【第1部完】黒猫娘の恩返し～廃業寸前の民宿オーナーですが、黒髪美女を拾ったら美少女の客が集まるようになりました。だけど嫉妬深めな義妹に殺されそうです〜

第3話 妹の機嫌取りなんて朝飯前っすわ

　朝食のメインは、とりたての卵で作った特製ハムエッグトーストだ。

　それを我が家の小さなコックである妹の陽夜理（ひより）と食べながら、今日の予定について話していた。

「今日は午前中に講義があるから、兄ちゃんは大学に行ってくるよ」

「もきゅ！　もぐもぐもぐ……」

「帰りにスーパーで食材を買ってくるけど、陽夜理は夕飯に食べたいメニューはあるか？」

「もきゅ？　あるあるっ！　ヒヨ、お兄ちゃんのチーズインハンバーグが食べたい！！　デミグラスソースで！！」

　陽夜理は俺の問いにすぐさま答えた。

　小さな口で啄（ついば）むように食べているせいで、口の周りいっぱいにパンの食べかすが付いている。

「（こういうところは、まだまだ子供なんだよな）」

　マナーなどは今は亡き両親の代わりに、厳しく注意しているつもりなのだが――

「（ま、可愛いし良いか）」

　――多少甘くなってしまうのは仕方のない話だろう。

「ヒヨリは相変わらずハンバーグが好きだなぁ。じゃあ汁物はクリームシチューにして、デザートはプリンにでもするか！」

「やったぁ！　お兄ちゃん大好き！！」

　パンくずをパラパラと落としながら椅子を駆け降り、俺にぎゅ〜っと抱きついた。

　くっ、なんだこの尊い生き物は。天使ヒヨリエルか？

　――前言撤回。多少甘やかすどころじゃない、俺は間違いなく重度のシスコン野郎だ。

　恐らく今の俺は、だらしのない緩みきった顔を晒しているに違いない。家の中ならまだしも、外で見られたら事案になりそうだ。

「か、可愛い妹を喜ばせるのは兄として当然だろう。だからヒヨリもお兄ちゃんの為に、良い子にしているんだぞ？」

「ヒヨはいつも良い子だよ？」

「あぁ、でも家だけじゃなくってさ。学校でちゃんと勉強して、友達ともたくさん遊んでくるんだぞ？？」

「え……」

　腰にグリグリと頭を擦（こす）り付けていた陽夜理が、兄のセリフを聞いてピシッと固まる。

　ギギギ、と見上げた顔は天使のソレ（エンジェルスマイル）ではなく、般若の顔だった。

「ヒヨはいつもお勉強してるもん！　今は友達だって沢山できたんからね！！　意地悪なお兄ちゃんなんて嫌い！　べーーっだ！！」

　陽夜理は兄にそう吐き捨てると、廊下に出てトトトト、と走って行ってしまった。……洗い物はキチンと流しに置いてから。

　食事を作ってもらった者が後片付けをする。それが堂森家のルールなので行儀は良いのだが……愛する妹に「お兄ちゃん嫌い」と言われた俺は、あまりのショックで思わずフリーズしてしまう。

「今日、大学休もうかな……」

　パン屑がビッシリとついている己の脇腹を見つめながら、シスコン男は独りガクッと項垂（うなだ）れた。

　◇

「よう、相護（そうご）！！　おいおいなんだよ、そんなシケた顔をして？」

「別に何でもねーよ」

　結局俺は大学をサボることはせず、重い足取りで講義室へと向かっていた。

　そんな俺に声を掛けてきたのは、大学で出来た友人の公太だった。

「なんだよつれねーなー。悩み事でもあんなら、親友であるこの俺がいつでも相談に乗るぜ？」

「だから何でもないって……」

　コイツはいかにも"大学デビューを目指してます！"という痛いヤツで、女からモテる為だけに生きている典型的なアホだ。

　常日頃からヘラヘラとした男なので、やがて付いたあだ名はハム太。それを聞いた本人曰（いわ）く、可愛いから嬉しいとヘラヘラと笑っていた。ヘケッ。

「うわ、くっさ……公太お前、また変な香水買った！？」

「いい匂いだろ？　今回はちゃんとAmaz○nで下調べしてから買ったんだぜ？」

「お前なぁ、口コミの情報を鵜吞みにするなってあれほど言っただろうが」

　この男、モテるための行動力は半端ないくせに、間違った方向性に突っ走るクセがある。

　前回だって自分の手で髪を金色に染めようとして、大失敗。まだら模様のライオンになったり。

　服屋ではモデルのマネをすれば間違いないだろうと言って、丈（たけ）がまるで合っていない服をネットで丸々購入。あまりに袖（そで）が長いので、キョンシーというあだ名がつけられたり。

　そして今回が香水だ。どうせ変なうたい文句に釣られたんだろう。

「だってよぉ。特殊技法で抽出した男性ホルモン配合で、女性がホイホイ寄ってくるって書いてあったんだぜ？　これってもう、媚薬みたいなもんだろ！」

「……この大学、そこそこ偏差値高いのにお前よく受かったよな」

「可愛い女子が多いって有名だからな！　頑張って勉強したぜ！」

「あ、そう……」

　眩しい笑顔を向けられ、俺は適当に言葉を返すことしかできなかった。

　……まぁこの男も悪い奴では無いんだけどな。

　公太も俺の家庭事情を知っていて、両親の件のゴタゴタで大変だった時期に色々と支えてくれた面倒見の良い奴だ。陽夜理の件で相談にも乗ってくれたしな。

　……あんまり認めたくは無いが、親友と言っても良いのかもしれない。

「あ、分かった！」

　そんな公太が何かを思い付いたのか、パチンっと指を鳴らした。

「シスコンの相護がそれだけ悩むってことは、どうせヒヨリちゃん関連なんだろ？　イケメンの公太さんを紹介してほしいとでも言われたか？」

「――ほう？　貴様、ついに童貞のまま死ぬ覚悟ができたのか」

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　作者「公太のモデル？作者の実体験？はて、何のことですｓｓｓｓ（震え声）」

　続きは1/14の19時過ぎを予定！

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