまたお兄ちゃんがヒヨだけのものになるわね」
……今、何か聞こえなかったか?
いや気のせいだろう、俺も疲れてるんだな……。
そう納得し視線を庭へと移すと、遠くから車のエンジン音が近づいてきた。どうやらもう時間らしい。
俺は陽夜理をゆっくりと引きはがすと、誘導するために道へ出た。
俺たちの前に一台の車が停まり、中から一人の女性が姿を現した。
車から降りてきたアシュフィールド先生はいつもの白衣姿ではなく、インディゴブルーのパンツルックにふわモコな白セーター。その上にカーキ色をした、長い丈のミリタリーコートを羽織っていた。
背が高くてスラっとした体型のイギリス人というのがあまりにもハマっていて、思わず見惚れてしまった。しかもサングラスまでしているものだから、まるで映画女優みたいだ。
「はわぁ~。お兄ちゃん、凄い美人さんだね」
陽夜理もポカンと口を開けている。まるで餌を待つひな鳥のような顔だ。たぶん俺も同じような表情をしていると思う。
しかも先生の乗ってきた車、左ハンドルの白い車なんだけど……コレってもしかして。
「見て、お兄ちゃん! 車の前の方に、扇風機みたいなマークが付いてる!」
「ちょっ、それは触っちゃダメなやつだヒヨリ!」
車には詳しくないが、これが高級車なんだってことは想像がつく。
「ははは。この子が堂森の妹か? 触るぐらいなら全然いいぞ?」
「やめてくださいよ先生。弁償とかになったらウチじゃ払えませんって」
そんなことは百も承知なのか、ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべている。まったく、シャレにならないから止めてほしい。
「それにしてもアレだな。堂森家は可愛い子が多いな? ここはアイドルの養成所か?」
「え?」
先生の視線の先を追う。そこには海猫亭の中からこちらの様子を窺う3対の目があった。
カーテンに隠れているつもりなんだろうが、砂霧親子と和音だということはすぐに分かった。
「す、すみません先生」
「クックック。私もこんな
クスクスと笑いながら手を振って「気にするな」と言う。
おぉ~。これが大人の対応ってやつか。まだ26歳とは思えない精神年齢の高さだ。
「ふぅ~む。これなら動物より、美人スタッフをウリにした方が客寄せになるんじゃないのか?」
「へ? ヒヨが?」
「発想がオヤジですよ先生。ウチは健全な宿なんですから、動物の方で癒されてください」
「む~、それもそうか。だがこの素材を活かさないのは勿体ないな」
顎に手を当てながら、まじまじと陽夜理の顔を見下ろすアシュフィールド先生。その姿は完全に女性を品定めするエロジジイだ。
いつまでも寒空の下で話していても仕方が無いので、俺はさっさと駐車場へと案内する。
敷地内にある駐車場はしばらく使っていなかったけれど、昨日のうちに整備しておいた。冬場なだけあって草むしりも楽に済んで良かった。
「ほぉ~? 外から見たら年季がある建物だと思ったが、なかなか良い感じの宿じゃないか」
暖かい屋内へと案内すると、内装を見た先生が感嘆の声を上げた。
「あはは、綺麗でしょう? 元々は祖父が住んでいた古民家だったんですけど、父の代で民宿用にリノベーションしたんです」
「なるほど。雰囲気もあるし、これだけでも来ようと思う人が居るかもしれないな」
玄関にある立派な柱に手を触れながら、興味深そうに中を見回す先生。建物を支えている
だけど俺たちが日常的に使っている部屋も含め、壁紙や畳なんかは新しくなっている。
もちろんエアコンなんかの空調関連も完備しているし、トイレも数年前に交換したばっかりだ。キッチンだって広々としている。だから住む分には何にも困らない。
「へぇ……たしかにこの宿を手放すのは心苦しいだろうな」
ひとまず案内した客室で、先生は感心したように再び大きなリアクションをする。
物珍しそうに室内を眺めていたそして一通り見ると満足したのか、コートを脱いで畳へと座った。
そのタイミングで陽夜理がお茶を運んできたんだが――……。
「ありがとう。……いただくよ」
なにやら意味ありげな視線で、ズズズとお茶をすすり始めた。
なんだろう、何か気にかかるところでもあったんだろうか?
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